破格――――その術の名は

「え、あの、え? 魔術って、あの壁の崩壊アンテルプ・トラークとか、虹の眼鏡インテルト・ラトみたいな……!?」

「そう……なんスか。ホントに魔術なんですか、先生」

「それ以外考えられねえ」

「う、ウソでしょ……!? だって魔術って確か、ものすごい費用と時間がかかるって――」

「そういうモンばかりでもねぇ。ゼロから作るとなるとそりゃあ莫大ばくだいな費用も時間もかかるが、アマセの場合は兵装の盾アルメス・クードをアレンジしただけだからな。それなりの研究設備がありゃあ……やれる奴には、やれるかもしれねぇ」

「……『アレンジしただけ』って。何言ってんスか、ファレンガス先生」

「ハッ、そうさな。ありゃあ――とんでもねえ緻密ちみつな魔術だぞ」

「な……何がそんなに、すごいんですか」

障壁しょうへきを好きなとこに出現させられる。それは逆にやぁ、障壁を展開する座標を逐一ちくいち自分で計算してるってことだ」

「…………???」

「メンドくせーなあんたトンチンカンかよ! いいか? 兵装の盾アルメス・クード優秀ゆうしゅうな魔法だ。物理的なモノを何もかも通さない魔法だぜ? そんなスゲーのをお手軽に使えるのは何故か? そりゃこの魔法が『ただ術者じゅつしゃを丸く囲む魔法まほうでしかない』からなんだよ」

「で……『でしかない』??」

「『守れる範囲はんいが決まってるから簡単に使える』ってことだよボンクラ。ホレ、それに対してアマセのはどうだ?」

「え。え、え、えっと??……あ、じ、自由自在に出せるから好きなとこ守れる!!」

「そうだ。んで逆に言えば、守る場所を自分で決めなきゃならねぇ。つまりアマセの奴はな、障壁を展開する場所をいちいち計算してるんだ。壁の崩壊アンテルプ・トラークのとき、指先に座標を固定するみたいにな。見たところ呪文ロゴスを組み込んだ魔装具まそうぐも持ってねぇから間違いない」

「え、、、、、??、?」

「……………………アルテアス。オメー、かけ算の筆算しながらあんだけの戦いをこなせるか?」

「あっ今すっごくわかりましたわえっヤッバすっご?!?!?!?! 無理じゃんそんなん!!?!?!?!?」

「……教え方上手いっすね」

「言うほどうめーか……?」

「そ、そんな魔術を……あいつ一人で作って、あれだけ使いこなしてるってことですか?」

「使いこなしてんのかなんざ分かんねぇよ俺達にゃあ――――あれは魔術。正真正銘しょうしんしょうめい、この世であいつしか扱えねぇ魔法なんだからよ」

「……あいつだけの……!」




◆     ◆




「……障壁を小さくして無駄な魔力消費をおさえた上、物理障壁ゆえ精霊の壁フェクテス・クードで防げない攻撃、か……その開発力かいはつりょく称賛しょうさんに値するだろう。随分ずいぶんと地味で陰気いんきな魔法だがな」

「じゃあ名前くらい、ご機嫌きげんなのを付けてやろうじゃないか。め、『盾の砲手エスクドバレット』、とでも言ったところか?」

「――――シラける名前だ、ケイ・アマセッ!」

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