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「ケイ・アマセを助けるわ。教師わたしたちが今使える『力』を、全部使ってね」

「た……!?」

「助ける!?……ったって、」



 口をあんぐりと開けて固まるマリスタの前に、ロハザーが出る。



「さっき言った内容、そのままの声明文を、ケネディ先生に用意してもらっていたの。これから執行部に提出しに行くわ」

「……どうにかなるのか? そんなことで」

「ふふ。私達に出来ることは、これしかないってこともあるけど……数はそのまま、大勢の意志表明にもなる。世論もそうして動いてきた歴史がある。下々の声ってのも、なかなか馬鹿にできないものよ。――でも、」

「プレジア教師、総勢五十名。こればかりじゃあ、ちと声明には足らねぇんだよなあ」

「だ、ダメじゃないですかっ!」

「やっぱりですか。わざわざ声明の要旨ようしを読み上げるから、そうじゃないかと思ってました。で、何ですか? 血判けっぱんですか?」



 ギリートが剣の柄に手をかけ、おどけた様子でさやを揺らしてみせる。

 シャノリアが苦笑くしょうした。



「そんな前時代的なことするわけないでしょ。――この契約書けいやくしょに、魔力を流しこんで。ここにいる全員がね」

「全員――」



 マリスタが目少し見開いて、背後を振り返る。

 そこにいるのは、総勢七十余名よめいにもなる魔術師たちの姿。



「――少し時間を取らせ過ぎてしまいました。改めて問います、みなさん」



 アドリーが笑みを引っ込め、リグオートを見る。



み絵まがいの行為は、したくはありません。ただ問います。ケイ・アマセの解放を求めるこの声明に、同意してくださいますか?」

「――――……一つだけ聞かせてくれ。アルテアス」

「え――わ、私?」



 リグオートが申し訳なさそうな目で、しかししかと、マリスタの目を見た。



「お前達が隠してることを、隠さなくてよくなった・・・・・・・・・・とき。俺達は――プレジアは、どうなってるんだ?」

「…………」



 ――少女、そうかんのいい方ではない。

 にぶいときはとことん鈍く、今この時も、マリスタはリグオートの言葉を表層ひょうそうさえ、そう理解できたわけではなかった。

 しかし、



(プレジアが、どうなっているか)



差別さべつ偏見へんけんめ、反面教師の『理想郷ディストピア』! それがプレジア魔法まほう魔術まじゅつ学校がっこうっていう場所でしょうが!?〟



差別さべつ偏見へんけんと、傲慢ごうまん浅薄せんぱくに満ちた温床おんしょうで肥え太ったお前達何の力も無い生徒達に!!…………一体何をどう期待して信じろというんだ〟



 「プレジアは、差別と偏見に満ちている」。人は、少女へ口々にそう言った。



(……違う。それはぜったい違うんだって、体のどこかがずっと叫んでる)



 だが、まさに当事者としてプレジアの差別と偏見の変遷へんせんを見てきた少女は、ことごとくその言説に反抗はんこうしてきた。



〝ダメじゃないですかっ!〟



(――――ダメじゃないんだ)

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