こんなにも行きたかった異世界 -最弱の少年は、ただ復讐のために魔女の手を取り力を求む-

2

　ロハザーの声が尻切（しりき）れる。

　ヴィエルナの焦燥（しょうそう）とは裏腹（うらはら）に、ナイセストは悠然（ゆうぜん）と彼女の前に立った。

「…………！」

　地に押し沈（しず）められてしまいそうなほどの魔波にも負けず、ヴィエルナは顔を上げて相手を見る。

（……おかしい）

　違和感（いわかん）に気付く。

　自分は何故（なぜ）、こんなにもナイセストの魔波（まは）を重く感じているのか、と。

　ナイセストの背後に、複数の闇の弾丸が装填（そうてん）される。

「！！」

「逃げろヴィ――」

　背後のロハザーが言い切る前に、ヴィエルナが跳（と）ぶ。

　瞬転（ラピド）。片膝（かたひざ）を着いた姿勢から、鮮やかにナイセストの脇（わき）を擦（す）り抜け、

　躓（つまづ）きよろけ、ナイセストに無様（ぶざま）にぶつかった。

『！！！？』

　会場が驚愕（きょうがく）に包まれる。

　圭（けい）やロハザーも酷（ひど）く困惑した様子でそれを見つめていたが――最も戸惑（とまど）っていたのはヴィエルナ自身であったろう。

　目を見開くヴィエルナ。

　彼女は、ナイセストに抱（だ）き留（と）められるようにして寄りかかっていた。

　乾（かわ）いた音が二発。

「ッ！！」

　マリスタが表情を一層険（いっそうけわ）しくする。

　ナイセストは寄りかかったヴィエルナを一目見ることも無く、右手でヴィエルナの頬（ほお）を叩（はた）き――よろけた彼女の顔を、更に左手の甲（こう）で叩き飛ばしたのだ。

　吹き飛び、倒れるヴィエルナ。

　ナイセストはわずかに体を捻（ひね）り、倒れた少女を見下ろした。

　再び、圧倒的な魔波（まは）が彼女を襲う。

　ヴィエルナの口元には、痛々しい紫斑（しはん）がにじんでいた。

「……ねえ、ケイ。もしかして、ヴィエルナちゃん今……瞬転（ラピド）を失敗したの？」

　マリスタが言う。

　その声色は、圭の返答など必要としないほどの確信を帯（お）びていた。

「……そのようだな」

「そんなことある？　ヴィエルナちゃんが瞬転（ラピド）を失敗するなんてさ、だってさっき、」

「ああ。あいつが単純（たんじゅん）に瞬転（ラピド）を失敗しただけだとは、誰も思っていないだろう。――だとすると、これは――」