第513話 攻撃は最大の防御なり

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「か、閣下!!海が荒れて……!波が、波がまるで巨大な壁のように、どんどんせり上がってきております!!アレがこの島に直撃してしまったら、館はおろか、この島自体も……!!」


マロウに倒されなかった騎士の一人が、血相を変えて広間に駆け込んでくる。


その報告を受け、アルロはギリ……と、奥歯を噛み締めた。


「……このような形で、彼女の我々に向ける愛情の深さを再確認するとは思ってもみなかったな……」


アルロが、誰に聞かせるでもなく呟いた言葉からは、彼が胸に抱いている苦悩と悲しみの感情が滲み出ていた。


それを聞いていたその場の全ての者達が、アルロの胸中を思い眉を顰める。


人間とは違い、精霊の愛情は裏表も損得勘定もなく、ただひたすらに純粋で深いと言われている。


ましてや彼女はただの精霊ではなく、大精霊なのだ。その愛情が『反転』してしまったのであれば、向けられる敵意と殺意は計り知れないだろう。


「アーウィン、クリフォード、シーヴァー、ディルク!リュエンヌの力でもって巨大な大波が発生した!アレの直撃を食らってしまえばその余波で、ここだけではなく領海の沿岸部に甚大な被害が及ぶだろう!お前達は万が一の時の為に、その力の全てでもって沿岸部が波に飲まれぬよう、全域に結界を張れ!!……私はあの大波を……止める!!」


「――ッ!父上!!」


「父上!!お一人では無理です!!」


「そうです!せめて、我々の誰かを補佐に!!」


青褪めながら、口々に父親に進言する息子達に対し、アルロはほんの少しだけ表情を綻ばせる。


「安心しろ、私一人ではない。――ディラン殿下!!私とクライヴ・オルセンの魔力で、大波がこの島に直撃するのを防ぎます!貴方はオリヴァー・クロスと共に、『火』の魔力で霧散させた海水を出来る限り蒸発させてください!」


「おう!!」


「閣下、承知しました!!」


「リアム殿下、貴方はマテオ・ワイアットと共に、『風』の魔力で水蒸気を吹き飛ばしていただきたい!!」


「分かった!任せろ!!」


「はっ!!」


「フィンレー殿下!貴方は他の者達と手分けをし、この館の中にいる負傷者達を、出来るだけこの場に集めてください!!」


「うん、分かった。あ、公爵。ついでにこの島全体に結界張っとくから」


「え!?……あ、ああ。助かります!」


フィンレーの身体から闇の触手が次々と出て来ると、縦横無尽に館の至る所に伸びていく。


「フィンレー殿下!怪我人は僕の所に!!」


「うん。じゃ、コレよろしく」


「こ、コレって……物じゃないんですよ!?フィンレー殿下!!」


セドリックの元に、触手に巻かれた騎士達や侍従達が次々と運ばれていくのを尻目に、その場の全員が、この島を……そして、周辺海域に出来るだけ被害が及ばぬように、次々と出されるアルロの指示に従い、動き出した。


「公爵!!俺はどうやってあんたの補佐をすればいい!?」


指示を終えた後、即座に己の魔力を練り上げ始めたアルロに、クライヴが声をかける。


「ああ、クライヴ・オルセン。君の属性が『氷』寄りで助かったよ。いいか、私が詠唱を唱えている間、君の魔力を私の魔力に合わせろ!そして私が攻撃を放つ瞬間、君の魔力も同時に一気に解き放て!!」


