第573話 私の勝負服……?

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――そうして迎えた夜会当日。


バッシュ公爵家は朝から浮足立っていた。そして、誰もがバタバタしていた。


美容班&ケモミミメイドさん達は、己が主人(恩人)と同僚(ミア&ウィル)を、最後の仕上げとばかりに、朝から気合を入れて磨き上げ、そのサポート&通常業務をジョゼフ指揮の元、召使達が行う。

そして、禁断症状で敷地内を放浪&爆走している家畜やペットの皆への対応を、庭師達や調教師達総出で行ったりしていて、とにかくてんやわんやとしています。


余談ですが、アイザック父様、メル父様、そしてグラント父様は、今回の夜会の趣旨及びなにが起こるか分からない状況……という事もあり、王宮内で寝泊まりしつつ、適当に(それでもやったんですね!?)自分磨きをしていたとの事。


……でもこれ、私に会えない兄様達やロイヤルズの「あいつらだけ、エレノアに会わせてなるものか!」という悪意が働いたような気がしてならない(多分アイザック父様はとばっちり)。

実際、「(義)娘に会わせろー!!」って、ブチ切れながら喚いていたって聞きましたから。


バッシュ公爵邸にちゃっかり滞在している魔導師団副団長さんが、メル父様に制裁を受けない事を切に願います。


それはともかく。


全身ピッカピカに磨き上げられ、化粧や髪のセットまで終わらせ、後はドレスを着るだけの状態になっている私の元に、待てど暮らせどジョナネェは一向に訪れず。気が付けばもうじき夕暮れ。……夜会迄のタイムリミットは、刻一刻と迫っていた。


「な、なんで……!?ま、まさかジョナネェ、兄様達や殿下方の礼服に夢中になって、私のドレスを忘れている……とか!?」


思わず、日も暮れかけた室内で悶々としてしまう私です。


テーブルの上に用意された美味しそうなお菓子や軽食も、不安のあまりに殆ど手を付けられないでいる。


思えばこの一週間、ジョナネェは一度も私の元を訪れなかった。


何時もだったら仮縫いの段階から、なんだかんだとバッシュ公爵家にやってきていたのに……。ま、まさか、男子の礼服作るのに夢中になった挙句、私のドレスを後回しにしていた結果、間に合わなくなった……とか!?


「エレノアお嬢様、どうか落ち着いてくださいませ」


「そうですわ。さ、フルーツサンドをご用意しました。少しでもお食べになってください」


「フルーツティーもどうぞ!ドレスを着てしまったら、お手洗いも一苦労になってしまわれますからね」


そんな中。私を不安にさせまいとしてか、ケモミミメイドさん達がなにくれと気を使ってくれる。


うん。確かに夜会では飲み食い出来ないかもだし、空腹でお腹が鳴っては不味い。なので、小さくカットされたフルーツサンドを口に入れ、紅茶を啜る……って、あれ?さっきまで近くにいたミアさんがいない……?


「ああ、ミアでしたら美容班の方々がドレスを持ってきてくださったので、隣の部屋で着付けをしております」


はい!?ミアさんのドレスが届いたと!?あれっ!?わ、私のドレスは……。


「……あ!終わったみたいですわ!」


見れば続き部屋の扉が開き、ミアさんがシャノンに手を取られながら出てくるのが見えた。


「うわぁ……!!ミアさん、綺麗!!」


思わず、『自分のドレスは!?』という疑問がポーンと頭から飛んでいく。それぐらい、ドレスアップしたミアさんの姿は、まさに可憐に咲き誇る花そのものであった。


プリンセスラインの真っ白いドレスには、ウィルの色である茶色を連想させる琥珀色の花飾りがふんだんに散りばめられ、同じように結い上げられた髪飾りにもその花があしらわれている。

エステを受け、艶々になった真っ白い肌も、薄化粧を施された目元も唇も愛らしく、更にフワフワになったウサミミが可憐な姿に最高の彩を添えていて、思わず抱き締めたくなってしまうほどだ。


ケモミミメイドさん達も、「ミア、綺麗!!」「凄く素敵よ!!」と、口々にミアさんへの賛辞を口にする。ええ、私も全力で「ミアさん、綺麗!素敵!これでウィルもいちころだね!!」と、賛辞を述べさせて頂きました!


