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 ――少女の胃が重くなる。



思う。

なぜ、こんな気持ちにならねばならないのかと。



 勝ったのは自分たちだ。

 勝ち取ったのも自分たちだ。

 彼らは国を滅ぼそうと、ココウェルを全裸にいて王都中にその姿をさらして笑いものにした挙句殺そうとした、憎むべき悪だ。



 山のように傷付けた。

 山のように壊した。



 それが悪でなかったら、一体何が悪いことになるのだ。



 なのになぜ――まるで自分が彼らを殺す、殺人者であるかの、ような――



「…………兵士長、」

仮初の就縛パティゲルト

「ぐっ……!」

「ッつァ……!?」



 ガイツが人差し指を向け、ノジオスを拘束する。

 アティラスもまたマトヴェイを拘束した。



「今度は同情しようってわけ? 勝手気ままでいいですわね、お子さまは」



 イミアの言葉が少女に刺さる。

 ノジオスの言葉が少女を貫く。



〝助けるべきじゃない人間なんていないッッッ!!!〟



 マリスタの言葉が、少女の顔を無力感にゆがませる。



「希望的観測を述べるつもりはない。悪いが貴様も息子も処刑はまぬがれんだろう。だがそれは少なくとも今ではない――貴様等を連行する」

「…………」

「……ボルテール兵士長、応答を。…………? ボルテール――」



 明後日あさっての、方向から。



 魔力を感じない、黒く小さな塊が、投げ込まれた。



『――――――――――』



 全員が力を出し尽くしていた。

 全員が警戒を解いていた。

 故に気付けなかった。



 強者たちの中心で、目を耳を引き裂くような音と光が、炸裂さくれつした。



「きゃあッ――!!?」

「なッ――」

「ッッ!!!」

「ぐおっ!?」

「なああっ……!?」

「なッ、なん――」

「……!!!」



(全く魔波を感じなかった閃光弾せんこうだん――――これはッ、)



 光が消え、音が消え――耳鳴りが止まないうちに、視界が戻る。



 そこには強者達の中央からノジオスを奪い取り、手の届かない遠くで組み伏せた一人の黒装束の姿。



 ノジオスの首根くびね目がけて白き刃を構えたばかりの、黒装束くろしょうぞくの姿。



「――おやじ、」

『――――――――』



 マリスタがノジオスを見た。

 ノジオスがマリスタを見た。

 あまりに一瞬で、彼らは互いを見るしかなかった。



だがそれが、小男の最期さいごになった。



「――――――まとヴぇ、」

「――――――――――――――――、、、、、」



 言い切らぬ、うちに。



 白き剣光が、ノジオスの首をあっさりぎ斬った。

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