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 咄嗟とっさに見たその棒には見覚えのある、水色の宝玉ほうぎょく



 緊張したまま動かした目線の先では――――黒装束に一方的に追い詰められる、アルクス兵士長の姿。



「兵士長……!?」

「ぐっ……!!?」



 渾身こんしんの力で繰り出されたであろうペトラの右の蹴り。

 しかし黒装束は妙に揺らいだ体捌たいさばきで足を右の脇腹と腕の間にはさみ込み、絡み付くように右手で足をつかみ引っ張り――体勢を崩したペトラの右蟀谷みぎこめかみへ、握り込んだ人差し指と中指の第二関節を突き刺した。



「づ、ァ……!!」



 体をふらつかせながらも体勢を立て直し、攻撃の手を休めないペトラ。

 しかし、それら鮮やかな白打はくだを連撃する兵士長が――――まるで蛇のような動きの黒装束に軽々翻弄ほんろうされ、次々と急所に打撃を受け続けていく――!



「あいつ、聞いていたよりずっと……!?」

「がっ――ッ!!?」



 鞭のように振り下ろされた手刀しゅとうがペトラの首根くびねを打ち、ふらついたペトラを前に黒装束が左拳を――



ぬるい』



――握ったと思ったときには、既に「発射」されていた。



 ひじから出た青白い光――あれが話に聞いた「ジェット」とかいうやつか?――によって急加速した拳がモロにペトラのほおをブチ抜き、顔から飛んで壁を砕き割る。



「ってか……しゃべった……!?」

『ヌルいヌルーい。こんな奴らにこの国は……宝の持ちぐされ』



 機械化された声で喋りながら、黒装束が矢をあらぬ方向へ放つ。

 その先には――



「!……?」



 ――黒装束を水泡に捕らえている、シャノリア?



「ッ!」



 直前まで眼前の敵にばかり気を払っていたらしいシャノリアが矢を避け、放たれた数発のうちいくつかが水泡を貫き――黒装束は解放される。

 その黒装束は水を飛ばしながら瞬転ラピド、水滴を落としながらもう一人の黒装束のかたわらで床に片膝かたひざを着く。



『無理禁物。何度も言わすな』

『ですが……』



 わずかに聞こえる二人の黒の声。

 プレジアを襲った黒装束共はいやに均一きんいつに整えられた集団だと感じたが……こいつらにはやけに個性を感じる。

 そして何より――



「実力にバラつきがあるな。あいつら」

「うん。それに兵士長を吹き飛ばしたあの人が、たんぶん三人の中で一番」

『までもほぼったね。あの美女、今度はしっかり足止めしといて』

『……はい』

『他全部私やる』

『!!』



 強い方の黒装束が腰元から白くつばつかもない剣を抜き、こちらへ迫る。

 やはりこんな半端はんぱな隠れ方をしても無駄か。



「ココウェルッ! さっきの――」

「ああ、あるあるッ! 隠れ場所あるッ!」

「そこへ逃げろッ!――リリスティア、頼む!」

「分かった!――アマセ君、気を付け――」

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