第575話 それぞれの出立
皆様、明けましておめでとうございます。
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「さて、夜会が本格的に始まるまで結構時間があるけど、そろそろ出立するとしようか」
「そうだな。今回ばかりは早めに会場入りしといたほうがいいだろうしな」
ひとしきり美の競演という名の攻撃を食らい、完膚なきまでにノックダウンさせられた私の耳に、オリヴァー兄様とクライヴ兄様の会話が聞こえてくる。
見れば兄様方は二人共、先程まで浮かべていた麗しい微笑を消し、なにやら思案顔をされておられるようだ。
「あの、兄様方……。なんで会場入りを早くするんですか?」
確かに、前世におけるお貴族様の夜会ルールとは違い、このアルバ王国では会場入りの順番に対する明確なルールはない。
けれども、上位貴族との有益な繋がりを少しでもつけたい下位貴族ほど、会場入りするのが早く、そんな必要のない高位貴族や、下位であっても「そういうしがらみ、超面倒臭い!」という貴族は会場入りが遅い……と、以前オリヴァー兄様から聞いた事がある。
因みに、面倒臭がって会場入りが遅い貴族の二大巨頭は、メル父様とグラント父様だそうです。
まあそういうのが恒例化しているっていうのもあるんだろうけど、基本的には爵位が低い方から順に挨拶をしていくのは変わらないらしい。
でももし、家長代理としてその貴族家の嫡子(男女問わず)が挨拶をする時。私のように未成年者の女子であった場合、身分関係なしに正式に婚約者として認められた者達が彼女に付き添い、共に挨拶をする事になっているのだそうだ。……流石はアルバ王国。『女性は愛し守るべき存在』が国是の国。過保護なうえにフリーダムだ。
今回の夜会は色々と複雑な裏事情がある為、次期宰相であるアイザック父様は私のエスコートを筆頭婚約者であるオリヴァー兄様に託している。
そしてクライヴ兄様、セドリックも『公爵家令嬢の婚約者』として、オリヴァー兄様同様、私と共に王族に挨拶する事になっている。だからむしろ、かなり遅く会場入りしても問題ないのではないだろうか?
そんな疑問を口にした私に対し、オリヴァー兄様が目潰し攻撃(麗しい微笑)を食らわせながら説明をしてくれた。
「うん。今回の夜会は、色とりどりに着飾った小鳥達が、勝手気ままに囀りたくてうずうずしているだろうからね。それに、
「小鳥?……あ!」
兄様の言う『小鳥』って、私に対して敵愾心を持っているご令嬢方で、『例のご一行様』とは、スワルチ王国聖女様ご一行の事か。
そういえばまだ、ご令嬢方が学院に通っていた時。
「余裕を持っていられるのも今の内ですわよ」
「聖女様がきっと、天誅を与えてくださいますわ!」
……なんて。ご令嬢方が、これ見よがしにヒソヒソしていたからなぁ……。
つまりオリヴァー兄様達は、ご令嬢方が『本物の聖女』であるスワルチ王国の王女に、私がぎゃふんとされであろう姿を見るのが待ちきれず、早めに夜会に行くだろうと踏んでいるのだろう。
それでもって、彼女らが私の悪口をある事ない事喋って盛り上がるに決まっているから、とっとと会場入りして、逆に彼女らを牽制しようと思っているんだろうな。
私と親しくしてくれているご令嬢方やそのご家族はもとより、多くの貴族家やそれに連なる方々は、私の事を好意的に見てくれているけど、一部の貴族家や、ご令嬢方の親である貴婦人方の多くはそうではない。
しかも、悪意を持って語られる私の悪い噂を、『聖女』の口から、あたかもそれが真実であるように語られてしまえば、それに追従する方々も出てきてしまうかもしれない。……だからこそ兄様達は、彼女達よりも早めに会場入りした方がいいと判断したのだろう。
あ、因みにですが、今回半ば押し掛ける形でやって来たスワルチ王国ご一行様は、国交もないうえに国賓でもない為、王宮ではなくハイエッタ侯爵家のタウンハウスに滞在しているんだそうだ(オリヴァー兄様談)。
……えっと……。国賓じゃないって言っても、一応ご一行様に『聖女』様がいらっしゃるんですが……。いいのかな?
「まあ、君を直に知っている者達や、『姫騎士同好会』の面々は、たとえあちらの『聖女様』がなにを言おうと、全く揺るがないだろうけどね」
「ああ、そうだな。なんせ、あいつらのお前に向ける思いは、もはや狂信だからな」
「ええ。なにせ教祖が
最後のセドリックの言葉は溜息交じりだった。そういえばマロウ先生、自己啓発の旅から戻ってきたそうで、めでたく
話によれば、「仕事に戻れ」と言われて、「それじゃあ行ってきます!」と、バッシュ公爵家に向かおうとして、ヒューさんにぶちのめされていたとかなんとか。……マロウ先生。お変わりなさそうでなによりです。
「それでは参りましょうか。僕達の愛しいお姫様」
そう言って、極上の蕩けそうな笑顔を浮かべたオリヴァー兄様は恭しく私の手を取り、椅子から立ち上がらせる。
私も一周回って、冷静に……というより、灰のように燃え尽きた状態だったので、兄様に素直に従った。……尤も、兄様の極上の笑みを直視し、灰から復活した不死鳥の雛のごとく、蘇った羞恥心で顔を真っ赤にし、プルプル震えてしまいましたが。
『んん?』
ふと、周囲の人達がとある一点を見つめている事に気が付き、そちらの方に目をやる。
『おおっ!!』
するとそこには……。なんと礼服を着こなし、いつもの倍増しに格好良くなっているウィルと、可憐な淑女となったミアさんが互いに見つめ合っている姿が!
