11



 けいが目を細める。

 同様の疑問を、今まさに――ナイセストと拳を拮抗きっこうさせているヴィエルナも感じていた。



 相殺そうさいしたこぶし威力いりょく反動はんどうが二人を激しく後退させ、両者は足をん張ってそれにえる。

 間髪入れず瞬転ラピド

 腕をぶつけ合い、両者が初めて止まった。



「………………」

「………………」



 観覧者かんらんしゃ安堵あんどが聞こえる。

 息をするのを忘れて戦いを見守っていた者達が、次々と息を吹き返して空気をゆるませる。



「……どうして」



 疑問をおさえきれず、ナイセストを見つめる少女が口を開き、



魔法まほう、使わないの?」

「――――――、」



 ――――ナイセストは、即座そくざに答えられなかった自分に驚いた。

 そして、



「――お前はヴィエルナか?」



 全く意図しなかった言葉が口をき、また驚いた。



 彼の言葉をせず、ヴィエルナがまゆをひそめる。

 ナイセストにしては歯切はぎれの悪い、要領ようりょうを得ない質問。



 ゆえにそれは、鼻につきすぎた。

 ヴィエルナにとっても――ナイセスト自身にとっても。



(――どうして俺が、魔法を使わなかったのか)



 おごりりではない。

 何故なら彼の中で――――表層ひょうそう的な理由は、はっきりしていたのだから。



(――俺は、ヴィエルナの戦い方に・・・・・・・・・・合わせていた・・・・・・



 かなめはその裏。

 すなわち――――どうして自分が、彼女の戦いに合わせていたのか、ということ。



 再び、ヴィエルナの突進。

 ナイセストは、拳を受け止めようと手を伸ばし――



「あなたも、迷っているの?」



 ――一瞬で肘打ひじうちへと転換てんかんされた拳を、辛うじて曲げた左肘ひだりひじで防いだ。



 再び力でり合う二人。

 ヴィエルナがナイセストを見つめる。

 ナイセストは、――いまだ、先のヴィエルナの言葉の意味を理解できていなかった。



(――理解・・?)



「……私、少しでもたくさんの人を、笑顔にしたい。だから、私は風紀ふうき委員いいん。アルクスを目指す、義勇兵ぎゆうへいなの」



 ナイセストは大貴族だいきぞく

 その務めにじゅんじ、貴族達の格を見定め続けてきた。

 ナイセスト・ティアルバーという身体がそれ以上を求めることはないと、思い続けてきた。



(そんな俺が……今、ヴィエルナ・キースを・・・・・・・・・・理解したがっている・・・・・・・・・?)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る