第574話 美の暴力、来襲!

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そして次の更新ですが、仕事や書籍作業の都合上、多分元旦になる予定です。

近況については定期的にXで呟いておりますので、更新その他についてはそちらの方を確認して頂ければと思います。宜しくお願い致します!



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私はぶっ倒れ防止の為美容班達に椅子に座らせられ、カタカタ震えながら兄様達の入室を待つ。


「……いいこと、エレノアちゃん。男達の美貌に鼻血を噴いて狼狽えていたあんたはもういない。ここにいるのは、絶世の美貌を持つ婚約者を七人侍らすアルバ王国の姫騎士。これからやってくる美の競演は、あんたを彩る宝飾品と思いなさい!!」


「ジョナネェ!……そ、そんなこと……!恐れ多くて思えないよ!!」


いくら皆が頑張って盛ってくれたって、あの顔面凶器に勝てるわけがない!兄様達が宝石だとしたら、私はそこらに転がっているしがないビー玉です!


「お黙んなさい!!そういう自己暗示でいくの!!気合よ気合!気合を入れんのよー!!」


きょどってオロオロしている私の背後で仁王立ちになり、どこかの金メダリストの親族のように激励していたジョナネェの表情がスンとなった。……あれ?


「言っておくけど、お兄ちゃん達見て色々噴いてドレス駄目にしたら、お兄ちゃん達に殺される前に私があんたをるからね!!?」


「ジョナネェの鬼ー!!」


本音、絶対そっちでしょー!!?


「――ッ!」


「……あ……!」


「エ……エレノア……!?」


私の名を呼ぶ声に、ハッとドアの方を振り向く。そして、ゆっくりと開かれた扉から部屋に入って来る兄様方とセドリックを目にした瞬間、パーンと脳内に打ち上げ花火が乱れ咲いた。


――約一週間ぶりの美の暴力が私を襲う。


な、なんなんですか!?この目の前にいる発光体は!!?いや、これ決して比喩ではありませんよ!?だって、肌も髪もなにもかもが、まるで真珠……いや、海の白のような輝きを放っているんですよ!!


オリヴァー兄様のあの髪の艶はなんですか!?グラッサージュされたチョコレートのように、ツヤッツヤのトロットロですよ!?(テンパっている為、意味不明)


クライヴ兄様の髪の毛も、白銀のミスリルよりも輝いております!眩しい……眩し過ぎる!!触れたりしたら、スパッと切れそうなほどにキレッキレです!!(こちらもテンパっている為、意味不明)


セドリックの髪も……!!混じりけのない、天然の琥珀を磨き抜けばああなる……というほど、艶々しております!!キューティクルです!!そこらの天使なんか目じゃありません!!(こちらもテンパ……以下略)


全員激務により、少しどころかかなりやつれていた様子も、今は忘却の彼方。一週間前までの美貌にさらに磨きがかかり、神々しいなんてもんじゃないレベルへと高められております!まさに人外!!おお……ジーザス!!……いや、女神様!!


背後から、バタバタと誰かが倒れる音と、「しっかりしてください!!」「傷は深い……いえ、浅いですよ!?」と、召使達の声が。どうやらケモミミメイドさん達が美の暴力によってやられてしまったようだ。羨ましい!私も一緒に倒れ果てたい!!


「エレノアちゃん!気合よ!?鼻腔内毛細血管に気合を入れるのよ!!」


意識が朦朧となりかけた私の耳元で、ジョナネェ鬼コーチが喝を入れる。はっ!いけない!うっかり召されかけていた!!


