第465話 やって来ました精霊島!
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そうして、にわかに速度を上げた船の上で、私はセドリックに頼んで船首でタイ●ニックごっこをしたり(クライヴ兄様には「なにやってんだお前は」って呆れられたけど)、再び船と並走しだしたイルカ達をデッキから身を乗り出しながらはしゃいで見たりと、中断していた船の小旅行を楽しんだ。
本当は、あんな魔物の襲撃やキーラ様達のこともあるし、大人しくしていた方がいいのかもしれない。
だけど、私がこうして楽しんでいる姿を見せることによって、今までのゴタゴタで微妙になってしまった空気が緩和するだろうし、「私、全く気にしていません!」というアピールにも繋がると思うんだよね。
――というわけで、全力で楽しませて頂きます!
「お前、楽しみたいだけだろう」という野暮なツッコミは受け付けませんのであしからず。
そんなことを考えながら、デッキから身を乗り出すようにイルカの群れの泳ぎを堪能していた時だった。なんとそのうちの一匹が、いきなり目の前で大ジャンプをぶちかましたのだ。
思わず拍手!……しようとしたら、なんとそのイルカ、私の服を咥えて仲間の背中へと放り投げたのである。
「きゃー!」と悲鳴を上げる私と「「「「「エレノア―!!」」」」」と悲鳴を上げる兄様達。
クラーケンの襲撃再び!?……と思ったら、海上に浮かんできたイルカ達が、上手いこと背中で私をキャッチ。……何気にビタンと打ち付けた顔面が痛い。
その後、海に落ちまいと慌てて背びれにしがみついた私を乗せたまま、イルカ達ははしゃぐように、ポンポン飛び跳ねながら泳いでいく。
「うきゃー!!や、やめてー!!お、おちっ、おちるっ!!あーっ!!」
おかげさまで、折角乾いた私の服は、またしてもびしょ濡れ状態となり、当然というかシャノンの悲痛な悲鳴が耳に届く。
ごめんよシャノン。でもこれ、私の所為じゃないよね?
そんな訳で、私は強制イルカボートで「ヒャッホー」状態となり、バッシュ公爵家側や王家側だけでなく、ヴァンドーム公爵家御一行様も加わって阿鼻叫喚の大騒ぎとなった。
その後、再びリアムとマテオによってイルカの背中から救出された私は船に戻され、再び皆から怒涛の抱擁を受け、呼吸困難に陥る羽目となってしまったのだった(今回はリアムとマテオも参加した)。
その後、クライヴ兄様から「心配かけるな!」って怒られました。理不尽!!
後でウィルから聞いたんだけど、ベネディクト君が「あの警戒心の強いイルカが……」って呟いていたそうな。つまりは私、懐かれた……のだろうか?
そうして、再びアーウィン様から水気を取ってもらった後、温風機コンビにより簡易的に乾かされた私です。
でも前回と違い、今回は海水だったから、服や髪が微妙にごわついている気がする。
救いは、物凄く奇麗な海水だったから、生臭くはならなかったってことかな?でもやっぱりシャワー浴びたい気分。
そうこうしている間に、私達は目的地であるヴァンドーム公爵家本邸が聳え立つ島……。通称『精霊島』へと到着したのだった。
◇◇◇◇
『お……おおぅ!こ、これはっ!!』
ヴァンドーム公爵家本邸を見た私の感想……それはまさに、『ファンタスティック』に尽きた。
見た目で言うと、湖の中に建つ礼拝堂『モン・サン・ミッシェル』と、ギリシャにおける白亜の神殿をミックスしたような、沼持ちには堪えられない幻想的かつ荘厳な趣をもった、巨大なお城である。
そのお城を有している精霊島なんだけど、島自体はそれ程大きいものではない。
むしろヴァンドーム公爵家本邸の大きさに切り取られたかのような大きさなのだ。
桟橋自体も本邸と繋がっているというか、それ自体が城の一部というような作りとなっている。
『早く上陸したいなー!』って思っていたら……あれれ?何故か船は、そのまま桟橋を横に抜け、驚いたことにお城の中へと進んでいく。
ということは、あの桟橋はお客様用で、進んだ先にプライベートの船着き場がある……ってことなのかな?
