第21話 それはずっと怖いことだった。

1

 紫電しでんはしった。



 そう認識できる程度には、まだ余裕がある。



「〝しゅよ。雷鳴従えし寵愛ちょうあいの光、天衣てんい担うり手よ〟」

「!――――」



 障壁しょうへきに弾かれ消える電撃でんげき

 一瞬いっしゅん視界をおおむらさきまくの向こうで、ロハザー・ハイエイトは――すでかみなりよろいを身にまとっていた。



「〝今身命しんめいを器とし、先天せんてん契約けいやくの下、我が御霊みたまに神罰の一端いったんになわせたまえ〟――――雷光の憑代ライナー・ミュース



 はべるように、ロハザーの身体を、周囲をひらめ紫電しでん

 彼の飴色あめいろの瞳が俺をとらえ、



 消えた。



英雄の鎧ヘロス・ラスタング



 唱える。意気いき魔力まりょくに乗せ地をる。

 足裏あしうらに圧縮された魔力の解放に乗って瞬転ラピド

 振り返りながら着地、ロハザーの位置を把握はあく――



 ――ロハザーは既に、さき俺がいた場所から動き出そうとしていた。



 上空へ瞬転ラピドふg6t7う9い0――――――――ッッッ!!?



「ン゛、ぐォ……ッ!!、?」



 落ちる。



 肩を上から襲った蹴り。雷電らいでんの衝撃。

 瞬転ラピドで上空へ跳んだはずだ、どうして……



 ……どうしても何も無い。

 瞬転ラピドを見抜かれ、タイミングを合わされたのだろう。



 立ち上がりながら、追撃を精霊の壁フェクテス・クードで受け止める。

 ロハザーは止まっていた。

 あの帯電たいでん状態じょうたい、やはり魔法まほう障壁しょうへきで止められるのだ。

 しかしそれにしても――



「……思ったより速いんだな。それが雷光の憑代ライナー・ミュースか」

「そうだ。今日の相手はテメェで最後だからな――出ししみはしねぇ」

「それがいいだろう。お前には前の試合の消耗しょうもうがある。長引くのは得策じゃないだろうからな」

「だったらナンだよ。逃げ続ければ手前てめえ勝率しょうりつも上がるってか?」

「馬鹿言え。俺とお前の実力差の中で何分逃げ回れと言う」

「…………その通りだッ!」



 精霊の壁フェクテス・クードの消失寸前すんぜんに動き出すロハザー。

当然の判断だ……さて。



 奴のスピードには追いつけない。瞬転ラピドならもしやと思ったが、一撃もらったことを考えるとどうもが悪い。

 それに、まだ確かめるべきことは山程やまほどある。



 ロハザーがき消える。だが、



「――正面か・・・



 奴が移動してくる場所に先行放電ストリーマが出ることは、マリスタとの戦いで解っている――――!



凍の舞踏ペクエシス



 ――凍気の波動が・・・・・・奴を止めた・・・・・



「!! チ――」

「――どうやら水属性以外では止まる・・・・・・・・・・ようだな」



 拮抗きっこうし、魔力まりょくの光を火花のように散らす氷と雷。

 氷波ひょうはに押されるようにして、ロハザーが大きく後退した。



 ――つくづく、このかみなりおとこに相性の悪い水属性で拮抗きっこうしていたアルテアスのお嬢様じょうさま規格外きかくがいさには驚嘆きょうたんを覚える。すえ恐ろしい。



「ッ……」



 ――ロハザーが、小さくうめいた。



 彼の体をおおう紫のよろいが小さく弾けている。

 その右手、籠手こてのようにロハザーを守る部分が――――炎のように、揺らぎながら千切ちぎれ消えている。気がした。



「…………試してみる価値はあるな」



 奴は、あの右手で俺の凍の舞踏ペクエシスを受けていた。

 とすれば、あの揺らぎは。



雷宴の台タウロクス!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る