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「ああ。お前達は、このくらいの話し方の・・・・・・・・・・方が理解しやすいのだ・・・・・・・・・・ろう・・?」



 ゼタンは、まるで軽薄な若者のような笑みを浮かべる。



「お前は思ったろう。それを言うなら、この宣戦布告せんせんふこくそのものに意味が無かったと。先の戦いの延長線上で、俺達をディオデラで潰せば終わっていただろうに、と。まったくその通りだ」

「……ゼタン、お前は」

「そうともさ、これは無駄だ。時間の空費くうひ、存在の冒涜ぼうとく、無意味なる徒労とろう!……だが気付いてしまったのだ。徒労とろう忘却ぼうきゃくに、このオレ・・愉悦ゆえつを感じていると」

「………………」

「そうとも、これは遊興ゆうきょうだ! オレの心にただ一つ、全く無価値な火を灯す!!!…………お前との、対等なる敵同士としての時間だ」

「キモい」



 クローネは、ただ嫌悪感を表明する。

 俗語を理解するのに時間を要したのだろう、ゼタンはややあって――――飛び散る溶岩と共に、この上なく。

 楽しそうに、哄笑こうしょうした。



「……………………、 。キモかろう・・・・・?」



 赤き切っ先が黒騎士くろきしとらえる刹那せつな



 最後の戦いは、激しく幕を開けた。




◆     ◆




 会場の無人空間むじんくうかん、至る所から岩と溶岩の飛沫しぶきが現れる。



 観客のどよめきの中――――クローネとゼタンはそれらを足場としながら、観客の目の届く上空を縦横無尽じゅうおうむじんに駆け回り、剣戟けんげき応酬おうしゅうする。



 無論、俺達はどちらも英雄の鎧ヘロス・ラスタングは使っていない。

 万が一にも、予期せぬ破壊で観客に怪我は負わせられない。



 つまり、岩から岩への長距離ちょうきょり移動いどうは全て――魔法まほう演出えんしゅつはん風属性かぜぞくせい魔法まほう担当による技術の結晶なのである。

 風に乗りながらの移動には、慎重で緻密ちみつ稽古けいこを入念に繰り返した。

 リフィリィによれば、演劇部えんげきぶでさえここまで本格的な演出は行われないという。

 全くとんでもないことを要求してくる監督かんとくだ。



 ……ともあれ、本当に気にせねばならないのはそこではなく。



「っ……!」



 予定された動きをなぞるだけの、いわばダンス。

 しかしそれさえ、今のこの身体には負担が大きい。



〝イラつくな。心静かなら、呪いはさしてさわがねえ〟



 呼吸を切らすな。

 出来栄できばえなんて考えるな。

 そんなものは全て二の次にして――――今この瞬間を、乗り切ることに集中しろ。

 そして――



「…………」

「っ!?」

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