第466話 限界への挑戦

※顔面偏差値の4巻及び、コミカライズ1巻の予約が始まっております。


※『次に来るライトノベル大賞2023』投票中です!



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「――ヴッ!!」


私は奇声を発するのをすんでのところで抑えた。


この幻想的かつ荘厳なロケーションを背景に、遠目からでも分かる、三大公爵家当主の風格と威厳が駄々洩れているヴァンドーム公爵様のお姿……。


なんという尊さ!!初めて見るわけでないのに、インパクトが凄い!!


脳内にゴスペルが流れ出す。そのお姿はまさに、海底神殿の主たる海神ポセイドン!!


『そ、そして……!』


ゴクリと喉が上下する。


そう。私の見間違いでなければ、ポセイド……いや、ヴァンドーム公爵様の背後に数人、顔面破壊力を秘めた刺客が控えている……ような気がする。


『そういえば、ヴァンドーム公爵様、五人お子様がいらしゃった!』


今、この船には長兄であるアーウィン様と、末っ子のベネディクト君がいる。……という事は、公爵様の背後に控えているのは、次男、三男、四男……!?


『あれ?そ、そういえば、ヴァンドーム公爵夫人はどこにいらっしゃるんだろう?』


なるべく、公爵家ご一行様のご尊顔を拝まないよう見回してみても、それっぽい女性がいない。


そういえば公爵夫人は平民の出で、公爵様が夫人に惚れこんで結婚したっていう話だったから、公爵夫人自身が、こういう場に出ないようにしているのかな?


『ううん。むしろヴァンドーム公爵様が、溺愛のあまりに人前に出さないようにしているのかもしれない』


なんせヴァンドーム公爵家は、『男性血統至上主義』の派閥の長。その家長が平民の女性を妻に迎えたのだから、きっと今まで色々あったに違いない。


多分だけど、周囲の反対を押し切ってまで迎えた愛する女性なのだ。少しでも傷付けないよう、細心の注意を払って守り慈しんでいるに違いない。


――……じゃなくて!


現実逃避している場合じゃない!今現在問題なのは、ヴァンドーム公爵家のお家事情じゃなくて、私のことですよ!!


ど、どうしよう!?今迄の経験上、高位貴族になればなるほど、顔面偏差値はうなぎ上りになっていくのだ!(オリヴァー兄様とクライヴ兄様は別格として)

ましてや敵(?)は、三大公爵家の直系!しかもアーウィン様とベネディクト君によって、その顔面偏差値の高さは証明済みだ。


ヴァンドーム公爵様にプラスして、3つの顔面凶器が……!しかもそこに、プラス2(アーウィン様とベネディクト君)が加わるとしたら……!!


私はすぐ横にいるクライヴ兄様へ、縋るような視線を向けた。


「ク……クライヴ兄様……!」


「……エレノア……」


青褪めながら小刻みに震える私を見たクライヴ兄様は、真剣な表情で頷き、そして告げた。


「耐えろ!」


「無理です!!」


「即答すんな!!」


「だって、絶対無理ですって!!」


いや、本当。ベネディクト君はともかくとして、アーウィン様一人に対してだって、うっかり鼻腔内毛細血管ヤバかったのに、ヴァンドーム公爵様に加え、超絶美形伏兵が三人も控えているって、一体どんな拷問なんですか!?


「クライヴ兄様!こっ、このままヴァンドーム公爵家御一行様を直視してしまったら……。私は間違いなく、出血多量で滅します!!それだけじゃなく、貴族令嬢としても終わってしまいます!!」


「……エレノア、安心しろ。あの恰好てるノアになった時点で、既に終わっている」


「あ、そうだった。……じゃなくて!!ってか私、終わっていたんですか!?」


あっ!クライヴ兄様!その憐れみのこもった眼差しは!?

しかも口元、なんかピクピクしてますけど、ひょっとして思いだし笑い堪えてます!?


