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 ……そんなことを考えるくらい、無駄な時間である。

 いや、無駄ではないか。

 こんな労働でも、先に求める情報があるのなら。



「……それにしても、まあ……」



 この世界に来て日の浅い俺はともかく、生来せいらいここで暮らす者達まで彼女を王族だと認知していないのは、それはそれで問題なのではなかろうか。



 誰一人、彼女が王族だと気付き近付く者はいない。

 皆そろって鼻の下を伸ばすか、嫉妬しっとの、あるいは憐憫れんびんの目を向けるか。

 往来おうらいで男をはべらせ見せつけるいやな美少女、くらいにしか見えていないようだ。



 …………俺の目が節穴だということも、可能性としては考えられるだろうか。

 実はココウェルは相当な芸達者げいたっしゃで――とか。



「い、いらっしゃい……ませ……」

「ふふっ。ねえ、それ四つちょうだい?」

「よ、よっつ……八百ヴォレオになります」

「あ・り・が~・と♡ ケイ、なにやってんのホラ! お金!」

「……ああ」



 ……無いな。

 こいつは本当にただの、性格がじ曲がった馬鹿な女にしか見えない。

 きっとこうして色香いろかを振りまくことで、王女がプレジアに来ているとバレる可能性など考慮していないのだろう。無論、それにともなう危険も。



 ……食い気と色気だけの、バカ。



 果たしてこのような暗愚あんぐが、今回の事件の黒幕足り得るだろうか?



「ケイ!」

「……はい?」

「はいじゃないわよ。なーんかあんた上の空ね、何してても。わたしと居るのがそんなにつまらないってこと?」

「いいえ? ただ、ちょっと考え事を」

「何をよ? 言いなさい」

「食べているお姿もここまで魅力的な貴女あなたのような方の傍に、どうして俺のような路傍ろぼういしそばに居ていいことがあるだろうか、と」

「っ……!」



 ココウェルが表情を変える。

 どうやら、こんな適当な誤魔化ごまかしも通用してしまう頭脳をお持ちの様だ。

 流石は出涸でがらし王女。



 今はこいつに取り入る他ない。

 プレジア襲撃事件を解決するためには、是が非でもこいつから情報を引き出さなくてはいけないからだ。



 ……そう思うにつけ、今の自分の状態が、力の無さがうらめしく思えてしまう。

 痛みの呪いで力は出ず、恐らく力が万全でもには勝てない。



 アヤメ。

 あれだけ強いギリートの父親。それと同じ、ヘヴンゼル騎士長きしちょう候補者こうほしゃとまで言われている女騎士。



 ………………考えるべきことは山積みだ。本当に。



「ねえ、ケイ。あんたってなんかの病気なの?」

「え?」

「『え』って。あんだけ人前で頭痛で無様に倒れたりしといて、何もないワケないわよね。もしかしてあんたって障害者?」

「……デリケートな話題でそういう不躾ぶしつけな発言はひかえた方がよろしいですよ。実に様々な敵を作る」

「きいてんだけどわたしは。病気なのかって」

「……。はい、その通りです」

「やっぱり。すぐ治るの?」

「いいえ。長くかかる病気です」

「うっわぁ。じゃああんたつまりさぁ、もう兵士としては終わりなんじゃないの? だっさ」

「!」

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