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「校長、」

「絶対に逃げ出せないよう拘束しておいてください。あごの骨折などどうとでもなります。それよりリコリス先生を」

「ここにいます」



 演習スペース内から歩み寄る校医こういパーチェ・リコリスにクリクターが視線を向ける。

 けいすでに、複数の教員達によって浮遊ふゆう魔法まほうで運び出されていくところだった。



王都おうとの医師に連絡を付けてください」

よろしいのですか・・・・・・・・?」

「止むを得ません。『痛みの呪い』に対応出来る医師はそう多くない。……事態の収拾には、余念よねんく当たらせていただきますから」

「……了解しました」



 パーチェが去る。



 クリクターは両手の指で、額をなぞるようにしてその白髪しらがあたまをかきあげた。



「……校長。『痛みの呪い』ってのは、」

「その名を不用意に口にしないことです。ザードチップ先生」

「……何ですって?」



 トルトが眉をひそめる。

 クリクターは彼に背を向けたまま、拘束され、それでも顔に笑みをり付けているディルスを見上げて、



「…………二十年前で止まった時間が、今になって動き出すというのですか」



 誰に言うでもなく、吐き捨てた。




◆     ◆




「――そうして、ディルス・ティアルバーさんとナイセスト・ティアルバー君はしかのち、学外から駆け付けた王都おうとの関係者に連行されていった。これが実技じつぎ試験しけん顛末てんまつさ」

「…………」

「…………」

「……どうなるんだろう。ティアルバー君」

「うーん。ま、近いうちに処刑しょけいされるだろうね」

『!!!!』

「や、もしかしたらもう処刑されてる可能性もあるか。…………あ、ごめん。憶測でものを言うべきじゃなかったね」

「そ、そうですよ……もう少し気を使った方がいいですっ。キースさん、こんなに――」

「大丈夫」

「大丈夫じゃないよっ!」

「大丈夫……暗い顔、してたって。何も変わらないから」



 能面のうめんで、ヴィエルナが言う。

 阿呆あほうめ。

 さっきまで泣き出しそうな顔をしておいて、それは無理過ぎるだろうに。



「どうして奴らが処刑されると思う、ギリート」

「当り前じゃないか。彼が使った魔術まじゅつ『痛みの呪い』は、それほど大変なシロモノなんだよ」

「……確認させて、イグニトリオ君」



 ヴィエルナが椅子から身を乗り出す。



「『痛みの呪い』、魔術・・なの? 魔法・・でなく?」

するどいね、その通りだよ。あの魔術は――」

「おい、ギリート」



 ギリートが言葉を切る。

 切って、俺を見た。



 何もかもを見透かしたような、人を小馬鹿こばかにしたようにも感じる目。

 間違いない、こいつ――



「……お前知っているのか? 『痛みの呪い』のことを?」

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