アルロはクライヴの方に目を向ける事なくそう言い放つと、詠唱を唱え始めた。


「……『そは汝らの眷属。全ての力の源。我が命たる盟主……』」


「――チッ!無茶苦茶だな!!」


いきなり自分を補佐に指名した挙句、無茶ぶりをぶちかましたアルロの背中を睨み付けた後、クライヴは忌々し気に舌打ちした。


本来、気心が知れた者同士であれば魔力の同調は容易い。


だが、ほぼ初対面な相手とぶっつけ本番で魔力同調などと、無謀もいいところだ。下手をすれば同調する相手に魔力暴走を起こさせる事になりかねない。


『だが、ここで「出来ません」なんて……言えるかよ!!』


クライヴは覚悟を決めると、アルロの魔力に己の魔力を同調すべく、全身の神経を集中させ、自身も詠唱を唱え始める。


「……『我が魔力に宿りし水の力よ……』」


すると、クライヴの身体から青銀の魔力が立ち昇り、アルロの身体から立ち昇る蒼い魔力とゆっくり絡み合っていく。


「『愛しき優しい流れに背き、今ここに刃を向ける……』」


「『我が手に集い、純白の息吹となりて全てを破砕せよ……』」


『『氷結破砕アイシングクラッシュ』』


二人が同時に放った魔力は絡み合い、一つの大きな魔力のうねりとなり、今まさに精霊島を飲み込まんと迫りくる大波にぶつかる。


すると一瞬で大波は巨大な氷河となった。


次いで間髪入れず、ビキビキと音を立てながら、無数の亀裂が氷河に入り……弾ける。


すかさず、ディランとオリヴァーが詠唱を唱える。


「『紅の炎よ!我が剣に宿りて爆炎となり、敵を滅ぼせ』!!」


「『紅の炎よ。全てを焼き尽くす業火の矢となりて敵を貫け』!!」


二人の身体から放たれた紅の魔力が、無数の氷の塊を一瞬で蒸発させ、辺り一面を白い水蒸気が覆う。


「「『空と大地を渡りし自由の風よ。我が手に集え』!!」」


だがその水蒸気を、巨大な竜巻が巻き込み、天に昇っていった。


見事な連携により、大波による館の倒壊や島の消滅は避けられた。巨大魔法を連発した余波も、フィンレーの『闇』魔法による結界が見事に防ぐ。


「……アーウィン、領海内の状況は?」


「ご安心ください。多少のしけ程度で収まりました。どこも被害はありません」


広間のあちらこちらで、安堵の溜息が聞こえてくる。アルロ自身もホッとした様子で頷いた。


「……そうか……。殿下方、そしてバッシュ公爵家の方々、ご協力に心からの感謝を……――ッ!!」


言葉を言い終わる前にガクリと膝を突き、顔面蒼白になりながら荒い息をつくアルロの許に、アーウィン達が慌てて駆け寄る。


「父上ッ!!」


「父上!なんという無茶を!!」


「……なに、心配は要らん。魔力切れは起こしていない。……はは、なんとも皮肉なものだ。魔力が辛うじて保ったのが、リュエンヌに流していた魔力を、彼女自身が遮断したお陰だとは……」


『そういえば……』と、オリヴァー達は思い至った。アルロ・ヴァンドームはこの領海内に発生していた異常現象に、大精霊である妻と共に対処していたのだ。その結果、彼は魔力量を大幅にすり減らしていたに違いない。


そんな中で、あれ程強大な攻撃魔法を放ったのだ。クライヴの補佐があったとはいえ、相当な負担を己に強いたに違いない。魔力切れ寸前になるのは当然だ。


「……だが、攻撃がこれで終わればいいが……。もし二度目がきたら、防ぎ切れるか正直分からん」


「父上……」


「一番良いのは、リュエンヌの洗脳を解除する事だ。……彼女と魂を分けた私ならば、閉じられた海底神殿への『扉』を無理矢理こじ開け、フィンレー殿下をねじ込む事が出来る。……だが、その為の魔力量が圧倒的に足りない……!」


アーウィンの肩を借り、なんとか立ち上がったアルロの言葉に、クリフォードやシーヴァー達は悔しそうに顔を歪める。そしてオリヴァー達も、ギリ……と、奥歯を噛み締めた。


確かに。もしまた同規模の攻撃がきたとして、かなりの魔力を失ってしまった自分達が前回同様、攻撃を防ぎ切れるかと言われれば、難しいと言わざるを得ないだろう。


だが、こうしている間にもいつ攻撃が来るか……。それになにより、今現在ヘイスティング達と対峙しているであろうエレノア達は……!?


その場に再び、重苦しい空気が漂う。


「大丈夫だよ。もう呼んだから」


その時、後方から呑気なフィンレーの言葉がかかり、その場の全員が振り向く。


するとそこには……。


「「「「「は!?」」」」」


「……え……?……は!?な、なんだ!?どこなんだ、ここは!?」


左手に書類、右手にペンを持ったアルバ王国の王太子、アシュルが呆然とした様子で周囲を見回していたのだった。




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正統派のバトル展開です(; ・`д・´)

ちなみにですが、強大な攻撃魔法を撃つ時は魔力を練りあげる関係上、普段無詠唱の人でも詠唱を唱える事が多いのです。

そして最後、フィン様による新たな犠牲者が増えましたw

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