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「ど、どういうことっ、ハイエイト君!」

「別に、どうってワケでもねーけど。でも見ててそう思わねぇか? 普段あんだけ罵倒してる割に、よく考えりゃほとんど毎日アマセの近くに居んじゃねーか。おかしいと思わねーかそれって」

「……思う。思う!!!」

「馬鹿を言わないでいただけます馬鹿を。なんで私があんな意味の解らない男の近くに居なければならないのですか。吐き気がします答えはノーです」

「嘘ばっかり。そうやって自分を隠してっ!」

「貴女なら知ってるでしょう私がマリスタからアレを遠ざけるために動いていることを最初からそのように言っていたはずですが私は。嘘ばっかり?隠す?寝言は寝て言いなさいな色情狂しきじょうきょうが――――」

「『あれはこの程度の苦境には屈さない』って!」

「――――、」

「『あれは止まらない。絶対にあきらめたりしない』って言ったじゃない。あんなの――あんなめ言葉、私他にあなたから聞いたこと無いよっ!!?」

「、、――文脈を読みなさい早とちり。あれは罵倒ばとうのニュアンスで」

「信頼してる人にしか――出ない言葉だよッ!!!」

「っ!?」



 パールゥの放った弾丸が、ナタリーの視界をふさぐ。



相殺そうさいは余計なすきを与える……!)



 間一髪、右に大きく飛んで回避するナタリー。

 油断なく定めた視界を再度塞いだのは、



「〝炎の乙女、錬鉄の濫觴らんしょうよ。神々の語り部に授けし監護かんごを我が手に〟」

「!!」



 ナタリーに真っ直ぐ迫る、メガネの少女の姿。



「我はあかつきを進む者なり」

「っ――――、」



 ナタリーは体勢を立て直すひまもなく。



英雄の鎧ヘロス・ラスタング



 パールゥと同時に、その魔法まほうを口にした。



 ――――ドシン、と。



 重くかわいた右の平手ひらてが、ナタリーの左頬ひだりほおを貫いた。



「!!!!」

「う――ぉ、」



 傍観者ぼうかんしゃ二人の絶句が飛ぶ。

 ナタリーの身体も飛ぶ。



 受け身さえろくに取れぬまま、ニットの少女は半身はんみを地に叩きつけられた。

 即座に迫り、スカートであることなど忘れてしまったかのようにナタリーへ馬乗り、肩をつかんで正面を向かせるパールゥ。



 乾いた音が再び、鳴り響いた。



「ほら動揺してるッ!」



 振り上げる。



「図星で黙ってるッ!」



 乾いた音。



「ずるいんだよっ、必要にかこつけて!」



 乾いた音。



「さも興味ないフリしてッ! 罵倒してっ! そうやって近付いてッ!!」



 乾いた音。



「みんなっ……みんな近付こうと一生懸命なのにッ!! あなたはっ……」



 音。



「あなたは……誰より自然にッ! 彼とっ!! 距離を詰めていってッッ!!」



 音。音。



「ハァ、はぁっ……! それでっ……あんなにあっさりっ……!」



〝頼む〟

〝お前なら信用できる〟



 ――握られた拳が、



「彼の信頼を得てッ!!」



 ナタリーの顔面を、真上から殴りつぶした。

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