オリヴァー兄様、クライヴ兄様、セドリックが、未だに脳内で激しく大輪の花火が打ち上がっている私を食い入るように見つめている。私は顔を真っ赤にしながら、現実逃避という名の自己防衛本能に従い、兄様達の顔をなるべく見ないよう、自分の視線を彼らのお召し物の方へと移した。


おおっ!オリヴァー兄様のお召し物ってば、『女神の絹デア・セレス』で作られたであろう、純白のシャツとクラバット以外、タキシードもベストもトラウザーもマントも全部、オリヴァー兄様の色である、艶やかな黒色。


けれども大胆に、そして繊細に施された刺繍は金色。その色味は多分、金糸に特殊な加工を施したのであろう、あえて輝きを押さえたもので……。そう。まるで私のドレスの色に合わせたような、金褐色がベースとなっている。


クラバット留めや、長いマントの左肩に配された大きいリボンのような飾りやそれに付属されたチェーンも全て、インペリアルトパーズや琥珀、金が使われていて、そりゃもう徹底的に『婚約者の色』を纏いまくっております!


この圧倒的かつ暴力的な美しさ……。それはまさに視線一つで魂を絡めとり、微笑みをもって甘美なる堕落の楽園と引きずり落とす闇の王。……魔王だ……!魔王がここに降臨された!!


「ああ……エレノア!僕の愛しい女神!!なんて……なんて美しいんだ!まるで万物を明るく照らし、恵みを与える太陽……いや、夜の闇を照らす月光や星々よりも美しく眩い輝きを放つ、女神様の尊い珠玉だ。それを与えられた僕は、なんて幸運な男なんだろう!!」


――くっ!……で、出ましたね!?アルバ男の男子の嗜みの一つ。『美辞麗句で褒め殺し』がっ!!


今日の威力はいつもと比較にならない倍々増しバージョンです!!なんせ磨き抜かれた人外の美貌が加わっておりますからね!!あああっ!う、潤んだ瞳が黒曜石のように輝いてて、私の視界にブッ刺さるー!!


「僕の愛しいお姫様。さあ、こちらをどうぞ?」


熱に浮かされたように頬を上気させ、蕩けそうに甘い笑顔を浮かべたオリヴァー兄様が、椅子に座った木偶人形と化した私の左手を恭しく取る。


そうして甲に口付けた後、以前グロリス伯爵邸に向かう際に頂いたような、インペリアルトパーズを中心に兄様達の色の宝石を使ったネックレス(以前のものは、ボスワース辺境伯に攫われた時に壊されてしまった)を着けてくれた。


ちなみにピアスは、髪やドレスに付けられている花飾りを模したインペリアルトパーズ。どちらも一瞬で付けてくれました。流石は兄様、早業なんてものではない!!


そ、そして……!!


「若様方、こちらをどうぞ」


そう言って、シャノンがクライヴ兄様とセドリックへと恭しく差し出したのは、赤いクッションの上に乗せられたハイヒール。まるでシンデレラのガラスの靴のようだ。


白をベースに、ドレスの色と合わせた美しいデザインになっているソレの片方をクライヴ兄様が手に取り、私の方へと歩いてきた。


クライヴ兄様のお召し物は当然というか全て、クライヴ兄様の色である白。


しかもこの優美で上品な輝き……。多分『女神の絹デア・セレス』を使って作られている!そして艶消し処理でもされているのか、輝きが凄く柔らかで落ち着いたものになっています。


全体的にシュッとしたタイトな仕様となっていて、首元もカッチリと詰めておられる。パッと見は軍服を彷彿とさせる仕様で、白いブーツタイプの靴もセットで、鍛え上げられたしなやかかつ優美な獣のような兄様に物凄くよく似合っております!


しかもオリヴァー兄様同様。金褐色の糸を使った鮮やかで優美な刺繍と縫い付けられた宝石たちが、その軍服のようなストイックとも言える装いを彩る。……その結果、硬質的な大人の男のエロスが駄々洩れ状態になってしまっている!!


純白のマントの襟ぐりに、ファーのように付けられた純白の羽がまた、クライヴ兄様の燃えるように輝く銀髪とマッチしております。その様はまるで、どこまでも晴れ渡る美しい青空に煌めく羽根を広げた……そう、まさに天使!しかも最高位の大天使!!


オリヴァー兄様が魔王ルシファーであるのならば、クライヴ兄様はさしずめ大天使ミカエルであろう!


