5



ひざ瓦礫がれきと共に崩れ落ち、四つんいの姿勢になる。

れた頭、耳から血が床にしたたる。

追撃の代わりに俺に見舞われた第三撃は――大量の水だった。



「――!?」



突然の冷たさにぎょっとし、慌てて自ら逃れる。

見れば壁の中に配管されていた水道管が衝撃で破壊され、怒涛どとうの勢いで俺のいた場所へと水が降り注いでいた。

黒装束は――もう廊下の曲がり角にさえ見当たらない。



「クソッ……!!」

「毒づいてる暇があるなら追えアマセッ!」


 

 後ろからペトラの声。

 勝手には消えてくれない自然の水で濡れた髪から水気を切りながら、黒装束の――ココウェルらの消えた廊下の先を見据える。



 無事でいろよ、リリスティア――



「――ペトラ」




◆     ◆




 砂色の廊下を駆ける。

 長く続く廊下は階下へ階下へと繋がっており、降りるほどに暗く重い空気をまとい始める。理由はすぐにわかった。



「……牢獄か」



 牢番ろうばんの番所のような部屋を通り過ぎ、更に階下へ。

 物々しい鉄格子が見え始めた、その最初の曲がり角の手前で――ようやく魔波の乱れを感知した。

 この奥で、リリスティアがあいつと――!!



「リリ――――ッ!!?」



 驚きは、曲がった瞬間に迫ってきた出会い頭の背中へのもの。

 慌てて地を飛び退すさり、対峙たいじするに十分な距離を取る。



 それがリリスティアやココウェルだったなら抱き止めていた。

 そうしなかったのは、感じた魔波が――



「……お前、」

「っ……」



 ――吹き飛ばされて俺の方向へと飛んできたのは、黒装束だったからだ。

 仮面の裏で咳込せきこみながら、黒装束は油断なく自分をはさみ撃つ俺とリリスティア、そしてココウェルを見た。



「ケイ!」

「アマセ君!」

「お前達、無事だ――」



 ――眼前の光景に、無事だったか、と言いかけた口が止まる。



 黒装束の腕に走る閃電せんでん。小さな煙。

 煙を上げていたのは――先程まで猛威もういを振るっていた、あのとんでもない威力を持つ矢を射出していた、バジラノの魔装兵器まそうへいきだった。



 ……顔が上がる。

 ココウェルにあんな真似ができたはずはない。

 兵器のオーバーヒート……にしても、あんな真上から潰されたような壊れ方をするはずがない。



 お前がやったのか? リリスティア・キスキル。



「……油断しないでね、アマセ君ッ」

「…………解っている。俺達の実力では、二人がかりでようやく――」

『――――』



 ――高い音。

 黒装束の服のすそから、何かがいくつも落ち。



 急速に、煙幕を発生させ始めた。



『!!?』



 咄嗟とっさ魔法障壁まほうしょうへきを展開する。

 しかし何やらちりの混ざった煙と黒装束は――――あっさりと障壁を透過・・・・・



「ッ!!?」



 顔面に向け放たれたナイフのひと突きを、鼻先で回避する。



 後ろびに白煙から脱出。

 その動きに全く遅れず付いてくる黒装束が、持ち手が布で巻かれた白き短刀を構える。

 大丈夫だ、焦らず受けろ。間もなくリリスティアからの援護が――



 ――――――援護が、ない?



 いや待て、これは――



「チッ……この煙まさかっ、」

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