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 薄開うすあけていた目が、リアの黒いひとみとかち合う。



「別に、話したくなかったらいいけれど。アマセ君、リフィリィとはどんなことを話してた?」

「なんだったか……そう。学祭がくさい実行じっこう委員いいんにと勧誘かんゆうを受けた」

「へぇ、そのリフィリィって子学祭委員なんだ? やる気あるわねぇ~考えらんない」

「……なんでその子、わざわざよく知らないアマセ君を誘いに来たのかな」

「どうどうパールゥ。そっか、アマセ君も大変ね。もう何人目・・・・・?」



 システィーナがなぞにパールゥをなだすかし、俺を見て苦笑する。

 パールゥはその言葉を聞いて、何やら恥ずかしそうにうつむいた。



「んん? 何人目って、どういうことさ。アマセ」

「……勧誘は初めてじゃないんだ。もう何度目だか、数えるのも面倒臭くなるほど受けたよ」

「ひぇ~? そんなこともあるんだねー。わたし一度もうけたことないんだけど!」

「当然だわよそれ」

「あー、私も受けたそれ。声かけてくれるのはありがたいんだけどねー」



 不毛ふもう小競こぜり合いを終えたらしいマリスタとシータが会話に戻ってくる。結構な調子でいがみ合っていたと思ったが、やはり根っこでは仲良しということか。



 だるくも心地よい空間。

 俺にはまったく馴染なじみもえんも無いものだと、思う。



「しっかしケイったら、変人扱いから一転いってんして人気者だよねー、ほんとイケメンってのは得だわ」

「ま、実技試験で大活躍した花形はながたを取り込んで学祭がくさいを盛り上げたいっていうのが一つ、実際仕事も早そうだからゼヒとも欲しい人材っていうのが一つ、ってところでしょうね」

「ちっちゃい子からも話しかけられてるもんなー!」

「知らない子といることも増えたよね……」

「学校の外部の人とも話してるの見たわよ、ほんっと災難さいなんだわね」

「有名人はツラいねぇ、アマセー?」

「……代わって欲しいくらいだ」

「……でも、仕方ないのかもしれないね。だってアマセ君は、」



 リアが小さく笑う。



「プレジアを救った・・・、英雄なんだから」

「――……」



 …………英雄えいゆう



 それが、プレジアの一部がはやし立てる俺の呼称こしょう



「ふふ。やっぱりしっくりこない?」

「……こないよ。どう考えても俺は英雄じゃないから」

「英雄はみんなそう言うんじゃないかしら。得てしてそういうものだわよ、英雄の誕生たんじょうなんて」

「? ど、どういうこと、シータ」

「なんで今の文脈で解んないことがあるのよ……」



 眉をひそめたマリスタに、シータは頬杖ほおづえきながらため息をついた。



結果論けっかろんってこと。ていうか分かんないならそれでいいわよメンドくさい」

「ちょ、何よそれシータっ」

「でも……アマセ君の気持ち、私はわかるよ。こんなことで英雄とか、呼ばれたくないって言うか……その……ティアルバーくんがプレジアからいなくなっちゃうなんて、想像もしなかっただろうし」



 ……皆が静かになる。

 パールゥはハッと周囲を見回し、居心地いごこち悪そうに縮こまった。



 実技試験以後。

 ナイセスト・ティアルバーは、父のディルス・ティアルバーと共にプレジアから姿を消した。いな追放された・・・・・

 


 恐らく、もう二度とここには戻らない。

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