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 ――大貴族の矜持きょうじ、か。さっきの拳をけなかったのも。



 こちらを見たリフィリィと目が合い、俺も大貴族にならってもう一度頭を下げる。

 リフィリィがこぶしを握りめるのが見えた。



「……そんなパフォーマンスで許されると思うの?」

「……もうめてないよ」

「は!?」

「リフィリィ、落ち着いて」

「君らが何と言おうと、僕はもうこの件に関して『謝る』と決めたんだ。一時しのぎに見えるかもしれないけど、至って本気だよ」

「ハッ、そうやって口答えしといてどの口が本気だなんて――」

「黙って受け取んなさいよ、ガキ」

「っ!?」



 リフィリィがギッと目をり上げ、声の主を見る。

 止めるマリスタを押し退け、出てきたのはシータだった。



「メルディネス――――ッ黙ってなさいよあんたには関係ないでしょ!!」

「いやフツーにあるのだけど。私も劇づくりのメンバーなのだわよ?」

「あんたと私じゃ」

「劇への打ち込み方が違うって? それこそあんたが勝手に決めることじゃないでしょ。そんなこと言ってたらそこのバカ大貴族だいきぞくと同類なのだわよあなた」

「っ……!」

「し、シータ? もうその辺に――」

ーわんないで……大丈夫だわよ。あのとき・・・・みたくキレたりしないから」



 ばつの悪そうな顔でそう言い、シータはリフィリィに視線を戻した。

 銀糸のような髪を顔の前で流しながら、リフィリィが再びシータをにらむ。しかし何の作用か、そのするどさは幾分いくぶんか減じているように思える。



「……落ち着いた? 少しは」

「いいえちっとも。アルテアスさんと言い争ってた時のあんたみたいにね、メルディネスっ」

「…………前に進みたくなったのだわよ」

「は?」



 ケンカ腰のリフィリィ。

 そんな彼女に向け、暗い顔の中に理知的な瞳を光らせながら、シータは続ける。



「『そうやって逃げ続けでいいのか』って、とある器の小さい奴に言われたのだわよ。そいつみたく、いつまでも器が小さいままでいるのはごめんなのだわ、私――――だから言ってあげてるの」

「ワケ分かんない話をしないでくれる? 貴族共はそうやって『平民』わたしたちけむに巻いて、」

「許さなくっていいのだわ」

「……は? 何あんた?」

「許さなくっていい。でもどこかでん切りつけて耐えなきゃいけないでしょ。そりゃ私だって劇を台無しにされたことは怒ってるし、その件に関してこの戦犯せんぱん二人を許すつもりは無い。一生ネチネチ言ってやるのだわ、一緒に。でもね――――この場で一生分言い尽くすことなんて出来ないでしょ? 現実問題」

「そうよ。そうやって私たち弱い者の声はいつも無かったことにされて――」

「じゃどうすんのだわよ。老死ろうしするまでここでネチネチやってるつもり? そういう話をしてるのだけど」

「うるさいッッ!!! うるさいうるさいっ、うるさい!!! 『持ってる・・・・側』だからそんなことが言えるんだお前はッ!!」



 リフィリィが地団駄じだんだみ、音の響かない床に涙のあとを散らす。

 何か思い当たる節があるように、シータは目を細めた。

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