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――――――――ッッッ!??!?!」



 ――海老えびのように一足いっそくびに後退、赤銅の霧から逃れるペトラ。

 延髄えんずいの奥でチリチリと燃え残るまわしいナニカ。

彼女はおさえ込むように、空いた片手で頭を抱えた。



「はぁ、ハァ――――今のは何ッ……!!?」



 荒れた呼吸、冷めやらぬ動揺どうようを殺しながら、ペトラが顔を上げる。

 目の前には修復を終え、得物えものはりつけの少年に狙いを定める髑髏の姿。

 


(私を狙っていたわけではない……では、さっきのはこの魔法の余波よは!? 馬鹿な、余波であれほどならば直接らえば――――)



「ッッ――――何をしているトルト・ザードチップッ!!」



 応援を求め、声だけを張り上げてプレジアの教諭を呼ぶペトラ。

 その切迫せっぱくした声でさえ、トルトには――――自意識に没入ぼつにゅうした男には届かない。



(なんだ――――アレを見ると、俺の中でなにかがざわめく)



 まばたきさえ忘れた両眼りょうがんは吸い寄せられるように赤銅を凝視し、トルトに目をらすことを許さない。



(なんだ、なんだってんだ……!あれは、あいつは一体何――――)



「『痛みの呪い』ですッッッ!!!!!!!!!!」

『!!!』



 張り裂けんばかりの声が、二人の監督かんとくかんつらぬく。



「『痛みの』――」

(――『呪い』?)



 声に目を向けるトルト。教師用の観覧かんらんせきから一息に飛び降り――――階下かいかに降り立ったプレジア校長、クリクター・オースが、鬼気ききせまった顔でトルトを見た。



「ナイセスト・ティアルバーの意識を完全に奪いなさいッ!!!早くしなければ――――二人とも廃人になってしまう・・・・・・・・・ッ!!!」

「は、」

廃人はいじんだぁ!?」



 トルトが髑髏どくろに視線を戻す。



 体はもう、とっくに臨戦りんせん態勢たいせいに入っている。

 なのに、頑として足が動かない。

 まるで――あの赤銅しゃくどうに触れた瞬間、死んでしまうことが解ってでもいるかのように。



「チッ――!!」

「術者を止めればいいのか、だが……っ」



 赤銅に至近距離で対峙たいじするペトラ。

 髑髏はその間も鎌の高度をゆっくりと上げ、第二撃を――とうとう、けいの胸へと定めた。

 うなだれたナイセストは髑髏の心臓部。



(どうする、どう攻めれば――)

「そのままです、兵士長」



 ――天からの声。



 それにペトラが気付いたときには――煌々こうこうと光る滝のような熱線ねっせんが、赤銅の顔と両腕をすっかり飲み込んでいた。



『!!』



 灼熱しゃくねつの風がスペース中央に吹き荒れる。

 観覧席から悲鳴。生徒たちの前に立った教師達がこぞって魔法まほう障壁しょうへきを展開し、熱波ねっぱから彼らを防護ぼうごする。



 目を見開く銀髪と黒髪。



 スペースへと降り立ったのは――――放たれた熱線と同じ色をしたホワイトローブを身にまとう、茶髪の少年。



 職業柄、ペトラはその人物をよく知っていた。



「ギ――ギリート・イグニトリオ!」

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