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 ……散見さんけんされるカップルをことごとさげすみ、俺とペアになることで美男美女のカップルになっている自分の価値を引き上げたいから、ということのようだ。ここまで見ていると。



 要するに俺はステータス。持ち物。服、アクセサリー、腕時計のようなものだ。

 「美男を連れ歩く美少女」としての自分を振りきたくて仕方が無いのだろう。



 拍子抜ひょうしぬけと言えば、その通りだ。

 教本に写真もらぬ、どこへ出しても恐らく恥ずかしい出涸でがらし。

 そんなはみ出し者がなまじ権力だけを持て余し、果たしてどんな無理難題むりなんだいを押し付けてくるかと思いきや――アクセサリーとなって追従ついしょうしろ、というだけだとは。



 だが実際、効果は覿面てきめん。ココウェルはどこから切り取って見ても美少女なのだ。



 小柄こがらな体。のくせに、出るところは出過ぎていて――こう言ってはなんだがあまり運動もしていないのだろう、それなりの肉付きをしている。ていに言えばムチムチだ。

それに加えて、露出狂ろしゅつきょうのような胸元のバックリ開いた服。

 極めつけにはこの男にびにびた仕草と声と立ち居振る舞いだ。

 男性目線ではあるが、これは誘惑ゆうわくされるなと言う方が無理な相談だと思う。



 そうして、晴れて露出狂に視線を奪われた彼氏は彼女との間にみぞ、もとい亀裂きれつを生み、そんなカップルを王女殿下は大槌おおつちのように強力な言葉で意気揚々いきようようと粉々に打ち砕いていく。

 もしやこれ自体がプレジア襲撃の一幕なのでは、なんてことまで考えた。



 ……そんなことを考えた自分も、きっと先刻よりいくらか腑抜ふぬけにされているのだろう。



 それほどに、暴君ココウェルの願いが素朴そぼくで単純なのだ。

 言うなればそう――ただの年頃の女子、のような。



 ――こいつ、いくつなのだろう。



「ココウェル。貴女、今年で何歳になるのです?」

不敬ふけいよ。王族の、しかも女性の年齢を聞くなんて。信じられない――ま、わたしに興味を持っちゃうのは仕方のないところだけどねーっ」



 などと言いながら、より腕に体を押し付けてくるココウェル。

 恥じらいは無いのか、お前には。ほぼ初対面の相手だぞ。

 王女などより、その……風俗嬢ふうぞくじょう娼婦しょうふなどとでもと言われた方がよっぽどしっくりくる。



「今年で十九になるわ。ちなみにお前は?」

「……今年で十八に」

「そう。つまりわたしの方が年上ってことね? この意味分かるわよねぇ?」

「……年長者には敬意を」

「よろしい。あっ、ねえ次はあれ食べたい!」



 そういえばいつの間にかじゃがバターは平らげ――次はピザ生地のようなもので肉野菜を包んだ食い物を売る屋台を指差す。

 バターを口元につけたまま。



 ……為政者いせいしゃの娘とは思えない。

 本当に、彼女は何の期待も抱かれぬまま、その通り何の才能も開花させず、ここまで成長してきたのだろうな。

 箱入り娘、ならぬ箱閉じ娘。

 秘蔵ひぞっ子、ならぬ死蔵しぞっ子、とでも言おうか。

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