第576話 夜会における小鳥(?)のさえずり
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「うわぁ~……!」
普段の十割増しに輝きを放っている、向かい合わせの婚約者達をなるべく直視しないよう、窓から外を見ていた私は感嘆の溜息を漏らした。
夜の帳が落ちていく中、王宮に近付くにつれ、街道には魔導ランプの灯りが増えていく。
そして薄闇の中、王宮にも魔導ランプの明かりが次々と灯っていくのだ。それは明るく鮮やかに咲きほころんでいく光の花のようで、壮大で美しい白亜の城が華やぎを増していく。
今ではかなりの頻度で通っている見慣れた王宮が、まるで違う顔になっていく。その様はまるで、夜会に向けドレスアップしていくかのようだ。
以前、幽体となってワーズとお邪魔した時は、当然というか上空からライトアップされた王宮を見下ろしていたんだけど、あれはあれで圧巻だった。
しかも王宮を中心に、街の灯りが放射線状に輝いていて、まるで某ネズミーランドの光のパレードか、地上に広がった消えない花火みたいだと思ったものだ。
「王宮って、やっぱり綺麗……!!」
「うん、とても綺麗だね。でも僕達にとって、この世のあらゆる美しさをも、君を前にすれば全て色褪せてしまうよ」
「――ッ!!」
私が呟いた途端、オリヴァー兄様の流れるような美辞麗句(蕩ける笑顔付き)が炸裂し、ボフンと顔が瞬時に茹であがった。ついでにまともにご尊顔を拝してしまった目も痛い!
ち、ちょっ、オリヴァー兄様!!いちいち妹の心臓に負荷をかけないでください!!褒め殺し、いけない!ダメ絶対!!
「いいえ、エレノアちゃん。あれは褒め殺しなんかじゃないわ。まごうことなき本心だわよ」
ジョナネェ!しれっと私の心を読むんじゃない!!そして兄様方とセドリック、ジョナネェの言葉に「その通り!」とばかりに力一杯頷かないでください!今度は照れ死にます!!
……なんて事をやっていたら、いつの間にか王宮の正門に到着しました。
おおっ!王宮の華やぎに負けぬほど、美しく装った紳士淑女が次々と馬車から下りていくのが見える。特に男性の華やぎが尋常ではない。それぞれが自分の持てる全ての力を使い、己を磨き上げたであろう事が分かる。以前の私であれば、確実に目と鼻と心臓をやられ、その場に倒れ伏していたに違いない。
――だが、ジョナネェの言葉ではないが、今の私は以前のような惰弱ではない。
なんせ私の目の前には、人外レベルの発光体となった麗しの婚約者様方がいらっしゃるのだ。いかにアルバ男が美の競演を奏でようとも、「目がシバシバするなー」ぐらいで耐え切れる自信がある。
「エレノア」
名を呼ばれ、窓の外から視線を戻す。すると、磨き抜かれたアダマンタイトのようにキレッキレの美貌に真剣な表情を浮かべたクライヴ兄様が私を見ていた。
「これから向かう場所には王族だけでなく、ヴァンドーム公爵家を筆頭に高位貴族の連中が手ぐすねを引いてお前を待ち構えている」
「!!」
「……だが、恐れるな。お前には俺達が付いている。いいか、平常心を絶対に忘れるんじゃないぞ!?」
私はクライヴ兄様のお言葉にハッとした後、『兄様達で耐えられたんだから大丈夫だよね♡』などと思って安心していた己の慢心を恥じた。
……そうだ。夜会が行われる大ホールにて私を待ち構えているのは、普通のアルバ男ではない。この国の選ばれしDNAの頂点達と、それに準ずる人間凶器達なのだ。
油断すれば即死に繋がる
それを前に、私という奴はなにを呑気に構えていたのか。
「はいっ!!私、頑張ります!!」
私は緩んでいた気を引き締め、クライヴ兄様に対し決意を込め頷いた。
どこまで耐えきれるかは分からない。……だけど私とて公爵家の娘。無様を晒して家名に傷をつけるなど言語道断!せめて鼻腔内毛細血管だけでも死守し、貴族の娘としての人生が終わらないようにしなくてはならない!!