元はどちらも天使で兄弟だったというし、相応しい例えと言える。……あれ?そういえばミカエルはルシファーの弟だったような……。兄様達だと逆……って、違う!!そういうどうでもいい雑学、今はいらん!!


クライヴ兄様は私の目の前に立つと、スッとその場に片膝を突く。


「エレノア……。この世の闇を祓い、光の元へと導く尊き聖女。俺達が捧げる愛は、未来永劫お前ただ一人のものだ」


オリヴァー兄様と同様、氷の彫像のように美しい顔を上気させ、格段にレベルの上がった美辞麗句(でもクライヴ兄様らしく短め)を口にしながら、クライヴ兄様は部屋履きの靴を脱がせた私の左足を手に取ると、先程シャノンから受け取った靴を恭しく履かせてくれた。


「ふぐっ!!」


パーンと頭頂部からクラッカーが炸裂する。……プ、プレイ……!?これは一体、なにプレイなんですか!!?


『セ、セドリック!!』


私の目と心を美の暴力から救う癒しの人は!?お願い、ヘルプ!……と、光り輝く兄様方の横にいるであろうセドリックの方へと顔を向けた。


「ふぉっ!!?」


するとクライヴ兄様の斜め後方に、もう片方の靴を手に、頬を染めながら麗しい微笑を浮かべるセドリックの姿を発見。……はいっ!相手は癒し要員……と思い込んで緩んでいた脳内と目にクリティカルヒットー!!


セドリックの礼服は兄様方と同様、自分の『色』……すなわち、茶系で統一している。だが、そのタキシードの色は……!うん、私のドレスと並ぶとまさに対!バッチリお揃いですね!?とばかりに一緒の色だった!!


私と同じ『土』属性であるセドリックの『色』って、わりと私と被ってるんだけど、今回はまさにそれを全面的に押し出している格好だ。


こちらもオリヴァー兄様同様、純白のシャツとクラバットは『女神の絹デア・セレス』で作られたもので、タキシードの中に着ているベストと靴は、黒に近いこげ茶色。そして、微妙に色の違う同系色の金糸がマントに配されている。


更には斬新なことに、私のドレスを彩る絹の花飾りと同じものが、胸元だけでなくマントの肩口にも配されているのだ。

勿論、金のチェーンと一緒に付けられているから、女々しい感じにはなっていない。けれども、少しだけユニセックスな装いが、青年期に差し掛かった彼の凛々しさに絶妙なアクセントを与え、オリヴァー兄様ばりの色気を出させているのだ。


「エレノア……。僕の最愛の人。君の愛らしさ、そして強さ優しさ……。その全てが、君の纏うドレスに現れているよ。一日の始まりを告げる、その尊き色をその身に纏った君の美しさは、矮小なこの身では到底表現する事が出来そうにない」


上気した頬と、熱を帯びて潤んだ琥珀色の瞳。


セドリックはクライヴ兄様同様、私の目の前で片膝を突くと、今度は反対側の右足を手に取ってシンデレラのガラスの靴(違う!)を、これまた恭しく履かせてくれた。


……う……う……うわぁぁぁぁぁぁぁ!!さ、流石はオ、オリヴァー兄様を師と仰ぐセドリック!!美辞麗句が進化している!!そしてプレイ(?)の中にも初々しさが溢れ出る恥じらいの表情!!


ああ……女神様!貴女は私になんの試練を与えておられるのでしょうか?


鼻腔内毛細血管を鍛える為?それとも心臓が止まらない為の修行?……済みません、どっちも熨斗のし付けて返却してもよろしいでしょうか?


そしてジョナネェ……!!ついでに美容班達!!あんたら、どんだけ人間凶器を量産すれば気が済むんだ!!?


けしからん!実にけしからんです!!女神様と私に土下座して詫びてほしい!!いや、私が土下座して詫びるから、この人間凶器による攻撃を誰か止めてー!!



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久々に、エレノアの心の絶叫……いや、実況中継が炸裂しておりますw

そして、最愛の女性の装身具を身に着けるのは、いわば婚約者の特権としてのお約束事項なんですね。

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