第464話 んんっ!?

※顔面偏差値の4巻及び、コミカライズ1巻の予約が始まっております。


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「なっ!なにをするのよ!?」


驚愕の表情を浮かべたキーラ様を、アーウィン様が冷たい表情を崩すことなく見つめる。


「……ああ、それと誤解しないように言っておくが、お前達は『客人』でも『身内』でもない。『容疑者』として、島に滞在するのだ。そのことを肝に銘じておくように。……連れて行け」


アーウィン様の指示通り、船員達が拘束した二人を連れていく。


「触らないで!」とか「こんなこと、許されないわよ!?」と喚きながら、やんわりと連れていかれるキーラ様に対し、ヘイスティングさんは抵抗することなく、無言で船員と連れ立って歩いていく。


だがふと彼がこちらに顔を向け、視線が合った瞬間。


「――ッ!?」


何度も感じた悪寒が背筋を走り、全身にゾワリと鳥肌が立つ。


思わず隣にいたクライヴ兄様に抱き着くと、クライヴ兄様は驚いたような表情を浮かべ、反射的に私を抱きしめた。


「エレノア、どうした!?寒いのか!?」


小刻みに震え、抱き着いている私の背中をあやすように優しく撫でるクライヴ兄様。そんな兄様にしがみついていたままだった私は、いつの間にかアーウィン様が私の傍に来ていたことに気が付かなかった。


「バッシュ公爵令嬢」


「え?」


声をかけられ、顔を上げようとした瞬間、クライヴ兄様はさり気なく体をクルリと反転させると、私をアーウィン様の目から隠した。さ、流石です兄様。


「バッシュ公爵令嬢。我らヴァンドーム公爵家の失態と、家門の者達が貴女に対して行った度重なる無礼、平にご容赦願いたい」


クライヴ兄様の身体からそろりと顔を出した私に向かい、アーウィン様は先程とは打って変わった穏やかな表情を浮かべた後、深々と頭を下げた。


――って、三大公爵家の嫡男が、王家でもない格下の私に対して頭を垂れるって!!


「と、とんでもありません!あのっ……」


慌ててクライヴ兄様の影から飛び出し、頭を上げてもらおうとした瞬間、シャラ……と音がして、不意に身体が軽くなった。


「……え?」


「私の浅慮で、貴女には大変申し訳ないことをしてしまいました。私は『水』の魔力属性しか持ち合わせぬゆえ、完全に乾かすことは出来ませんが……せめてもと思い、水気だけでも飛ばさせて頂きました」


そう言われ、自分の身体を見てみると、先程までぐっしょりと濡れて張り付いていたドレスが、今は少しだけしっとりしている程度になっていた。

髪の毛もしかり。よくタオルで拭いて、あとはドライヤーをかけるだけ……って感じの状態に近くなっている。


す、凄い!水の魔力って、そういうことも出来るんだ!!


……でもよく見てみれば、水気が飛んでいるのは私だけで、兄様達やウィル達はまだずぶ濡れ状態のままだった。


えっと……。これってようは、「野郎どもなんぞどうでもいいわ」的なアレ?アルバ男の女性に対する、レディーファースター精神の一環ってやつなんでしょうかね?兄様達もなにか、もの言いたげな憮然とした表情を浮かべていますよ。


「バッシュ公爵家の方々、そしてリアム殿下。諸々の不手際への謝罪を致したいところですが、島に到着する前に、色々とやるべきことが出来ました。ゆえにこのような場ではなく、我が本邸にて父共々、正式な謝罪をさせて頂きます」


兄様達への仕打ちはともかく、先程よりも真摯な態度と表情でそう告げるアーウィン様に、今度は兄様達も殺気は飛ばさなかった。


でも皆、流石に島までずぶ濡れ状態なのは……と、私はおずおずとアーウィン様に声をかけた。


「あ……あの。ヴァンドーム公爵令息様。もしよろしければ兄達も私と同じく、水気を飛ばして頂くことは出来ませんでしょうか……?」


するとアーウィン様は目を見開いた後、それはもう……蕩けそうに甘い、極上の笑みを浮かべた。


当然というか、条件反射のように私の顔からボフンと火が噴く。……くっ!なんという顔面偏差値の不意打ちなのか……!!