「うむ!その意気だぞエレノア!!」
「大丈夫、君ならやれる!自分自身を信じるんだ!!」
「ありがとう!クライヴ兄様、セドリック!!」
「……なんかこの子達見てると、マジもんの戦場に向かう気になっちゃうわ」
ジョナネェが呆れたように呟いているのを丸無視しつつ、私達は互いに力強く頷き合った(オリヴァー兄様は、そんな私達を微笑を浮かべながら見守っていた)。
「お嬢様、若様方。タラップのご用意が出来ました」
和やか(?)な私達のやり取りは、本日(何故か)御者を務めているリドリーが、馬車の外から声をかけてきた事により終わりを告げた。
「ああ、有難うリドリー。……さて、じゃあ行こうか」
オリヴァー兄様のお言葉を受け、まずクライヴ兄様が馬車から下りる。そしてセドリック、オリヴァー兄様と続く。
今回の夜会は、ほぼアルバ王国中の主要な貴族が参加している。
それは勿論、帝国に通じている貴族達の断罪を一斉に行い、その様子を参加した貴族達に見せる為にほかならない。
なので、万が一不測の事態に陥った時の為に、不自然に見えぬよう王宮やその周囲、王都の至るところに騎士が配されているのだそうだ。兄様方の馬車を下りる順番も、そこら辺を警戒しての事なのだろう。
兄様達が馬車から下りた途端、どよめきが上がり、馬車の外が騒然としだした。……うん。これって間違いなく、ご婦人方やご令嬢方が兄様達の輝く美貌に沸き立っているんだろうな。
そしてジョナネェが馬車から下り、いよいよ私の番になった。……うう……。な、なんか緊張してきた。
馬車から下りるのを躊躇していると、先に降りた兄様達、そして別の馬車に乗っていたウィルやミアさん、更にはジョナネェが、揃って私に優しい笑顔を向けているのが見えた。
「さあ、お手をどうぞ。僕の愛しいお姫様」
そう言って手を差し出すオリヴァー兄様の笑顔に、肩から力が抜け、自然と私の顔にも微笑が浮かんだ。
「はい。オリヴァー兄様」
誰よりも安心出来る、綺麗で大好きな人の手に、私はそっと自分の手を預けた。
◇◇◇◇
巨大な玄関ホールでまず目を引くのは、女神様をモチーフとした巨大な壁画が描かれている吹き抜けの天井。次いで洗礼された豪華な調度品と、まるで宝石で描かれた絵画のように、床の大理石に嵌め込まれた色とりどりの希少な魔鉱石であろう。
そして、夜会が行われる大ホールに続く廊下にも様々な花が飾られ。どこもかしこも美しく磨き抜かれた白亜の宮殿に華やかさを与えている。
その絢爛豪華さに更なる華を添えているのが、この日の為に磨き上げた紳士淑女の美しさである。……が、他国と違う点は、煌びやかな女性陣よりも圧倒的に輝きを放っているのが、実は男性陣の方だという事実であった。
今回は諸々の事情により、他国の人間は殆ど夜会に参加していない。
だがアルバ王国の夜会に参加した事のある者達は、「どこもかしこも美が溢れかえっていた。……あれは夜会という名の魔境だ」と、異口同音。口を揃え、どこぞの公爵令嬢が発するような言葉を語るという。
そして余談ではあるが、絶世の美貌の渦に飲み込まれ、うっかり道を外れて宗旨替えをする男性達もそれなりにいるとかいないとか。
「……ようやっと、この日がまいりましたわね」
「ええ、待ち遠しかったですわ」
「今宵、こちらにいらっしゃる聖女様……確か、セレスティア様と仰いましたかしら?それはもう、素晴らしくお美しいお方だそうではないですか」
「ええ。ハイエッタ侯爵家のフルビア様が仰るには、『男まさりのどこぞの紛い物』など、足元にも及ばないほどだそうですわよ?」
「まあ!それはお姿を拝見するのが楽しみですわね!」
夜会の会場となる、煌びやかな大ホールのあちらこちらで面白おかしく交わされている会話。
それはほぼ同じような内容で、『他国の聖女』が、『聖女気取りの紛い物』に惑わされている王家直系を救うべく、夜会に参加する……というようなものである。
そしてそれを囀っているのは、ハイエッタ侯爵家に連なる家門のご令嬢や、『聖女気取りの紛い物』と、彼等が貶めている件の公爵令嬢の事を、常日頃から快く思っていない貴族家の夫人達やご令嬢達であった。
「ええ、それはもう!なんでもその聖女様。このアルバ王国の現状を憂いておられ、道理を正す為なら、殿下方に輿入れをなされる事もやぶさかではないと……」
「ええ!?それはもしや、殿下方の『公妃』に!?」
「国交もない小国の王女が!?……いくら『聖女』とはいえ、それは如何なものかしら?」
「ですが、他の殿方ならいざ知らず、このアルバ王国が誇る王家直系が、『男まさりのどこぞの紛い物』に現を抜かしている方が問題だと思いませんこと?それに、いくら小国とはいえ、『聖女』はなにより尊い存在ですし……」
「お美しい聖女様が、『救国の乙女』を名乗る『紛い物』から殿下方の目を覚まさせてくださるのであれば、アルバ王国の臣として、わたくし達も後押しすべきではなくて?」
彼女達は常日頃、この国でも極上と言われている男達の殆どが、夢見るような眼差しで『姫騎士』たる令嬢に思いを馳せ、称賛するその姿に憤り、憎しみに近い鬱屈した思いを抱いているのである。
その、恐れ多くも救国の聖女たる『姫騎士』を語り、数多の男達を篭絡してきた許されざる存在が、『真の聖女』の手により、王族が主催する夜会という最高の舞台で断罪されるかもしれないのだ。彼女達が胸躍らせ、興奮気味にはしゃぐのも当然の事だろう。
「…………」
常よりも早く会場入りをし、まるで周囲に聞かせるように、自分達よりも上位の立場である公爵令嬢を貶める発言を嬉々として囀る女性達。そんな彼女達の言動に眉を顰める男性達は多い。
そしてそれは彼女達のパートナー達も同様のようで、不愉快そうな態度はおくびにも出してはいないが、彼女らからごく自然に距離を取っている。
だが『姫騎士』に思いを馳せる男性達の多くは、密かに『聖女』の来訪に期待を寄せていた。
何故なら、彼女の愛を得る為に越えねばならぬ最大の障壁たる『王家直系』達が、聖女を『公妃』として娶るというならば、まさに願ったりであるからだ。
ゆえに彼等は、煌びやかに着飾った『姫騎士』を拝したい気持ちと同様に、『姫騎士』の断罪を望む女性達とは別の思惑で、他国の『聖女』の登場を待ちわびていたのだ。
不意に、大ホールの入り口付近から、さざ波のようにどよめきや息を呑む音が広がっていき、誰もがそこに視線を向ける。
そして『彼女』を目にした瞬間、視線を釘付けにされていく。
麗しい貴公子達に囲まれ、優雅な足取りで歩く可憐な少女。
「……エレノア・バッシュ公爵令嬢……!」
その場にいる殆どの者達が待ちわびた主役の一人の登場だった。
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アルバ男性の魔性は、どうやら性別を超えて目と脳にブッ刺さるようです。
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