そう思っていると、船は水門のような場所から青の洞窟のように幻想的に青く光る水路をゆっくりと進んでいく。
そして、眩しい光が差し込む先に出た瞬間、目に飛び込んできた光景は……。
「……う……わぁ……!!」
陽光を受け、煌めくエメラルドグリーンの海の中から聳え立つように作られた白亜の城が、周囲をぐるりと囲むように建てられていたのである。そう、正門は内側にあったのだ。
つまりは表の桟橋は、一般家庭で言うところの勝手口へと繋がっているんですね。成程、奥が深い。
「ふわぁ……凄いなぁ……!!」
見れば、幻想的な白亜の城を彩るように、鮮やかな緑を湛える木々が生え、色彩豊かな花々ががあちらこちらに咲き誇っている。
その息を呑むような美しさに、兄様達やリアム達も私同様、息を呑んで見入っているようだ。
しかも更によく見てみれば、小さな滝があちらこちらの階層から海に注いでいる。いやもう本当に、どこかの某テーマパークも真っ青の素晴らしい美しさである。
でも、建物から水が落ちているって、どういう仕組みになっているんだろう……。やはり魔法の一種なのかな?
「ほら、あんまり身を乗り出したら危ないよ?」
そう言って、私の身体を後ろから優しく抱き締めるオリヴァー兄様に、私は興奮冷めやらぬといった感じに声を弾ませる。
「オリヴァー兄様、凄いですね!」
「そうだね。……流石はヴァンドーム公爵家。色々な意味で凄い」
「色々な意味?」
不思議そうに首を傾げる私に、オリヴァー兄様はゆったりと微笑んだ。
「そうだね……。例えばこの邸だけど、地形を上手く利用して作られているんだよ」
オリヴァー兄様によると、なんでもこの精霊島、内側にぽっかりとスペースがある……というか、半月状態の地形だったようで、城自体がその地形に合わせ、ドーム状にぐるりと囲むような作りとなっているのだそうだ。
「それと、張られている防御結界……いや、これは……そういう類のものではないな。……成程。これではフィンレー殿下が弾かれてしまうわけだ」
「え?」
フィン様が弾かれるって…。兄様の口ぶりからすると、このお城に張られている結界って、『普通』の結界じゃないってことなのかな?
「バッシュ公爵令嬢、お気に召されましたか?」
そんなことを考えていると、いつの間にか傍に来ていたアーウィン様が、クスクスと小さく笑いながら声をかけてくる。
おっと、いかん!子供みたいにはしゃいでいた姿を見られてしまった。今すぐ淑女の皮を被らなければ!
「あ、はいっ!とても美しくて素晴らしいです!!」
ド直球な受け答えに、クライヴ兄様が片手で顔を覆った。……うん。私が咄嗟に淑女の受け答えなんて出来るわけなかったわ。
でも、そんな私の言葉を聞いて、アーウィン様だけではなく、その横にいたベネディクト君も凄く嬉しそうな表情を浮かべた。あ、ちなみにベネディクト君の耳だけど、今は普通の状態に戻っている。
一体どういう原理でああなるんだろうか?でもあの耳、とても綺麗だったし似合っているからちょっと勿体ない気がする。
にしても、ベネディクト君の私に対する態度が凄く友好的になっていて、とても嬉しい。
なんせ今まで、物凄く無表情かつそっけない態度だったからね。
「バッシュ公爵令嬢は、海も海産物もとてもお好きなようですね。我がヴァンドーム公爵領とは、とても相性がよろしいようだ」
「あ、はい!海の幸、大好きです!」
あっ!アーウィン様とベネディクト君が俯いて震えている。そして今度はオリヴァー兄様までもが、手で顔を覆った!ごめんなさい!ついうっかり本音が駄々洩れました!!
