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「大丈夫だ。こんな体調になる理由はわかってるしな、ありがとう」

「あ、ぅ、ど……どういたしまして」

「ちょっとぉっ。私にはお礼なんて言ったことあったかしらー?」

「はン、普段ふだんのウザさで感謝の気持ちもちょうしなんでしょーよ」

「はいそこダマんなさいエリダッ!! ほんっと相変わらずカラんでくるのね、私のこと大好きか!」

「ふふーんだ、まァ前より絡みやすくはなったのかもネ~? なんせあたし? 今回の試験? あなたより? 大差たいさでウエなんですものオ~ホホホホホ~!」

「ウッッッッザ!!!! なにさたった二位ぶん上だっただけでさ!! あんなもん誤差ごさ誤差ごさ!!」

「七十二点差を誤差とは言わないでしょ情けない」



 ハスキーボイスがボソリと場をこおらせる。

 マリスタはギロリと顔をしかめ、小柄こがらな茶髪の少女、シータ・メルディネスへドスドスと突進し、やいのやいのと口喧嘩くちげんかを交わし始めた。

 せわしい。



「まったくさわがしいんだから、少し大人しくしてれば可愛げもあるのにねぇあの子」

「エ、エリダがそれ言う……?」

「あいつと比べたらマシよ、マシ」

「アマセ君」



 エリダの横にいた、ミディアムヘアの黒髪の少女――リア・テイルハートが俺の名を呼び、睫毛まつげの長い目を気遣きづかわしげに細める。



「本当に、ただの疲労? 冬休み明けから、ずっとそう言ってるけど」

「……ああ。リコリス先生にも何度も検査けんさを受けたけど、やはり疲れだと言われる。実技じつぎ試験しけんで無理をし過ぎだとな。だからそう気にしなくていいよ」

「気にしないでと言われてもねぇ……実技試験前と比べて、明らかに弱ってるんだもの。ひとりの友達として、心配するなって方が無理な相談なんじゃない?」

「お、システィーナじゃん、ハヨー」



 エリダがひらひらと手を振る。

 腰まで届く髪と、ベージュローブの上からでも分かるほど主張する胸をたゆませながら、システィーナ・チェーンリセンダはマリスタの後ろにある自身の席にかばんを下ろした。

 


「ん、おはよ。アマセ君もっ」

「ああ」

「なあに、友達っていうのは早過ぎた?」

「……ご自由に」

「友達、ねぇ。そういやアマセって、実技じつぎ終わってからグッと友達増えたわよね」

「特に意識したことが無い」

「少なくとも知り合いは、増えたと思う。アマセ君、この間リフィリィとも話してたし」

「んー? リフィリィひひひーふぇ、あのふぉシータひーはと言いふぁいしてたキレーひえーな子のことー?」

「食い終わってからしゃべんなさいあんたは……」



 口をもごもごとさせながら、口元に胡麻ごまつぶをつけたまま喋るでこっぱち・・・・・は、パフィラ・ロックコール。

 こいつ、やけに静かだと思ってたらメシ食ってたからか。天真爛漫てんしんらんまんというか、なんというか。



 そんなことを考えている間にも、口にまった食い物を牛乳で無理やりのどに押し込み、飲み込んでいくパフィラ。マリスタよりも食道は強いらしいな。

 じゃなくて。



 ……いかんな。

 体から緊張感が抜けている。

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