「ミ、ミアさん……。そ、その……凄く……綺麗です」
「あ、有難う……御座います。……ウ、ウィルさんも……とても素敵です……」
そう言い合いながら、お互い真っ赤になってモジモジしながら俯いているではないか!ブラボー!!
そのなんとも初々しく甘酸っぱい風景に、なにかが浄化されるような気持になってしまった。……尊い……。尊過ぎるよ!アオハル万歳!!
尤も、彼等の姿を微笑ましそうに祝福しているのは、ケモミミメイドさん達だけで、シャノン達美容班達は「ヨカッタネー」って感じで生暖かい眼差しを向けているし、他の召使の皆は「けっ!」「もげろ!」とばかりに、荒んだ雰囲気でジト目を向けている。
ついでに兄様達はというと、初々しいカップル(未満?)を見て、ちょっと羨ましそうな表情を浮かべた後、チラッと私を見やった。
その視線を受け、「はて?」と数秒考えた後、ハッと思い至る。
『そ、そういえば私、兄様方とセドリックになにも言っていなかった!』
自分はあんなにも
「オリヴァー兄様、クライヴ兄様、セドリック。……あの……。三人とも……その……。す、凄く……素敵です!!」
言った後、シュンシュンと頭から湯気が出そうなほど全身ユデダコになった私を、三人ともが物凄く嬉しそうに顔を輝かせた。やめて!!これ以上輝かないで!!
「エレノア、どうもありがとう!表情からだけでなく、君の口からそういう言葉が聞けるのは、やっぱり嬉しいものだね!」
「そうだな!出来れば胸の中で呟いている言葉の半分でも言ってほしいと思っていたが、お前が褒めてくれたってだけで尊いぜ!」
「うん、頑張った甲斐があったよ!言葉だけじゃなく、君の溢れんばかりの気持ちもちゃんと受け取ったからね!」
兄様達と違い、平凡でなんのひねりもない言葉を、心の底から喜んでくれるその姿が嬉しい。
なので輝きを直視した結果、顔は真っ赤、目も涙目になってしまったけれども、頑張って皆に笑顔を返した。
というか、オリヴァー兄様もクライヴ兄様もセドリックも、私の表情見れば、だいたいなにを思っているのか分かるんだったね。……あのアホな実況中継が筒抜けになっていると思うと、羞恥で穴掘って埋まりたくなるなぁ……。うん、深くは考えまい。
……そんな私達を見ていた召使達は、「こっちもアオハルか!」と、さらにやさグレれていたらしい。
そんでもって美容班達の方はというと、私の装いを乱されないよう、いつでも兄様達を止められるよう、臨戦態勢になっていたようだ。
尤も私のすぐ背後でジョナネェが威嚇していたので、感極まってスキンシップをしようとしていた兄様達も思い止まったとの事。流石は『美に妥協無し』のジョナネェと美容班である。
――……そんでもって。
「ジョナサン……。なんで君もこの馬車に乗っているわけ?」
王宮に向かう馬車の中、オリヴァー兄様がジト目を向ける先には、なんとジョナネェがいた。
そう。何故か私の横には、兄様達よりは控えめだけど、やはりゴージャスな礼服を着こなすジョナネェが鎮座しているのである。
……というか、『これぞ、ザ☆アルバ男』とばかりに
「あら~!それは勿論、エレノアちゃんが色々噴いちゃいそうになった時の為よ~!ああそれと、お兄ちゃん達が万が一、暴走しちゃわない為の保険って意味合いもあるかしら~?あ、私の貴族籍も無事復活しているし、殿下方にちゃんと招待状貰っているから、心配いらないわ!」
兄様方やセドリックのジト目もどこ吹く風。飄々とした態度でそうのたまうジョナネェ。
実はジョナネェ、長らく絶縁関係にあった実家に「聖女様の
ジョナネェの実家のヘイル男爵家も、「なにやってんだお前ー!?だが、よくやった!!」と、あっさりジョナネェの籍を戻してくれたのだとか。
聞けばジョナネェの実家の皆さん、「出来れば普通の男として生きていってほしいが、まあ、あいつはアレが素なんだし仕方がないか」というスタンスでいたらしい。
絶縁していた件についても、家族がジョナネェを疎んじていたからではなく、好き勝手やりたいジョナネェが実家に迷惑をかけないよう、自ら絶縁を申し出たんだそうだ。
ご家族もジョナネェの気持ちを受け取り、「いつでも帰ってこい!」と言って絶縁を受け入れたんだとか。ヘイル男爵家もジョナネェも、どっちも優しいよね。
◇◇◇◇
エレノア達がちょうど屋敷から出立しようとしていた、その頃。
「さあ、それでは参りましょう」
ハイエッタ侯爵家のタウンハウスでは、お供の者達と侯爵家の者達が恭しく礼を執る中。金髪が薄く透ける艶やかなベールを被り、眩い輝きを放つ純白の聖職服を模したドレスを身に着けたスワルチ王国の『聖女』、セレスティアがそう告げ、微笑を浮かべていた。
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皆様、今年も宜しくお願い致します!
ほのぼのしさの後に、スワルチ王国sideの一幕がありました。
さてさて、先に会場入りするのは?
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