「あ、ありがとう……御座います……」


ミアさんは照れているのか、真っ赤に頬を染めながら、ウサミミを高速でピルピルしている。あああ……癒される!!


そんな時だった。


「エレノアちゃーん!!お待たせー!!」


でっかい箱を抱えながら、バーンと扉を開けて現れたのは、誰あろうジョナネェその人だった。


「ジ、ジョナネェ!!」


その姿を見た瞬間、今迄抱いた不安による憤りが一気に爆発してしまった。


「ジョナネェ!!遅い!!酷い!!私のこと忘れてたんでしょ!?もう!ジョナネェのバカバカ!!大嫌い!!」


ジョナネェに駆け寄り、怒りに任せて胸元をポカポカと叩く。……が、当のジョナネェは「あらあら、もう!エレノアちゃんったら♡」と、何故か目尻を下げたデレデレ顔をしている。ちょっとジョナネェ!私は今、とっても怒っているんですからね!?


「はーいはい!このままじゃれていたいけど、時間がないから早速取り掛かるわよー!!」


「時間がないのは、ジョナネェが中々来なかったから……」


「あんたたち、やっておしまい!!」


「「「「「「「承知!!」」」」」」


私の抗議の声を遮り、「どこの組の姐さんだ!?」というジョナネェの台詞に呼応した美容班達(シャノン含む)が、ジョナネェのドレスを受け取るや、ワラワラと私を取り囲んだ。


「さあ、お嬢様!まずはこれをお履きになってください!」


渡されたのは、なにやらお馴染み感のある、黒い伸縮性のあるスパッツタイプのズボン。……あれ?


「お履きになられましたね。それでは次はこちらを」


そう言って、黒いドレスをテキパキと着させられる。……んん?あれ?確かドレス、朝焼け色だった筈では?


しかもこのドレス、スパッツ同様、首元部分からピッタリと肌にフィットするタイプなうえに、膝上の部分からスカートが左右に別れている。しかもお洒落なことに、フレア部分が裾にいくにつれて波打ち、黒い百合や薔薇等花が散っていくように広がっているのだ。


「さあ、次はこちらです」


ここで真打ちのように出てきたのが、『女神の絹デア・セレス』を淡い琥珀色から始まり、朝焼け色に近い黄褐色からゴールドオレンジへと、グラデーションになるように染め上げた美しいドレスだった。


流石は最高級品の絹である。細かいアダマンタイトを縫い付けた様々な刺繍や、レースの代わりのようにふんだんにドレスを彩る花の飾りと共に、まるでそれ自体がインペリアルトパーズのように、ドレスを美しく煌めかせている。しかも袖の部分に、ふんわりと透ける白いレースをつけ、その下の朝焼け色を透かしているのだ。


つまりこのドレス、下地にオリヴァー兄様の黒、メインのドレスにセドリックの琥珀色を、そして袖や飾りにクライヴ兄様の白……と、完璧に婚約者の色を配しているというわけなのである。流石はジョナネェ、お見事!!


……だけどね。ちょっと待ってほしい。


「ジョナネェ……。このドレスの仕様、なんか見覚えがあるんですけど……」


そう。このメインのドレスだが、ウェディングドレスのように全体的な長さは、内側に着た黒いドレスと同じく床に着くぐらいある。


けれども、朝焼け色のドレスの中心部は膝下まである黒いドレスよりも短く、ウエストあたりから太ももぐらいまでは、ほぼドレスのグラデーションに合わせて色付けされた、『女神の絹デア・セレス』の花の飾りになっており、そこから大小の花飾りがまるでレースのように、黒いドレスに散って見えるように配されているのだ。


……鏡を見なくても分かる。これってどう考えても、姫騎士仕様ですよね!?