……ってかまあ、考えてみれば、てるノアの進撃を見てしまった後では今更ですよね。
「本当に……愛らしい方だ。ベネディクトが学院で貴女と出逢い、更にこの時期に我が領地にいらっしゃったのは、まさに女神様のお導き……。そう思わずにはおれない……」
「ああ。それは多分気の所為ですね。どうやら暑さで思考回路が疲弊されているようだ。水分を多めに取る事をお勧め致します」
アーウィン様のお言葉を、すかさずオリヴァー兄様が容赦なくバッサリと袈裟斬りにする。
それと同時に、にこやかに微笑み合うオリヴァー兄様とアーウィン様の間に、バリバリと電撃が走った(ような気がした)。
「ふふ……。初めてお会いした時から思っていたが、麗しい外見からは想像も出来ぬ激情を身の内に秘めておられる。流石は音に聞こえし二つ名を頂くだけのことはありますね。(意訳:「いや本当にお前って、見た目を思いっ切り裏切る腹黒だよな。流石は『万年番狂い』。執着と狭量、半端ねーわ!」)」
「それは光栄至極に御座います。ですがいずれ、貴殿にも相応しい二つ名を冠する日が訪れることでしょう。それに、エレノアをこちらに招いたのは女神様ではなく、ヴァンドーム公爵家であることを、ゆめゆめお忘れなきよう(意訳:「それはどーも!ってか、お前にもいずれ、『歩く強制
……あ、あれ?なんか二人の台詞の副音声が聞こえたような……?
というか、私の中の翻訳機能、どんどんオラオラ系になっている気がするんだけど、これってヤバイんじゃないだろうか。
「……エレノア。お前はこれ以上見ない方がいい。心が荒むぞ」
「そうだよエレノア。さあ、この美しい景観で心を癒されよう」
そう言いながら、クライヴ兄様とセドリックが、ブリザードと稲妻が吹き荒れているオリヴァー兄様達から私を遠ざけようとする。
するとそんな私達の元に、ベネディクト君が小走りで近付いてくるのが見えた。
「あ、あのっ、バッシュ公爵令嬢!」
「はい?」
「……その……。ここ、気に入って頂けましたか?」
顔を赤らめ、ちょっとモジモジしながらそう問いかけてくるベネディクト君は、見た目は凄く大人っぽいけど年相応に幼く見える。
「はい、素晴らしいです!本当に、とても素敵なご実家ですね!」
年下の美少年の恥じらい、尊い!と、微笑ましい気持ちでそう答えると、ベネディクト君はパァッと、物凄く嬉しそうな笑顔を浮かべる。その顔はアーウィン様ととてもよく似ていて、迂闊にも身構えていなかった私は瞬時に顔を赤らめてしまう。
……くっ、油断した!流石はヴァンドーム公爵家直系!なんという眩しさだ!!
するとタイミングを見計らったかのように、リアムとセドリックが私達の間へと割って入ってきた。
「ああ、確かに素晴らしく美しい城だな。流石はヴァンドーム公爵家本邸。実に見事だ!」
「本当にそうですね!まるで心が洗われるようです」
「……有難う御座います」
あれっ!?な、なんかベネディクト君のテンションが急降下した……?というか、リアム&セドリックとベネディクト君の間にも、ブリザードが見えるような……?
「エレノア」
オリヴァー兄様達やリアム達をハラハラしながら見ていた私に、クライヴ兄様が声をかけてきた。
その視線の先に目をやると、そこには騎士や侍従を背後にズラリと従え、威風堂々といった様子で立つこの城の主、アルロ・ヴァンドーム公爵の姿があったのだった。
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ヴァンドームの直系が、仕掛けてまいりました!
にしても、オリヴァー兄様の華麗なるオラオラ系とアオハル系は対照的ですねw
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