「勿論ですよ、バッシュ公爵令嬢。美しくお優しい貴女の望みとあらば、なんなりと!」


その言葉が終わると同時にシャンと音が聞こえ、兄様達の全身から水気が飛ばされた。

皆驚きの表情を浮かべている……が同時に、アーウィン様に対して物凄いジト目を向けた。……はて?


まあ、私が頼まなかったらずぶ濡れ状態で捨て置かれていたわけだから、そこら辺を怒っているんだろう。うん、その気持ち、分かりますとも!


「……いや、全然分かっていないと思う」


「はい!?」


あっ!もう、またー!!オリヴァー兄様、心の中を読まないで下さいってば!!ってか、分かっていないってどういう意味なんでしょうか?


「では、失礼いたします」


そう言って、アーウィン様が私達とリアムへ軽く礼を執った後、部下達の許へと歩いていく。


あれ?なんかベネディクト君がアーウィン様に近寄るなり、不機嫌そうになんか言っている。アーウィン様はといえば、ちょっと困ったように笑いながら、ベネディクト君の頭を撫でている。一体、なにを話しているんだろうか。


ふと、ベネディクト君がこちらに顔を向ける。そして私と目が合った瞬間、顔を赤らめさせた後、ペコリとお辞儀をした。


「?」


なんだろうと思いながら、こちらもお辞儀する。すると、ベネディクト君が物凄く嬉しそうな顔をする。あらまあ、なんとも年相応な表情!


するとその瞬間、背後から物凄い冷気と殺気が立ち昇り、慌てて後方を振り返る。


「ん?エレノア、どうしたの?」


「え?あれ?」


だが兄様達は、先程の殺気が嘘のような極上の笑顔を私へと向けていた。


「水気が吹き飛んだとはいえ、まだ濡れている状態だからな。寒いんだろ」


「そうだね。じゃあ風邪を引いたら大変だから、乾かそうか」


「あ……は、はぁ……」


――……うん。全員笑顔だね。


でも確かに笑顔なんだけど、実間違えでなければ、背後に暗黒オーラが見えるような気がするんですけど。……ひょっとして皆、怒っていたりします?


「ああ。……まあ、色々とね」


あっ!またオリヴァー兄様が心を読んだ!ってか、やっぱり怒っているんですか!?というより、色々ってなんですか!?……とは聞かない。なんかうっかり地雷を踏みそうなので、私も淑女の嗜みとして、引き攣り笑顔を浮かべながら頷いておきました。


その後、オリヴァー兄様とウィルとの温風機コンビにより、私達の身体はすっかり乾き、髪もフワフワになった。


この物理での力業、以前バッシュ公爵領でやった時にティルがアフロになっちゃったから警戒していたんだけど、実際に体験したら、マイナスイオンに包まれているみたいで、とっても心地よかった。


あ、ちなみに乾かされている間、シャノンが私の髪にトリートメント剤を馴染ませながら、ブラシでブローしていました。流石は美容班、抜かりはないね!


「いや~、実際あん時のオリヴァー様のアレは、俺に対する制裁だったっすからねぇ!」


「あ、やっぱりそうだったんだー!」


――……んっ!?


慌ててバッと声のした方を振り返ると、そこには誰もいなかった。


ってか、ティル!!貴方『影』なのに、ひょいひょいと出てくるんじゃありません!!

というより、なんで兄様達ばりに、私の思考を読んでるの!?


「仕方がないよ、バッシュ君。君ってものすごーく分かり易いから!……尤もそこが君の魅力の一つなんだけどね♡」


「ええっ!?そんな魅力要りません!」


――……んんっ!!?


再びバッと声のした方向を振り返ったが、やはりそこには誰もいなかった。


ってか、なんかものすごーく聞き覚えのある声と口調だったんだけど……ま、まさか……ね?




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「……セドリック。……お前んトコの影ってさぁ……」


「……リアム。君のトコのも、大概だと思うんだけど……」


後にバッシュ公爵家本邸と王宮。それぞれの上司達の元へと飛び立つ、ぴぃちゃんの姿があったそうな。


観覧、ブクマ、良いねボタン、感想、そして誤字報告有難う御座いました!

次回更新も頑張ります!

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