6



 剣戟けんげき

 煙が足元に迫る中、一対の氷剣で一刀の白き軌跡きせきさえぎる。



「ッ畜生ちくしょうが、――リリスティア!聞こ、うっ、ァ――――ッ!?」



 ――厄介なのは黒装束の、絡み付くような体捌たいさばきでのほぼゼロ距離きょり攻撃。

 俺の体にまとわりつくような近さから、関節を生かした死角からの一刺しを何度も喰らってしまう。

 アルクスのローブがなければ致命傷だ。

 そう長くはもたない……!



「くそっ……」

「アマセ君どこなの!? 位置が――魔波が感知できないの!!」

「来た道を戻る! そっちに応援に来てくれ!」



 煙から逃げ、来た道に背を向けたまま戻る。

 黒装束はこのかんに俺と決着を付けてしまうつもりだろう、一切の容赦ようしゃなく俺を追い、責め立ててくる。

 加えて場所の悪さ。この狭さでは、瞬転ラピドも片手剣も上手く活用できない。

 氷剣を消し、短剣へと錬成れんせいし直す。



 その上、さっきの発煙弾スモークグレネードから出た煙……恐らく電波欺瞞紙チャフの一種だ。

あれが煙の中で魔波まはを乱反射させ、俺達が互いに位置をつかめないようにしている。とにかく一刻も早く逃れなければ――



「づッ!?」



 ジェット音。

 頭頂部を鉄がすべる感覚。



 瞬時に迫った短刀に思わず下げた頭を戻し切れないうちに、黒装束は俺の真横の鉄格子を両手でつかみ軸とし、勢いそのまま――振り返った俺の視界で体を発条バネのようにしならせ、



「が、あッ――――――!!!」



 ジェットにより急加速した黒き両足のむちが、俺をもと来た道とは違う通路へと吹き飛ばした。

 これではリリスティアとの連携は――――いや。どの道、今は・・耐えるしか方法は無い……!



「――ハァッ!!」



 脇差わきざし程度の短さの氷剣を錬成れんせい、黒装束に打ちかかる。

 敵は俺の得物以上に短いたった一本のサバイバルナイフで、悠々とそれに応氷剣が折れた。



「!?ッぐ、ぁ゛アアッッ……!」



 ――避けきれなかったナイフが俺の頬骨ほおぼねけずり裂く。

 耳元をかすめるは聞き慣れない高い音。

 それは距離を取った黒装束の手にある――――黄緑色に発光しながら刃を高速振動させるナイフ。



高周波こうしゅうはブレードまで実現できんのかこのトンデモ世界……!」

『――――』



 一閃。

背にしていた石壁が、頭上でナイフにあっさり斬り裂かれる。

低姿勢でび逃れ、黒装束へ向け凍の舞踏ペクエシス

狭い通路であることが幸いし、敵の接近を遅延させることに成功する。



 ……目一杯退がり、周囲をよく確認する。

 この場所までは電波欺瞞紙チャフの煙も届いていない。



 急げ。



魔弾の砲手バレット――ッ」



 魔法名を口にし、充実した魔力供給の下で琥珀こはくの弾丸を石壁へと撃ちまくる。

 この窮地きゅうちを脱するための血路けつろを開く為に――



 ――瞬転ラピドしてきたらしい黒装束の高周波ナイフが兵装の盾アルメス・クードさえぎられ、耳障りな高い音をたてる。



 壁に穴が開く。

 破壊された障壁が散る。

 壁に穴をあけることにとらわれ過ぎていた俺は辛くもナイフを避けたが、その拍子にバランスを崩し――――体をあっさり絡め取られ、後ろ手に地面へと組み伏せられた。



『本当によわよわ。こりゃこの国の将来は無かったねぇ』

「ああ――悔しいが俺はお前に勝てない、」

『おしま~い』

俺は・・な」

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