「そーよー?素敵でしょ?もう、私史上最高の傑作よ!!」


私の指摘に悪びれる事なく、ジョナネェはやり切った感満面のドヤ顔でサムズアップする。


「いやー、苦労したわよ!直前まであんたに内緒にするために、あんたの美容班達使ってこまめに採寸しながら、頑張って作っていたんだから!あ、勿論、お兄ちゃん達も殿下方も、なんならあんたの母親も、全員承知しているから!皆、凄く楽しみにしていたわよ~♡」


『サプライズ成功!』とばかりに満足そうな笑みを浮かべるジョナネェ。そして、「うんうん」と大きく頷いている美容班達。


な、成程。だから美容班がちょくちょく私のところにやってきていたのか。あれって、私の磨き上げのチェックじゃなくて、採寸チェックをしていたんだ。


――じゃなくて!!


「なんでー!?私、今回はちゃんと普通のドレス姿でって言っていたよね!?」


いやね、最初にスパッツ履かされた時、嫌な予感はしていたんだよ。だけどまさか、この期に及んで姫騎士仕様のドレスを持ってくるなんて思わないじゃないか!!


「うっさいわね!いいこと!?これからあんたが赴く夜会は、あんたを貶めたい女狐達や、『公妃』気取りでやってきた聖女らしい女が待ち構えているんだからね!!だったらここは一発、勝負服でキメるしかないでしょうが!!」


「いつから、姫騎士仕様が私の勝負服に!?」


「いいから、ほらっ!グダグダ言ってないで、自分の姿を鏡で見てみなさい!!」


見ればいつの間にか、大きな姿見が運び込まれていて、私は有無を言わさず美容班達に姿見の前へと連行された。


「――ッ!!」


鏡に映し出された、姫騎士仕様のドレスを纏った自分の姿。それを見た瞬間、思わず息を呑んでしまう。


ふんだんに盛られたシルクの花の飾りと、アダマンタイトを縫い付けた刺繍が、凛々しくもありながら、女性らしい愛らしさを前面に押し出している。

肌と同様、磨き上げられ、いつもの五割増し艶やかに輝いているヘーゼルブロンドの髪は、自然な感じに流され、ドレスに使われている花飾りが彩を添えていて、なんとも華やかだ。


ケモミミメイドさん達の手によって施された化粧は、ドレスに合わせたゴールド系をベースにしたもの。こうして見てみると、まさにドレスにピッタリと合わせたカラーだった事が分かる。


「うう……。た、確かに……凄く奇麗……」


こうして見ると、自分で言うのもなんだけど、まごうことなき美少女……である。悔しいが、文句のつけようがない。


「ああ……。エレノアお嬢様!!」


「素敵……!本当にお美しいですわ!!」


気が付けば美容班達もケモミミメイドさん達も、全員が頬を染め、両手を組んで片膝を突いて私を見つめている。ミアさんはドレスを着ているから、立ったままで両手を組んでいる。というかやめて!祈らないで!!


――でも、それよりもなによりも気になるものが……。


「ジョナネェ。この腰に差してあるのって……」


「ああ、それ?『扇子』よ~!ほら、王宮の夜会では護衛騎士以外は帯刀禁止でしょ?だからアレンジしてみたの!」


「…………」


……つまり、帯刀の代わりですか。ってか私、夜会に行くのであって、戦場に行くわけではないんだってば!!


心の中でそう憤りながら、脇差代わりに装着されている扇をパラリと開いてみる。


すると銀色に光る扇骨に、朝焼け色に染められた『女神の絹デア・セレス』のレースが貼られてる。しかもドレスとお揃いの花の飾りが……!うわぁ……凄くゴージャス!


……って、ん?な、なんかこれ、ちょっと重いような……?


「ああ、それね。扇骨部分にミスリルを使っているから、そのまま武器として使えるわよ♡」


それって、鉄扇じゃないですか!?


ジョナネェ―!女子会の時、「前世の貴族女性達は、扇子をお洒落だけじゃなく、武器として使っていたんだよ」って私が言っていたあれ、パクったな!?


ってか何度も言うけど、私は夜会に行くのであって戦地に赴くわけじゃないんですけど!?


「馬鹿ね!夜会は女の戦争よ!!」


いや、そのとおりだけどさ!!


私とジョナネェが、ギャアギャア喚き合っていたその時だった。


「エレノアお嬢様、若様方がいらっしゃいました」


「――ッ!!」


人間凶器の御来訪キター!!



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エレノアの意志と関係なく、勝負服もイメージフラワーも決まってしまっているようですw

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