5

「それはお前も同じだろう。男の纏衣まといを剥がしていくのなんぞ趣味じゃないんだがな」

誤解ごかいまねくような言い方すんなクソ野郎ッ??! テメーも俺も待ちに待った勝負なんだぞ、ちったぁ緊張感ってものを持ちやがれ空気読めない奴KYが!!」

「別に待ってた覚えなんてないけどな。お前との戦いなんて」

「マジでいちいちかんさわるヤローだな!! 何だってんだオメーは、あのときあれだけケンカふっかけてきといてよ!」

「ケンカ?」

「……トボけてんのかテメェ!? 忘れたなんて言わせねえぞ――あの『宣戦布告せんせんふこく』をッ!」

「宣戦――――」



〝この俺を怒らせたんだ、誰一人助かると思うなよ。――――末端まったん枝葉えだはから中枢ちゅうすうみきまで。害虫におかされて腐りに腐った風紀委員会大木を、木の葉の一部も残さず根こそぎ焼き払ってやるから覚悟しておけ。羽虫はむし共〟



〝テメェ……分かってんだろうな。今後ひと時たりとも、この学校で安息の時間があると思うなよ。『異端』ッ〟



「あの宣戦布告せんせんふこく。俺は片時も忘れたことは無かったぞ。テメェが言ったんだからな! 俺達は晴れて――」



〝俺とお前達はこれから、晴れて敵同士なんだからな〟



「…………」



 ――確かに言った。本当に、忘れていた。



 いな。実感を言えば、今も思い出せないでいる。



 あの時確かに感じた、この男の殺気。

 あの時確かに放った、この男への殺気。



 思い起こそうとしても、まるで毒気を抜かれてしまっているかのように心が反応しない。



「……そうだ。反応しない・・・・・んだ」

「は?」

「やっと気付いたよ、ロハザー。お前がマリスタと闘っていた時に感じたあの殺気――俺を倒そうという気迫きはくが、今のお前からは微塵みじんも感じられない。こっちの台詞せりふだ、忘れたとは言わせんぞ・・・・・・・・・・

「――――……ッ」



 ロハザーが言葉に詰まり、――わずかに視線を下げた。



 のがさない。



石の蠍スコルピカ!」

「っ!!」



 先行放電ストリーマ

 突如とつじょ襲った石の槍をかわし、ロハザーが飛ぶ。

 その場所に向けて、俺は既に砂弾の砲手サンドバレットを放っていた。



「!! もうかよ――」



 ぶ。右手に魔力を集中させる。

 砂弾の砲手サンドバレット陽動ようどう。右の魔力まりょく凍の舞踏ペクエシスを放ち、奴の動きを完全に



 ――砂の弾丸を突き破り、数多あまた琥珀こはくが飛来する。



「ッ! 魔弾の砲手バレットけ――――!」



 右手の魔力を魔法まほう障壁しょうへき転換てんかんする。

 弾丸が弾け刹那せつな、視界が白い魔素まそまる。

 飛んだ先にロハザーはいない――



 雷鳴らいめい

 背後――



 ――辛うじて間に合った障壁しょうへきを、いかずちまとう一撃が罅割ひびわった。



「ッ――」



 一撃で障壁を――瞬転ラピドで加速したか――――!



 障壁ごと吹き飛ぶも、氷の床に再び危なげなく着地・・・・・・・

 上。

 いかずちを振り下ろす、ロハザーの姿。



雷宴タウ

「―凍の舞ペクエ

の台ロクスッッ!」



 充実した魔力をもって放たれた雷属性かみなりぞくせい中級魔法ちゅうきゅうまほうに、雑に放たれた氷波ひょうはと魔法障壁が拮抗きっこうし――――相殺そうさいされる。



 地面をくだく音。



 音を見る。右のこぶしを握り込む飴色あめいろと目が合う。

 間に合え――――           待て、拳だと?



石の蠍スコルピカががぎゃゃE:@;ぉーp^@:;こ0!!!!!!」

「う゛ァッ……!!」



 ――雷拳らいけんが頬を貫き、電撃でんげきが体をけ。

 石槍いしやりが、ロハザーの右脇腹みぎわきばらいた。



 無様に体を痙攣けいれんさせ、倒れる。

 視界の焦点しょうてんを合わせると、眼前がんぜんでは苦悶くもんの表情を浮かべて脇腹を押さえたグレーローブが片膝かたひざき、うつむいていた。



 ――やはりせない。



「…………どうして今、拳でなく魔法・・・・・・を撃たなかった・・・・・・・

「……ぁ?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る