讐みを、




◆     ◆




――熱に浮かされたように希薄だった意識が急に戻ってくる。

 神経が脈動するかのような痛みが左目を貫き続けている。

 口の中を血の味が流れる。

 この血は、

       血が、



 くちゃり村の者達がすべて集められていた広場体格のいい男達は既に俺と同じく傷を負わされうち何人かは既に既に事切れているああベイキーサンドラハマクイッツそんな酷いこんななぜあいつらが何故そんな状況にもかかわらず騎士達はこぞって酒を飲み歌い踊り始めた一体何なんだ何が起こってるんだあいつらは間違いなく騎士なはずだ神父が間違いなく親し気に話をしていたなのになぜ神父まで捕まっている何故神父が声を荒げて親しい筈の騎士を怒鳴りつけている酔いに染まった騎士が心底煩わしそうに顔を歪めて神父に歩み寄り嫌な予感は的中するあろうことか騎士は神父の顔を蹴りつけはじめたのだ何が起こっているのか解らなかった夢を見ているのかとさえ思ったあれだけ穏やかに見えた騎士が今目の前でどこまでも神父を蹴り蹴り蹴り――――バンターの拳が



、深々と俺の鳩尾みぞおちに突き刺さった。



「ぼッッ――――ァ゛あ゛ッ……!!??」



 直後に口が血を爆裂させ、倒れる。

 バンターの荒い呼吸――それは最早もはや呼吸と言えるか疑問なほど、声を伴い――が、すぐ近くで聞こえる。



 動け。



 動かないと、殺される――



「ッァあああああああ゛あッ!!!」

「ぼ、ごぶが……!!」



 のろい動きで辛うじて体を転がし――地を踏み砕いたバンターの足を避けるそして眼前に奴の血が降ってきていることをそのとき俺はやっと認知し血が目に落ち「やめて!!!!!」悲痛な声はサニーのものだった神父の周囲の悲惨な光景騎士共はあろうことか周囲の女の服を剥ぎ取り始めたのだ何何なんだ何が起きてるんだどうどうしてこんな俺はそのときになってやっと自分の愚かすぎる勘違いに気付いたこいつらはきっと王国騎士などではなかったのだ王国のリシディアの誉れある騎士騎士きし騎士きしなのにこんなことをするはずがないそうだあり得ない国を形作る雄たちがこんな馬鹿な破滅的行為に手を染めるわけがない我々は今盗賊に襲われているのだであれば俺は俺は何故こんなところに倒れているのだ「貴様等ァァァあああッッ!!!」「あー?穴ぼこがなんか言ってんなァ?」「盗賊の外道の糞共が、今すぐにその汚い手を女性たちからどけぐあああああぁぁぁあッッ!!?」「おホー汚ったねぇ叫び声だ!!こりゃマジョの一族確定だなァ!?」「もっと鳴いてみるかァホレ、アキレス腱ぶちぃいぃいいぃぃい「ぐがああああああああああああああああああッッッ!!」ッッッあああああああァッッッ!!!!』



 俺の声。

 バンターの声。



 同じものを見ているのか。

 それともお前はを見ているのか。



「お前も……お前もそう・・なんだろうがッッ!!!!」

「ゲ…がッ……やめろ、」

「殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて堪らないから此処にいるんだろうがッッ!!!!! その怒りを悲しみを恨みを持て余してここにいるんだろうがッッッ!!!!!なのに貴様はッ」

「やめろぉぉおおッッ!!!!!!」

「こんなところで俺止めて貴様は何をやってるんだよッッッ!!!!!?」男達の下卑た笑い声どれだけ体に力を込めようと後ろ手に縛り上げられた手も足もびくとも動かない普通の縄ならどんな太さだろうと問題にならない筈なのにまさか魔装具なのかこんな一介の盗賊風情がいやしかし確かにこいつらは盗賊にしては豪華な鎧を着込んでいるあれがそもそも盗品か「誰が盗賊だって?ええェ?」「ぬぐッ……がぁァ……!!」「笑わせるぜ――このマジョにはこの俺達がコソ泥に見えるんだとよ!!」盗賊共がゲラゲラと笑う今まさに大罪を犯していながら何がそんなに可笑しい何かが俺の目の前にぶら下がった「見えるか?んん?これが何だかテメェのような下民に分かっかよ、あー?」それは二重の魔法陣の形に造られた金の章飾それを持つ者は栄えあるリシディアの騎士と認められ国民から羨望と称賛を贈られる誰しもが憧れる――――――――――――――なんで?「見ろよこのバカヅラ!!」「だははははは!」「誰が賊だと?馬鹿が、俺達はリシディア王国騎士団だ!『魔女狩り』――少しでも疑わしい奴は根こそぎ殺せという王命が発せられたのよォ!!!!」



「あああぁぁああぁぁぁぁあぁぁッッッ!!!!!!!!!」

「ぐあああああああああッッ……!!!」



 のたうちまわる。

 二人の男が、揃って目と頭を押さえて。

 俺の心に、深く食い込んだ「痛み」の呪いが。



〝ここぞとばかりに、気に入らぬ者を殺し。ここぞとばかりに、普段できないことを全部やる。子ども金品と見ればことごとく奪い、男と見れば悉く殺し、女と見れば悉く犯し――そして魔女と断じて証拠隠滅皆殺しにする。そんなことを畜生コクミンすべてが行う狂乱きょうらんが、国中で起こったのさ〟


〝『王命おうめい』とは、このリシディアという国家にとって最大の形式的効力を持つ命令です――決死して軽々かるがるしい気持ちで連発していいものではありません。一度出した王命は冗談では済まないのです〟



 ――そんな。

 それが「王命」?



 男と見れば皆殺すのが王命?

 女と見れば皆犯すのが王命?



 そんなもの――――――復讐してもしてもしてもしてもしても、足りる訳が――――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る