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 ギリートは、がじがじと噛みついたままなファンシー怪物モンスターでながら詰所つめしょを出ていく。



 そんな、いまいち緊張感の残らない空間に、俺は一人で取り残されたのだった。




◆     ◆




少年少女の、楽しげな悲鳴がプレジアにこだまする。

 とりどりの光と珍妙ちんみょう浮遊物ふゆうぶつに彩られたプレジア魔法まほう魔術まじゅつ学校がっこうの校舎内上空。

 そこに現れた大量の小さな魔法陣まほうじんから――――次々と、人間の頭部ほどの大きさのファンシーなモンスター――――召喚獣しょうかんじゅうたちが雨あられと降り注いできたのである。



「きゃー!? なんか頭かじってる、かじってるぅぅうう??!?!」「かわいー!!」「きゃーんちょっとなにこのへちゃむくれ?!?! ヤバッカワッ」「いやーんこのおサル服引っ張ってくるんだけどー?!?!」「ぷにぷに……!!」「なんかメチャメチャ降ってきてるわよコレー?!?」「かわいいじゃん」「かわいいかコレ……どっちかってーとブサイクな気が……」「ブサカワってやつだろ」「でも憎めない顔してるねぇこれは、たはは」「マシュマロみたーい!」「ドッジボールしようぜ!」「しっぽふりふりしてるー!」「きゃはは、まてまてー!」「俺ネコみたいのとった!」「あたしいぬー!」「クチでっかいのもいるぞ!」「わたしのふかふかするー」「おれ三びきとったもんねー!」「ずるーい!」「そーぉ? ぬいぐるみみたいでかわいいじゃん」「そりゃ一匹だけならそうでしょうよ!! あーもう人の頭の上で重なんないでよぉ重いっつのっ!!」「うおっ?! ま、待てコラ俺のポテト返せおいっ」「わーん私も景品られたー?!」「うわんじまった??! って……あれ、消えたわ」



『くっ……ぷ、プレジアのみなさん無事でしょうかぁっ?! わたくし学祭実行委員会のケイミー・セイカードです!! さて大変なことになっております、なんと第二層を中心に、プレジア全域ぜんいきにてナゾのモンスター集団が大量発生しております!! いやー大変だ、このちょっぴりかわいいモンスターたちを倒さないと、プレジア大魔法祭だいまほうさいを終えることが出来ませぇん!!! ああっ、一体どうしたらいいのでしょう――ってうわぁ!?』

『いたずらに混乱を広げるような放送をするなっ!――プレジアの学徒がくと諸君しょくん見えているか、風紀ふうき委員会いいんかいのペルド・リブスだ。現在、風紀委員会の各員をプレジア各所に送っている、その者達の指示に従って避難してくれ。敵の正体については今我々が徹底調査している。それまではくれぐれも――――何だ!? 何の音だっ!』



「うわぁ!!?」「うお?! で、でかいぞっ」「こ、このデカさヤバくね……!?」「次は何が出てくんの~?」「ちょちょちょ、巻き込まれる巻き込まれるっっ」



 ペルドの声が、プレジア各所に出現しだした半径一メートルにも及ぶ魔法陣の発する音にさえぎられる。

 闇色に光る邪悪な魔法陣まほうじんから現れたのは――――先のモンスターたちとは似ても似つかぬ、細身で顔の無い異形いぎょう怪物モンスターであった。



「な、なんだよこの得体のしれない奴ら!?」「ちょ――ちょっとコワいんだけど」「うえーん!!」「コワいよ~!!」「だ、大丈夫だぞ!」「俺達が守ってやるぜおじょうちゃんっ……!」「っ!? 動き出したぞっ!!」



 大人達からも野太のぶとい悲鳴が上がる。

 人間離れした細身の化け物はするど跳躍ちょうやくし、その場にいる者達に無差別に襲いかろうとして、



『そこまでだッ!!』



 ――ひるがえる、色とりどりのローブ。



『!!?』



 吹き飛んでいく化け物たち。

 駆け付けたのは、腕に魚をくま刺繍ししゅうほどこされた腕章わんしょうを付けた――――風紀委員の面々だった。



『間に合った。ペルド』

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