5



 ナイセストが一瞬、まゆをひそめる。

 ヴィエルナはゆっくりと腰を落とし――迎撃げいげきの構えをとる。



 会場が、わずかにいた。



 相変わらず、呼吸は深い。

 ヴィエルナの身体は明らかにダメージを蓄積ちくせきさせている――力ある者達には、それがありありと見て取れる。



(……あいつはヴィエルナ・キースだ。何の目的も無く、闇雲やみくもに立ち上がるような奴じゃない。でも、だったら奴は何故――――――、!?)



 圭が怪訝けげんな顔をする。

 スペース中央でナイセストと対峙たいじするヴィエルナ・キースが、あからさまに視線を上げ――――圭に目を合わせたのだ。



 金と黒の目が交差する。

 少女の黒は、何か――何か強い、意志を宿し。



(…………何だ?)



 次の瞬間には、その視線はナイセストに向き直っていた。

 ヴィエルナが視線を向けた相手が誰であるかに気付いたのはナタリー・コーミレイと――ナイセスト・ティアルバーのみ。



 ナイセストが目を細め――地をった。



 目にも止まらぬ白の疾駆しっく

 瞬転ラピドを使わずとも、その速度は常人じょうじんとらえられるいきを優にえている。

 それを、



「ッ!」



 ヴィエルナは瞬間同速どうそくいた紙一重かみひとえ避け、足元に投げ落とした。



『!!?』



 ナイセストが宙で体をひるがえし、何とか足で着地する。

 だが依然いぜん手首にはかせ

 灰の手がナイセストの手を捕らえ、関節かんせつ可動域かどういきの逆側へとひねり――再び投げ倒す。

 ナイセストも負けじと体をよじり、力でその手を振りほどこうともがくが、ヴィエルナは人体の構造に沿ってたくみに体を振り、宙返ちゅうがえり、襲い来る拳をりで相殺そうさいし手を離さず、最小限の動きで白を引き倒しにかかる。



 武闘ぶとう、ならぬ舞踏ぶとう



 スペースで繰り広げられる鮮やかな組手くみてに、観覧かんらんせき翻弄ほんろうされるがまま、一喜一憂いっきいちゆうり返していくより他に無い。



「チ……」



 ごうやしたナイセストが一瞬のすきを突く。

 つかまれた腕を投球とうきゅうごとく振りかぶりヴィエルナの体を投げ飛ばさんと振り抜き、



 ヴィエルナは、瞬時に空いた手でホワイトローブのそでつかんだ。



「ッ!!」



 ローブに引っ張られ、ナイセストの体は投げられたヴィエルナに吸い寄せられるようにちゅうへ。

 ヴィエルナは両手で彼の腕をにぎり直すと、自身が吹き飛ぶ力に乗せるようにしてナイセストを――振り投げる。



 ナイセストが、障壁に叩き付けられた。



「うぉおっ!!?」

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