4
壁を背にしたまま、ナタリーはそう吐き捨てた。
彼女は
故に襲ってくる者はおらず、ナタリーはじっくりとトルトと圭を観察し――思索にふけるだけの時間があった。
(……実際、あの教師は
〝記憶がねえんだ。俺にはよ〟
(――あれは本当で、今記憶と共に力も取り戻している最中、ってことですか。まったく
「コーミレイさん」
視線を動かさず、頭を壁に預けるようにして視界を
神妙な顔をしたシャノリアが、彼女を見下ろしていた。
「何か用ですか」
「傷。終わったらすぐ治してあげるからね」
「大丈夫ですよ。このくらい自分で治せますから」
「顔の傷を甘く見ちゃダメ。処置甘いと
「……ではお願いします」
「……
「
「ご、ごめん。なんかちょっと嬉しくって」
「で? そんなものが近寄ってきた理由じゃないのでしょう」
「……どうしてすぐに戦いを降りなかったの?」
『おおっとぉ!? もはやゲームなど関係ない領域に入りつつある二組のカップルゥ!! ルールのことは既に全く頭にないのかぁ!? ってかいい加減にしてくれー! 主催者たちが困っているゥ! 「一部企画倒れでしたね」と
「言われてますけど」
「私は生き残ってる
「はあ」
「よく分からないけど、ケイには戦う理由があるみたい。でも顔の怪我を気にするくらいなら、コーミレイさん的にはゲームを降りる道以外選ばないんじゃないかな、って思ったのね。それなのに、あなたはここにいる。それは――」
「無論、私にも目的があるからです。彼の
「そうよね。そこは疑ってなかったわ」
「何を疑っていたんです?」
「えっ? あっ……もう。ホント
(あなたが下手なだけでは?)
「疑い、っていうと聞こえが悪いわね。ただ疑問なだけ。単刀直入に
「耳が早いですねぇーェどこで情報を仕入れられたのやら? これはあそこの筋肉先生にも言えることですけど」
「アルクスのフェイリー君から連絡があったの」
「そんなに早くですか? へーェ」
「もっと大人を信用してもいいんじゃない?」
「信用なりませんよ。連絡があったのでしょう、校長の件も」
「……そうだけど」
「大体大人は信用ならないのですよ」
「そんな子どもみたいな言い方――」
「そんなことを私が言うとお思いで? だったらもう話したくないので消えていただけませんでしょうか」
「だ、だったらどういうことなの? 『大人は信用ならない』って――」
「
言葉を切り、ナタリーは一瞬、シャノリアの目を穴のあくほど見つめた。
シャノリアが目をぱちくりさせる。
「……内乱関係者は信用ならないってこと? でも、それってちょっと暴論じゃ――」
「もっと広義に『内乱が始まるより前から生きていた方は信用ならない』ということですよ」
「それも……ちょっと言い過ぎなんじゃない?」
「はてそうでしょうか?」
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