第25話 最弱と最強

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 ビージ・バディルオンとチェニク・セイントーンは、プレジア第二十四層入口、転移てんい魔法陣まほうじんの前に立っていた。



 彼らだけではない。

 幾人もの、魚をくま紋章もんしょう刺繍ししゅうほどこされた腕章わんしょうをした風紀委員ふうきいいんが、転移魔法陣付近の壁に並ばされているのだ。

 昨日は無かった、物々ものものしいまでの風紀委員の動員どういん

 誰もが異様いような空気を感じ取ってしまうのは想像にかたくない。

 当事者である二人にとっても、それは同じことだった。



「……教員きょういんの数も明らかに増えてやがるよな」

「間違いないね」

「チッ……つくづくいやになるぜ。あの『異端いたん』のためなんかに、俺達風紀委員がり出されてると思うとよ」

「また頭に血が上るよビージ。それに、僕らが駆り出されているのは『異端いたん』の為じゃない。ティアルバーさんのためさ。そう思えばいい」

「そりゃあ……そうだがよ」



 歯切はぎれの悪いおうじ。

 言い出したチェニクでさえくもった顔をしている。



 昨日見た、血の光景。



 ヴィエルナ・キースの辿たどった末路まつろが、彼らが抱く信念を、いただ大貴族存在らがせている。



「……このまま、で、いいんだろうか。僕ら」

「こ、このままって……ンだよ」

「いや、だからその……つまり」

「………………分かんねぇよ、もう。なんにもよ」



 ビージの目に、魔石ませきの破壊された第二ブロック周辺をうろついている生徒が目に入る。

 彼はその金髪の少女に見覚えがあった。

 少女も――エリダ・ボルテールも無論むろん、彼を覚えている。



(キースさんのお見舞みまいに来てた人か……)



 横目にビージをとらえ、再度第二ブロックの演習スペースへと視線を戻すエリダだったが、その後もせわしなく、彼女の目は二十四層をめぐる。

 緊張をまぎらわせようとあちこちに視線を送るたび、風紀委員会、そして教師陣による厳戒態勢げんかいたいせいが目に入り、緊張はますます高まっていく。



「うおー。なんかこわー!」

「あんたはもっと緊張感持ちなってのパフィラ……」

「わかんねー! リア守ってねー!!」

「うん。エリダも、危なくなったら私かシータの方に来てね。障壁しょうへき、出すから」

「そりゃこっちのセリフよ。あんたらだけはあたしが守るからね」

「……ありがとう」

「あんがとー!」

「よく普段ふだん通りうるさく出来るわねあんたは。私はもう気が滅入めいって仕方ないわよ」



 パフィラの後ろで、げんなりした様子でシータ。エリダが苦笑くしょうする。

 そんな会話に反応すら示すことなく、パールゥ・フォンは誰よりもスペース近くに歩み寄った。



「パールゥ?」



 エリダの声にも、パールゥは振り向かない。

 ただスペースの石壁に手を置き、力んだ肩のまま中を見つめるばかりである。



「……エリダ、あんたパールゥに何したワケよ」

「なんもしてないですけど?! …てか、気持ちはなんとなく分かるでしょ、こんな空気なんだし。いつも通りにいられる人の方が、少ないんじゃない? ねぇパフィラ」

「そうかもなー!」

「……そうだわね。メンツも、いつもと違うのだし」



 シータが頭をかき、背後を見る。そこにはパフィラ、リア、システィーナの姿。



マリスタの姿は、どこにもなかった。

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