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「…………あいつが、ティアルバーさんと?」



 馬鹿な、と一蹴いっしゅうする。



〝ビージ・バディルオン戦闘不能。勝者ケイ・アマセ〟



 ――それが出来ない自分に、愕然がくぜんとする。



 それが、ほんの十五分前。



(起こってたまるか。そんなことが)



 ケイ・アマセが、ナイセスト・ティアルバーと同じ舞台に立つ。

 そんな事態を、彼はその目に認める訳にはいかない。

 矜持きょうじにかけても、それだけは否定しなければならない。

 そうした気持ちで、彼は再び第二ブロックのスペースへと戻った。



 奇跡は一度だ。

 次戦の相手が誰であろうと、ケイ・アマセは勝ち得ない――



〝残念だけど、私の限界はまだ先よ! ロハザー・ハイエイト!〟



 ――そう思い戻った彼の視界にまたしても、思ってもみなかった光景が広がる。



 気にも留めていなかった、次戦じせん

 スペース中央で立っているのは、グレーローブのロハザー・ハイエイト。

 そしてその対面に立っていたのは、あろうことか――義勇兵ぎゆうへいコースですらない、マリスタ・アルテアスだったのだ。



(……僕はやはり、夢を見ているのか?)



 何度も目をこすり、しばたいても、その光景は変わらない。



 彼の前で起きた赤と灰の互角・・の戦いが、彼に否応いやおうなく悪夢を見せ続ける――



雷霆の槍トニトルス・ハスタアァァッッ――――――!!!!〟

海神の三叉槍ヴァダレイ・リュアクスッ――――――!!!!〟



 魔力の光。

 紫と青の輝きが、誘蛾灯ゆうがとうのように少年をき付けていく。



 気が付けば少年は英雄の鎧ヘロス・ラスタングを発動させ、観覧かんらんせきにすら回り込まず、障壁しょうへきに張り付くようにして試合をながめていた。



〝――――どうしてそこまで変われたんだ?〟

〝変わってないよ。これが私だもの〟



 ――疑問がき上がった。



(何が、あなたを動かしたんだ?)



 一体何がどう作用すれば、マリスタ・アルテアスが義勇兵コースに移ることになるのか。

 ぐうたらで不真面目で、でもそれさえ少年の目には天真爛漫てんしんらんまんに映った少女が、何を目指してグレーローブと互角ごかくの勝負を繰り広げるほどの力を、ふるい立たせるに至ったのか。



〝――――そう、ケイは私に気付かせてくれた〟



 ――少女自身の口から、その答えは彼の耳に届いた。



(…………また、お前なのか)



 ――少年が、拳を固く握る。

 最早もはや、認めざるを得ない。

 少年の心をよどませるもの。疑いようもなく、それは、



(ケイ・アマセっ……!!)



 深い深い、嫉妬しっと



 歓声が戻ってくる。

 監督官かんとくかんのトルトが担架たんかを呼び、ペトラが立ち尽くすロハザーに話しかけている。



(…………ああ、そうか。僕は嫉妬しっとしているのか)



「マリスタ!!」



 倒れた少女を呼ぶ声。

 少年が声のした方を見ると、そこには彼女の友人が集団で押し寄せており、その後ろからは――彼の人生を大きく狂わせた、張本人が降りてきていた。



「!!!」



 急に熱いものに触れた時のように、体がねて後ろを向く。

 肩をすくめ、ローブに埋もれさせるようにして――スペースを中心に、大きく距離きょりを取る。



(って……馬鹿か僕は。何を距離きょりを取っているんだ、堂々としていればいいのに。これではまるで――)



 僕がこの身を。



 今、この生を、恥じているようじゃないか――――



「とんでもない魔波まはだったね。今のは」

「!…………!!!?」



 ――少年は、やはり夢を見ているのではないかと思った。



 背後。今、自分に話しかけてきたらしい存在。

 あわく光る茶髪の長身。その下にたたえた微笑びしょう

 それは久しく見ることのなかった、二人目のホ・・・・・ワイトローブ・・・・・・



「あ、あなたは……!」

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