6

「今までより? ヒドい発作が? 起きといて?」

「しゃ……シャノリア」



 一瞬しびれた視界の先に居たのは鬼監督……もとい、シャノリア・ディノバーツ教諭。

 美しいブロンドの髪をユラユラとさせながら、開ききった肉食獣にくしょくじゅうのような目で俺をとらえる。



「それでもなお? 戦いたいですって?」

「お、俺の身体だz」

「だからこそ大切にしないとダメでしょうがっ。このバカ!!」

「ッッ?! さ、叫ぶな顔の近くでッ……」



 大声に負けて反射的に首をらしたが、結果耳が声に近くなって倍のダメージ。

 ひるんだ拍子ひょうしに再度顔を真正面に向けられ、その水色に透き通った目が俺の目を穴の空くほどにのぞき込んだ。



ひどくなった」

「……だからそんな確証は何もない話で」

「症状へのあなたのリアクション! これまで二ヶ月変わらなかったのにここ二、三日でだいぶ酷くなってる! ついでに今一瞬言葉に詰まった。嘘吐くときの間だった!」

「…………確かにさっきまでは酷い発作があった。でも今は」

「発作がおさまったからって? それが『嵐の前の静けさ』じゃない確証なんて、どこにもないでしょう。とにかくもう、ザードチップ先生とは戦わせませんから」

「!」



 シャノリアが、手の甲にあったマークを擦り取る。

 かわいた砂のように、赤いマークは塵となって消えた。



『おっとぉ!? これはどうしたことだ、ディノバーツ先生が自分でマークを消してしまったァ!? って驚くわけねーだろいい加減! あんたらそんなのばっかりだな! はいはーい、そんなわけで脱落! ゲストわくティーチャーカップルゥぅぅう!』



 ブーイングさえ聞こえる中で、ツンとした顔で去っていくシャノリア。

 頭をきながら、トルトがそれに続く。



「そうやって怒りの目線を向けたって無駄よ。あなたの気持ちは出来る限りみたいけど私は教師で、それ以前に……ケイに死んでほしくない。いつでも味方だと言ったけど、これからもその一線だけは――」

「何か勘違いしてるな、お前」

「――え?」

「何をグダグダ話してるんですか。済んだんならすぐ言ってくださいよもう」



 後ろからナタリーの声。

 振り返り、俺が何を考えているか察した様子で口元をヒクつかせているシャノリア。



「俺は確かめたいだけだ。この久し振りな、何にもしばられる感覚の無い状態で、どこまでやれるのか。別に相手はトルトでなくても構わない」

「だっ、だからその感覚がもっと酷い発作の前兆かも――」

「この身体をどうしようと俺の勝手だ。ナタリー」

「はい?」

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