15



 何故なぜ神は、たった三人しか戦に出てこないのか。

 今戦っている神々を討ち果たしたとして、また後任の神がこの戦いを続けるのではないだろうか。



 厭戦感えんせんかん

 皆、戦いに疲れ切ってしまっているのである。



 不安、恐れ、疲労が、次第に人間達の心を絶望に染めていく。

 そしてそれがまた、神々にとっては求めるエネルギーへと繋がっていく。



 人々は思わずにいられない。



 結局のところ、自分たちは手のひらで転がされているだけではないか、と。



「あんた達は結局! この戦いの終わりなど、全く見えてないんじゃないのか!?」



 少年が、今や部隊長に抜擢ばってきされたクヲンにつかみかかる。

 クヲンは一歩もることなく、しかしその手を払いのけることもせず、少年の切実な瞳に向き合った。



「落ち着くんだ。そう言いたい気持ちは十分――」

「そうやってはぐらかしてもうどれだけ経った? どれだけの仲間が犠牲になった!!?」

「――……」

「目的も聞かせず、決着の形さえ示さず!! ただただ俺らの命を使い捨てるッッ! やってることが神共かみどもと一緒じゃねぇか、あァ!!? 何様のつもりなんだあんたらッ!!!」

「ゼタンは人間の希望を察知する。絶望と同じように」

「…………なに?」



 少年の手を包むようにして、クヲンは冷静な言葉を少年に返す。

 舞台袖ぶたいそでで見ていても、このシーンのエリダの怜悧れいりさにはギョッとする。あんなに沈着冷静ちんちゃくれいせいなエリダなど、恐らく今まで一度も見たことが無い。



 聞けばあいつ、実はアルクスの兵士長であるペトラ・ボルテールの妹なのだという。

 さすがの血筋、ということになるのだろうか。

 確か、ボルテール家は貴族ではなかったはずだが。



「さんざん見てきたはずだ。あの神は希望を察知すれば、それを必ず逆手にとって私達を絶望へ叩き落としてきやがる。だから、ギリギリまで押し隠しておかなければいけないんだ。この希望は・・・・・

「!!!……き――希望?」



 呆然ぼうぜんと少年。

 クヲンはやわらかな笑顔を返し、少年と共に談判に来た少年少女を見遣みやった。



「お前達が不安に包まれている――その状況すらも、作戦の一部だ。――よく来てくれたな、お前達。お前達がここで発した絶望と不安を、ゼタンは必ず察知している。それこそが絶好の隠れみのになる。心配するな。お前達は今、我々の作戦に大いに貢献こうけんしてくれたんだ」

『…………!!』

「おっと、嬉しさをおさえろよ? それさえも、ゼタンは察知するぞ。さあ行け。そして頼んだぞ。――明日の戦いで、戦局は大きく、大きく動くんだから」

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