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「先のデモで、学長はある程度正しい手続き・・・・・・んだ要求を無下に出来ないと私は見ました。ついでにたぶん、愛娘まなむすめによる可愛い我儘わがままにも」

「そうですかねぇ?!?!?!」

動揺どうよう。しない」

「いやいやいや。あり得んでしょあのカタブツオヤジが……」

「可能性の話です。ですから、許可を得に行くときはマリスタが行くのが最善かもしれませんね。発案者として」

「う、うーん……ケンカしないように気を付ける」

「しかし危ない綱渡つなわたりだよね、それ……ま、動けるだけよしとしなきゃダメか」

「ああ、何もねーよりマシだ。んで三つ目についてはどうなんだよ。正直これも大概たいがいヤベー問題だと思うけどな」

「ど――どういうこと、バディルオン君」

「アルクスだってバカじゃねぇ、きっとおびき出すための作戦はあったはずだろ。『昨日奴らが出てこなかった』ってのは言葉通り受け取るべきじゃねー……あれはつまり、『アルクスが使った誘き出し作戦にも、襲撃者共はノッてこなかった』って見るべきなんじゃねーのか」

『……!』



 ほぼ全員が息をむ。

 ナタリーは小さく鼻で笑った。



「あやあや。以外に中身は詰まってるんですねぇ、その頭」

「うっせぇ。いちいちバカにしてんじゃねーよ」

めずらしいことに、私もバディルオンさんと同意見です。つまり襲撃者共を誘き出すには、『アルクスにも出来そうなこと』をやっていても無駄だということです」

「……それもまた、とんでもないね。僕らにアルクスを出し抜けってことだろ、それ」



 チェニクが眼鏡のズレを直しながらうつむく。一同の顔がより暗くなった。

 しかし、ナタリーはかぶりを振る。



「アルクスとの勝負じゃないんです。彼らを出し抜く必要なんかありませんよ」

「だ、だけどさ……」

「作戦を成功させるため、結果的にさきんじて襲撃者を誘き出す必要がある、というだけです。むしろアルクスとは敵対せず、最終的には共闘できる方向に持っていくべきでしょう。やり方は違えど、利害は一致するはずですから」

「アルクスと、共闘する方法……うああ、なんか何から考えたらいいか分かんなくなってきた」

「すみません、話しをらかしてしまいましたね。本筋ほんすじに戻しましょう」



 ナタリーが小さく左右に首をふりながら、ニット帽のズレを直す。



 その様が、ヴィエルナの目にはひどく不安に映った。



(…………どうしてそう感じるのかな)



「アルクスのことは置きましょう。大事なのは、アルクスにはない手札で襲撃者をおびき出す、ということです」

「アルクスには無い、手札……?」

「王女の存在ですよ、マリスタ」

「あ――そっか! あの子を上手く使えば……あれ、でもそれって、私達が王女に危害を加えるってこと? それマズいんじゃ――」

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