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「うん。信用って作るの難しいんだよ? ロンリーウルフ気取ってる、自分にしか興味ない人間が易々やすやすと作り上げられる代物シロモノじゃあ無い」

「知るか。こいつらが勝手に――」

「だから、こう思った。君はそんな・・・人間じゃないのかもしれない、ってね」

「――どういう意味だ?」

「『痛みの呪い』。ひどいんだろ?」



 ギリートが、舞台袖ぶたいそでに立てかけられていた小道具――――『英戦えいせん魔女まじょ大英雄だいえいゆう』の登場人物、神ゼタンの剣を拾い上げる。



談話室では・・・・・ああ言ってみたけど、正直君はもうダメなんじゃないかと思ってたんだ。闘争心とうそうしん起こすだけで発作ほっさが起きる体……戦士としても、言っちゃナンだけど人間としても完全に戦力外じゃないか。――――でも、君の周囲は全然そう思ってない人が多い。君の意志を理解し、信じている。君はまだ戦いたがっている、また戦うことが出来る、ってね。――どうして彼らがそんなに君を信用しているのか。今度は本当に、興味がいた」



 ギリートが俺に剣を向けた。

 切っ先をぐこちらに向け、体をななめ、半身にして構える立ち姿。



 何度も見た、創世そうせいしんゼタンの立ち姿。



「僕も体感したい。みんなが信じるアマセケイの底力ってやつをね」

「……勝負がしたいってことか?」

それは君もだろ・・・・・・・。だから僕も応じようって話。この舞台ぶたいの上で今日、君から仕掛しかけてきた挑発ちょうはつにノッてあげようじゃないか。刃はもう直ったようだ・・・・・・・・・・しね・・

「――――」



〝見極めさせてもらうぞ、けい。お前がこの先、いつまで続くかも解らん仇討あだうちを戦っていける男なのかどうか〟



 ――――知らず、拳をにぎめる。

 なんだか笑えるな。



 力を持たぬ俺。全てを知る謎の人物。



 あの時・・・と同じ、「始まり」の気配がする。



「……時間をくれ」

「えっ?」

「今戦っても、きっと俺は呪いに食われるだけだ。だから時間をくれ。俺は必ず――」

「時間って言われてもなぁ。それって何日? 何年? 何十年? 言ったろ、僕は忙しいんだって」

「そう時間は取らせ――」

「ああそうだ、いいことを思いついた。じゃあ、三日あげるよ」

「――何故なぜ三日みっかだ?」

「僕は学祭期間まではプレジアにいる。それ以降は保証できない……僕が君に割ける期間は本当に――あと三日だけなの、さっ!」

「!」



 おもむろに移動し、舞台セットに立てかけてあった何かをこちらに放るギリート。

 手でつかんだそれは――劇の小道具、騎士クローネの剣。



 ……まさか、こいつ。



「……舞台上での動きは決まってる。勝手な動きで戦ったりなんかしたら、それこそ監督かんとくから大目玉だぞ」

「舞台上で戦えなんて言ってないだろ?――――僕は期限を定めただけ。君の戦う意志に、体がどれだけ付いてくるのかを見たいだけだからね」

「……三日後、つまり学祭の終わる期間までに、俺に呪いを克服こくふくしろと。そう言うんだな」

「そりゃ無理でしょ。三日で克服できるくらいなら不治ふじやまいなんて呼ばれない――――呪いなんてどうだろうと構わないよ。今の力の最大限、君のすいを見せてくれ。ナイセスト・ティアルバーを倒したときの、あの力を。それを見て決めることにする――――君が本当に、僕の仲間るかどうか」

「……いいだろう、俺も戦ってやる・・・・・。だがその代わり」

「その代わり?」

「俺を仲間と認めたなら、知っていることを全て話せ。何もかも、全てだ」

「…………いいよ。君が仲間と認められたらね。それまでは」



 ギリートが、切っ先をまたこちらに向ける。

 ――応じ、小道具の切っ先を向ける。



「……『わたしは待とう、騎士クローネ・・・・・・。この神の座で、お前を』」

「……『いいだろう。精々のんびりり返っていろ』、神ゼタン・・・・




◆     ◆




「明日がいよいよ前夜祭ぜんやさいですね」

「……そうだな。つまりお前の赴任ふにんも近いということだ、サイファス」

「はい。見に行かれるのですか、劇。一緒に?」

「ああ。殺陣たて……アクションにも挑戦しているんだそうだ。義勇兵コースならではなのかもしれん。しかし……」

「転科から一ヶ月で、実技じつぎ試験しけんに出たくらいですからね。その実力はきっと、皆も認めるところなのでしょう」

「……だからこそ、お前が一層いっそう必要となる。娘をまもってやってくれ、サイファス」

「……ご期待に沿えるよう、一命をして尽力じんりょくします。お義父とうさん」

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