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「下らねぇ。だが、だからこそ手抜きはしねぇんですよ。こんな腑抜ふぬける機会にこそ、日々の積み重ねを問われるってことで。案の定だ、まったくなっちゃいねぇ」

「そ、それもそうですけど……ていうか、よく参加しようと思われましたね。学生の企画に」

「校長からのお達しです。『選ばれたからには役目を果たせ』、とかなんとかね。何が役目だ、えがく仕事を押し付けねぇで欲しいもんですよ」

「でもしっかり参加するんだからえらいですよ!」

「そんなことより、俺ぁあんたが参加してることの方が意外なんだが。学生共は知らねぇんだったか? 確かあんた……」

「あ、あはは……確かに、ちょっと気は引けてるんですけど。生徒のもよおしですから、出来れば協力してあげたくて」

「偉いのはあんたじゃねーですか」

「それに、今は別の目的も出来ましたし」

「……別の?」



 体の動きを止めてトルト。

 シャノリアは不安のした表情で、その視線をとあるカップルへと移した。離れたところにいる、ケイとナタリーのカップルに。

 やっぱりか、とトルトはため息をついた。



「ザードチップ先生。ちょっとだけ移動してもいいですか」

「構わねぇですよ。俺もそっち方面に行こうと思ってたとこだ」

「え?」

「や、気にしねーでくだせぇや。行きましょう」



 トルトは、淡々とした足取りでケイの戦う場所へと向かっていった。




◆     ◆




 合図と同時に、宝石を手に取ろうとした。

 しかしそれより早く、ナタリーの背後に魔弾の砲手バレットせまっていた。



「チッ!!」



 手を狙えよ魔術師まじゅつしコースだぞこいつは、下手糞へたくそめっ!



「ぁっ?!」



 目の前で自分の手の甲に夢中になっているナタリーの左肩をつかみ押し、右足で彼女の左足をる。

 後方にかたむいたナタリーの頭上を――ニットぼうかすめ、顔程もある弾丸が通り過ぎた。

 倒れていくナタリーの背に肩から離した右手すかさず差し入れ、転倒を防ぐ。

 ナタリーが俺をギロリとにらみ付け――



 ――見せた目配せに即応そくおうして地をひとり。

俺の対面へと小さくび、足に迫った二発目をかわした。



 わす視線。短く首を振る俺。話す間もなく聞こえる連射音。



 くそが。

 棄権きけんするひまさえないのかっ!



「ちっ――恨むなよっ!」

「ッ??!ちょっ――?!?」



 ナタリーを腰から抱え上げ、大きくを描いて移動しながら魔弾の砲手バレットを回避する。

 撃ってきているのは幸い一組のみ。俺のところ以外でも魔弾の砲手バレットによる爆発が起こっており、木枠きわく魔法障壁まほうしょうへきで囲まれた空間内は既に戦場もかくやといった状態になっていた。



 当然、狙うべき場所以外に魔弾の砲手バレットが命中している者もいる。魔術師コースの者――つまり、英雄の鎧ヘロス・ラスタングを使うことに慣れていない者もいるだろう。防御手段の無い状態の魔弾の砲手バレットが一発でもどれほどの衝撃を与えてくるか、俺はよく知っている。

 なんと危険な遊びだ、まったく。



 背後は壁、前にだけ集中すれば良い。

 術者は二人。だが背後を取られるのを恐れてのことだろう、女子が放つ弾数たまかずはそう多くない。見覚えもある、恐らくあの女子が義勇兵コースだろう。下手さ加減を考えれば男子は魔術師コース。

 これなら――



「――魔弾の砲手バレット

「!」

『!!』

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