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「……心配してるのか? めずらしいな」

「だァれがテメーの心配をしてますか????? 排便はいべん映像えいぞうプレジア中にバラきますよホントいつまでもそういうこと言ってると。…………言ったでしょう、大きな迷惑めいわくをかけるから言ってるのです」



 ナタリーが教室の入り口を、指で示す。

 見ると、そこにはやはり――気持ち半眼はんがんになっているように見えるパールゥが、無表情でこちらを見つめていた。



 他人に迷惑をかける……やれやれだ。一体どういう方向の迷惑なのやら。



「……お前は何か知っているのか。『痛みの呪い』について」

「いいえ。『痛みの呪い』についての情報は、これまで厳重げんじゅう秘匿ひとくされてきているので。私の家の力をもってしても集められていません。現時点では貴方の方がおくわしいかもしれませんね現時点では」

「変なとこで対抗心たいこうしん燃やすな」

「ですが、」



 ナタリーが顔をうつむかせ、両手でニット帽をかぶなおす。



「だからこそ、この機を逃すつもりはありません。『痛みの呪い』の開発者がこんな形で割れて、情報をひた隠していた何者かは絶対に狼狽ろうばいしているはずです。ほころびは必ずある。その糸口をつかんで、私は必ず真実に辿たどり着いてみせますよ。必ず」

「…………」



〝誰に何を話すべきなのか、誰を信用すべきなのか〟



「……ナタリー」

「はい?」



 眉根まゆねを寄せ、きょとんとした顔を向けてくる黒髪くろかみピンクニットの少女。



〝――ケイ・アマセ。いいや、アマセケイ・・・・・君〟



 …………馬鹿な。話したところで何になる。



 顔をうつむかせ、目をらした。



「何でもない。悪かった」

「な……何ですか、いつにも増して暗い顔で……まさか、学祭がくさい期間中ずっとその調子なんじゃないでしょうね? 勘弁かんべんしてくださいよ鬱陶うっとうしい」

「ああ」

「…………もう」



 ナタリーが顔をしかめ、俺の顔をのぞき込んできた。



「何に悩んでようと貴方あなたの勝手ですがね、それと学祭これとは話が別でしょう。仮にも学生であるのなら、たまには学生らしい行動もしなければ。本当に我武者羅がむしゃらに情報を求めるのなら、多少は環境かんきょう迎合げいごうすることも覚えなさい」

「わ、わかった」

「ふん……全く、なんで私がこんなことをしてるんですか。シッシッ、早く行きなさい。あの最近嫉妬しっとぶかくなってきたにあらぬ勘違かんちがいをされてはたまりません」

「俺とお前は好き同士には見えんだろ」

一々いちいち口でおっしゃらなくてもいいですからよ行ってください、制作せいさくがかりちょういそがしいのです! はいポスター!」



 ポスターごと突き飛ばされるようにして、よろけながらパールゥの下へ向かう。

 近付いた俺を一目見たパールゥは、特に何を言うでもなく俺の先を歩き始めた。

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