7

「――――」



〝君に近しい人間なんて、度を越してるんじゃないかってくらい君を信用してる。愛してるって言った方がいい?〟



 ――愛してる・・・・にはまだ遠い、か。



 頼んだぞ、ギリート。



「いつまでくっちゃべって・・・・・・・いるつもりだ? もう待てん、歩けアマセ」

「ああ、分かった」

「――ッ待ってください、ケイさん!」



 ペトラへ向き直った俺の背に投げられるナタリーの声。『待ってくれ』だなんてめずらしいな、何事だ。

興味もあって足を止めたかったが――ペトラの顔を見るに、これ以上はもう待っていただける様子じゃない。

俺は仕方無くそのまま、



貴方あなた黒騎士くろきしに勝てますか?」



 ――――足を止めた。



「な……ナタリー?」



 マリスタの疑問の声。

 当然だろう。俺にも意味が解らない。

 脈絡みゃくらくもなく唐突に、一体こいつは何をいてるんだ。

 いや、何をってそれは文字通り黒騎士――アヤメに勝てるかどうかを聞いているのだろうが。



「アマセ!」



「貴方は」ということは、俺個人がアヤメに勝てるかということか?

しかし、俺個人が勝ちすじを持っているかどうかなんてことはこれまで全く話題に――



〝あんたらを信用することにした。今回に限り〟



「いいだろうアマセ。それ以上無駄にとどまるならこちらにも考えが――」

「やれんこともない。俺にしか出来んやり方・・・・・・・・・・でな」

「!…………」



 ナタリーからの返答を待たず、ペトラを追い越して演習スペースを出る。

 背に声が投げられることは、もう無かった。

 転移てんい魔石ませきが見えてきた所で、追いついてきたペトラが横に並ぶ。



「一体何をたくらんでる? 言った方が身のためだぞ」

「別に。俺だったら黒騎士クローネ《・・・・・・・》に勝てるかどうか、なんていう下らない雑談だよ」

「とぼけるな。あのタイミングでそんな――」

「学祭が終わるまで閉じ込めるんだろうが、これから俺を。四六時中アルクスに監視かんしされながらどう動けるんだよ」

「――…………」

「変な邪推じゃすいするひまがあったら、さっさとプレジアを救うさくの一つでも考えてくれよ」



 ペトラを適当になし、己の言葉を省みる。

 「俺にしか出来ないやり方」と言えば聞こえはいいが――――結局は他人頼みだ。

 俺自身に奴を斬り伏せられる力があればよかったが、それも望みは薄い。



 ……手札が少ない。

 ナイセストの時より、遥かにの悪いけ。



 でも――――それ・・が信頼か。

 実技じつぎ試験しけんの時、俺を応援していた多くの者達もこんな心持ちだったのだろうか。



「…………頼んだぞ。マリスタ」



 努めて口にし、不安を外へ追い出す。

 これは蚊帳かやの外ではない。

 俺が今回自ら選ぶ、信を頼みとした道の一つなんだ。



 出来ることはした。

 後は待とう。



 呪いもまたぞろ、うずき出した所だしな。




◆     ◆




「結局、アマセ君のあのアドリブって何だったんだろうねー」

「役作りしてたんじゃない? クローネが神様たちに復讐ふくしゅうしんを持ってなかったともいえないわけだしさ」

「それにしてもノリノリだったよねー……あんなにシーンを引きばして何考えてたんだか」

「まったくだ。リフィリィが動かなきゃ俺がブンなぐってたよ」

「それでなくても二時間半の長丁場ながちょうばなのにな」

「ね。お客さんおしり痛かったと思うな」

「アマセは演劇に関しては素人だしなー」



 方々ほうぼうでそう話しながら、生徒達は誰からともなく舞台裏ぶたいうらの片付けに動き出していた。

 動かず何やら話しているのは、リフィリィが座り込んでいる場所にいるマリスタらだけである。



「……いいのだわね」

「お願い。私もそれが一番いいと思うから」



 マリスタの言葉を受け、シータがリフィリィの前に立つ。

 泣きはらした目のリフィリィが銀髪の先に彼女をとらえ、周囲の者もシータの表情に切迫したものを感じ、彼女を注視する。



 片付けに入っていた者達がその空気に気付き始めた折、シータはリフィリィに――――否、会場にいる全員に向かって口を開いた。



「聞いて欲しいことがあるのだわ。ここにいるみんなに」

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