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◆     ◆




 ……やはり、俺は出してもらえはしないらしい。



 少し眠っただけのつもりだったが、存外疲労していたようだ。

 ぼんやりしていた頭に、大魔法祭だいまほうさい二日目があと一時間で終わることを伝えるアナウンスが響いてくる。



 ……出られなかったか、二日目の劇。



 いや、あの鬼監督おにかんとくのことだ。案外、代役を立てて上手くやったかもしれない。

 降っていたような災難とはいえ、あれだけの労力を注ぎ込んで作ったものが俺一人のせいでフイになった、なんてのは寝覚めが悪い。



 学祭は今日で終わる、とアドリーは言っていた。

 襲撃者の捜査からも、学生ははじき出されたと聞いた。



 練った作戦も交わした約束も、すべては水泡すいほうに帰したというわけだ。



 ギリートとも戦えない。俺が解放された時、奴はまた長い休学に就いた後だろう。奴の持つ情報は恐らく、もう手に入らない。

 手に入ったとしても、それはどのくらい先のことか。



 だが、諦める訳にもいかない。リセルに見限られた今、俺がすがることが出来るのはあいつの情報と――



騎士きしに。わたしのものになりなさい〟



 ……もし。

 もしこのプレジアに、俺にとっての旨味うまみがもうないのだとしたら……俺はどうする?



 いずれ、考えなければならないことだ。

 俺は中等部六年生に籍を置いている。望む望まぬに関わらず、そう遠くない未来に俺はプレジアを――――



「…………?」



 ――――耳に、聞き覚えのある歌声が聞こえてきた気がした。



 俺と閉じ込める扉に体を寄せ、耳をます。

 やはり聞こえる。忘れるはずも無い、あの歌――――リリスティア・キスキルのライブで聞いた歌だ。



 だけど何故? 確か、ライブは前夜祭以外予定されていなかったはずだが……



「何なんだ今のアナウンスとこの歌は!?」

「確認中!」

「生徒どもめ、連絡を行き届かせることも出来ないのか……!」



 そして何やら、扉の向こうも慌ただしい。

 ここがアルクスの詰め所がある第四層なら、向こうで騒いでるのはアルクス共のはずだ。

 あの歌とアナウンスが、奴らの想定外の出来事? 一体何が――



「――――そうだ」



 アナウンスは、魔法祭の終了一時間前のアナウンスを告げていた。

 だが学祭最終日は片付けのため、祭り自体が一日目二日目より一時間速く終了する予定になっていた筈だ。

 「連絡が行き届いていない」ってのはそういうことか。



 だがどういうことだ?

 学長代理とアルクスの命で、学祭は今日で――



「今日は突然の集会なのに集まってくれて、みんなありがとう!」



 歓声。そしてリリスティアの声。

予想よりずっと早く歌は終わり、リリスティアが何やら拡声器かくせいきで大声を張り上げている。



 これだけ短く終わったということは、何だ? リリスティアの歌は前座だったのか?

 ゲリラライブのようなもよおしじゃないのか?



 どうなってる。何が起こってる?

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