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 系譜けいふ見る限り、アルテアス家の当主は、これまでずっと男性。

 つまり女性に生まれた以上、この先マリスタに待っているのは――当主となった傍流ぼうりゅう、すなわち外からやってきた男性に寄り添い、アルテアス家を支えるいしずえとなることだ。

 エマ・アルテアスが、今まさにそうであるように。



 無論、ナタリーはそれだけがすべてだとは思わない。マリスタも、一歩下がってついていくなど性分ではないと思うだろう、と想定してもいる。

 しかし、現在一族の舵取かじとりをしているのはオーウェン・アルテアスだ。

 彼は当主として、マリスタが望む・望まざるにかかわらず、アルテアスを繁栄はんえいに導く道を選択し、また選択するようマリスタに迫るだろう。



 そしてナタリーもまた、最終的にはそれが今の・・マリスタにとって最も良い未来へとつながる道だ、と考えていた。

 そんな、幸せへ続く道をはばむ障害は、ことごとく自分が消し尽くしてやると。



 そうした意味で――ナタリーは、マリスタの一過性いっかせいの熱意と頑固がんこさは、彼女の直すべき短所であるとずっと思ってきた。



〝私はこれまで――ずっとヘラヘラフラフラ過ごしてただけだもん〟

〝それは今だってそう。ケイの後ろをただくっついて、マネして、それで……いっぱしに『マリスタ・アルテアスわたしじしん』でいられる気になって〟

〝誰かが考えるんじゃなくて、私達も一生懸命考えなくちゃダメなの!〟



 ――少なくとも、プレジア内部が急転する数か月前までは。



 その場しのぎで、何の見通しも持たなかった少女。

 それが今、ナタリーの目の前で――中身が伴わないながらも、「国を救うため」という明確な目標を胸に、その短所を燃やしている――――



「……そうですね」

「へ、」

仮令たとえその推測が間違いで、襲撃者が王国関係者ではなかったとしても……彼らを捕えた後、笑われればいい話ですね。そしてどの道、プレジアの生徒たちは安心を取り戻せる。貴女の策が成功すればね、マリスタ」

「そ――それじゃあ!」

「ええ。協力しますよ。私のすべての力をけてマリスタ。貴女あなたを助けます」

「ありがとうッッ!!!」

「あやぅっ!?! ちょ、ちょっとマリスタ急にそン――――抱き着かれるとッ?!」

「ああっ、ごめん! へへ――嬉しくって。ナタリーの力があれば百人力だからさっ!」

「…………まったくもう。協力するからと言って、百パーセント無茶なことをしようとしたら止めますからね。そこは勘違いしないように」

「うんっ!」



 百パーセント無茶な時は止める。

 その言葉が、「九十九パーセント無茶な時でも応援する」という宣言の裏返しであることを、ナタリーという人間を知るマリスタはすぐに読み取り、ほがらかに笑った。



「それに、あの男の作戦が実質丸潰れになったことで、多少胸のつかえも取れた気がしますしね。さーて、あやあや。頭切り替えなければ」

「え。あのナタリー。私、ケイをどうやって完全に解放してもらうかも考えてもらおうと思ってたんだけど」

勘弁かんべんしてくださいよ……アレのことです、またそれで私に礼とか言ってくるんですよ」

「? それのどこが悪いの」

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