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「人……そうだよね。そこなんだよねー」

「時間も切迫しています。掲げる要求も、即日対応してもらわなければならない内容――――一週間後なんかにケイさんを解放されても困る訳です。解放は今日、今この時、一分一秒でも早くなければいけない。これは相当に大それた要求なのですよ、マリスタ」

「……そっか」

「それだけの要求を突き付け、相手に飲ませようというのなら……余程よほど大きな声・流れを作ってしまわなければ到底無理です。出来る限り多く――それこそプレジアに居る、アルクスと学長以外のすべての人が必要な程に」

「……ありがと。なんとかしてみる」

「……当てがあるのですか?」

「ないよ。ないけどやる。やれること全部やる。力の限り、色んな所にかけあってみる。それが今の私にできる最善だもの」

「――――わかりました。私もやれるだけ尽力しましょう。ひとまず、先程頼まれた件の手配をしてきますね」

「ありがとう! じゃ私も……ん?」




◆     ◆




「待ちなよ!」

「しつこいって……ひゃっ」



 持ち前の運動能力で、テインツはシータの前に回り込んだ。

 シータはつんのめるようにして立ち止まり、別の道に進もうとするも――人ごみにはばまれ、あえなく失敗した。



「あんまり走ると危ないよ」

「っ……あんたが追いかけてくるからでしょうよ頭悪いッ」

「どうしてあんなに否定的なんだよ。何か出来ることはないかって頑張ってるみんなに」

「うるさい!! その話はもうやめて! ウザい!!」

「っ……あのね、君そうやってすぐ物事をシャットアウトするくせ――」

「やめてっ――――離して!! ウザい!! 触らな――――」

「――そうやって逃げ続け・・・・でいいのかよっ!!」



 シータが目を見開き、止まる。

 テインツの怒声に、周囲の者達が一歩距離きょりを空け、注目し始める。

 しかしテインツも――――シータも構わなかった。



「……逃げ?」

「そうだ逃げだ! 自分は安全な所から文句だけ付けて、耳に痛い指摘を受けたら嫌だやめろとシャットアウトしてっ! まるで子どもだ、話にもならない! そんな君にアルテアスさんや他の人達を馬鹿だのなんだのとののしる権利なんて無いよ!」

「言わせておけばあんたッ!! 私だってちゃんと考えた上で――」

「そうだよ!」

「!?」

「そうやって、言いたいことがあるならちゃんと言えばいいじゃないか! どうしてあんな小馬鹿こばかにしたような態度をとって人を嘲笑わらうのさっ! 君だって当事者なんだぞ! 黙って見過ごしてたら、状況は悪くなっていくばかり――」

「何がどう悪くなるってのッ!?」

「――え、」

「だから!! 襲ってくる人たちに、アルクスが対応することになって!! それで何がどう悪くなるかって聞いてんのだわよ!!」

「そ――それは、確かに言えないけど、」

「言えないんでしょ? そうやって肝心な部分を隠すんでしょ!? それでどうやってあなたと同じ危機感持ってやれって!? 馬鹿にしてるのはあんた達の方だわッ!!」

「それは謝るッ。でもそれでも言えないくらい広まってしまうのが危険な話なんだ! 大体、だからって君の逃げを正当化する理由にはならないよッ! 君は襲われてるし、今後君の友達だって襲われる可能性があるんだよッ!? 動く理由には十分すぎるだろ! 結局君は諦めてるだけ――」

「解ってないようだから教えてあげるッ!!」

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