17

「小さい頃、散々見せたやつだよ」

「小さい頃……あっ。もしかして……召喚獣しょうかんじゅう?」

「そう。正しくは召喚魔法ね」

「あれでしょ? あの、小さい動物とか見せてくれたやつ! えっ、あれってたしかスゴい難しいって――」

「極めてみたくてな。だから大学府だいがくふを出てから、本腰ほんごし入れて勉強してたんだ。著名ちょめい召喚術師しょうかんじゅつしの所を回ってね。大学府じゃ、教員の資格を取ることに注力しすぎたからな」

「へー……すっご。だからいなくなってたのか」

「やればやるほど面白かったよ。おかげでよく身に付いて、色んなのが召喚できるようになった」

「ど、ドラゴンとか!?!」

「ガキの頃と同じこと言うなよ……まぁ、また今度見せてやるってことで」

「すっっっごーーーー!?! えっ、マジ!? とうとう出来るようになったんだ!」

「苦労したけどね。小さい頃みせたのとは比べ物になんないの見せてやるから、楽しみにしとけよ」

「うん!!!」



 キラキラと目を輝かせてマリスタ。

 その瞳を受けて、サイファス・エルジオは胸をで下ろしながら笑った。



「やっと見せたな。フツーの笑顔」

「え?」

「え? って、ずっと落ち込んでただろ、さっきまで。いや、今でもか」

「べ……別に落ち込んでは、」

わかるんだよ。お前は顔にも体にも、解りやすいくらいハッキリ出るんだから」

「そ……そんな出るかな」

「ああ、出るね。子どものころと変わってない」

「……変わって、ないかな」

「ああ。マリスタ・アルテアス四才・・に散々引っ張りまわされた俺が言うんだから間違いない」

「ほんっっっとにごめんてばそれは!!!……もう痛まない?」

「痛まない痛まない。もう十年以上前の軽いケガなんだから」

「ご、ごめん……」

「謝るなって。単なる笑い話だよ」

「あの時のこと、はっきり覚えてるの。私、崖っぷちにえてた花が欲しくなって……それだけのことで」

「じゃあ良かった」

「え?」

「今も覚えててくれるくらい、あの花が欲しかったなら……俺は取りに行って良かった。お前はケガ一つしてなかったし、もっと良かった」

「あ…………」



 マリスタが、申し訳なさそうな顔でサイファスを見る。

 サイファスはいたずらっぽく笑い、その目に応えた。



「そのときからだったもんな。お前が俺にべったりになったのはさ」

「そ……そうね。そう。ほんと。ズ過ぎて思い出したくないくらい」

「俺は今でも鮮明に思い出せるけどね。会うたびにべったりで二言目には」

「ばばばばかサイファス言わなくてい――」

「『ぜったいさいふぁすのおよめさんになる』、って」

「ぱんち!!!!!!!」

「うごっ?!――い、いった……パンチの威力いりょくはバカみたいに上がってるなお前っ……!」

「いいい、言わなくていいことを言ったばつっ!」

手厳てきびしすぎだろ……ハハ。でも、久しぶりにもらったな、いいパンチ。これもまたうれし、だ」

「へ、ヘンなこと言わないでよ……もうっ」

「いや、別に嬉しくはないか。懐かしい、だな」

「そんなパンチしてた私……?」

「そりゃもう。連続パンチだよ。ケンカしたときなんて必ず」

「し、したね確かに、ケンカは……」

「はは。でも、すぐに仲直りして。その後は、必ず手にひっついてきた」

「……それも、してたね」

「あ、見て。あのもっと近いとこ、空いてる」

「ん?」



 サイファスが指差す方向に目を向けるマリスタ。

 そこには人で賑わう会場の中、確かに空いている二人分のスペース。



「お、ホントだ。チャンスよサイファス、かきわけてでも――」

「ああ」



 サイファスが、マリスタに手を差し出す。



「――――――」

「行こう。人ごみに入るから、はぐれないようにな」

「――――う、うん」



 マリスタはその手を、手でそっとつかんだ。

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