止めて下さい!!確かに嬉々として海鮮美味しく頂きましたが、そもそも私が進んであの恰好をした訳ではないんですよ!?


「エレノア、そろそろ上陸するよ」


小声でそんなやり取りをしていた私達に対し、オリヴァー兄様が声をかける。

見れば既に、船員さん達が上陸態勢に入っていた。


「エレノア。まずは俺から挨拶するから。お前はその後、ササッと挨拶して俺の後ろに引っ込んでいればいいよ」


同情に満ちたリアムからの、大変に有難いアドバイスにコクコクと頷く。有難うリアム!流石は王族、頼りになる!!


「あ、クライヴ・オルセン。万が一の時の為に、タオル用意しとけよ」


「ええ、勿論そのつもりです」


……既に鼻血を噴く方向でスタンバイですか。有難いけどなんか複雑!


あっ!アーウィン様が、ヒラリと船から飛び降りた!……そしてなにやらヴァンドーム公爵様と話し合ってるけど、ひょっとしてキーラ様達についての報告をしているのかな?


「リアム殿下、そしてバッシュ公爵家の皆様方。お待たせ致しました。準備が整いましたので、どうぞこちらに」


貴族の礼を執ったベネディクト君の言葉を受け、まずはリアムと側近であるマテオ、近衛騎士達が、白いタイル……いや、大理石の床に下ろされた頑丈そうなタラップを降りていく。


そしてその後に、オリヴァー兄様にエスコートされた私が。後方にクライヴ兄様やセドリック、そしてウィル達従者を引き連れ続く。


「ヴァンドーム公爵。この度は領地への招き、心より感謝する」


リアムの言葉を受け、公爵様以下、控えていた全ての人達が一斉に片膝を突くと胸に手を充て、深々と頭を垂れた。


「リアム殿下。勿体ないお言葉に御座います。そして尊き御身を危険に晒す失態を犯しましたこと。この領地を治める者として、まこと慚愧の念に堪えません。平にご容赦を」


「気にするな。魔物の襲撃は、自然災害に等しき災厄。其方の優秀な子息達と臣下により、誰一人被害に遭うことがなかったのだ。寧ろその事実を誇るといい」


「有難きお言葉」


形式的な挨拶と謝罪が終わると、リアムに促され、ヴァンドーム公爵様やその他の人達が立ち上がる。だが彼らはまだ顔を上げることなく、最上位の者に対する礼を執っている。


ふおぉ……!リアム、しっかり王族してますよ!?


だが、リアムの雄姿をじっくり堪能する余裕など、今の私にはない。


『こ、ここからだ!』


ゴクリ……と喉が鳴る。

ドクン……ドクン……と、耳元で聞こえる心臓の鼓動が煩い。


――タイミングを見誤るな!彼らが頭を上げた、その時こそがご挨拶する最高のタイミング……!!


「ともかく、折角このような素晴らしく美しい場所にやって来たのだ。ここでしか経験出来ないことを存分に満喫させてもらおう」


「御意。この領地での滞在が、御身にとっての最良なものとなるよう、我がヴァンドーム公爵家一同、誠心誠意おもてなしいたす所存に御座います」


「うむ。期待している。さあ、そろそろ顔を上げてくれ」


――今だ!!


私はすかさず、横に移動したリアムの後方から前方へと出ると、ヴァンドーム公爵様達が顔を上げ切るタイミングを見計らい、最上位者に向けて行うカーテシーを渾身の力でもってキメた。


「ヴァンドーム公爵様。エレノア・バッシュで御座います。この度は私や私の大切な家族を領地にお招き下さり、心よりの感謝を捧げさせて頂きます」


――……きまった!!


顔面破壊力を目にすることなく、ご挨拶することが出来た。まずは第一関門クリアだ!


後は、ヴァンドーム公爵様からお声がかかったら、伏せ目がちに無難な言葉を返しつつ、リアムの後方に引っ込んでしまえばいい。その後はオリヴァー兄様が、完璧にフォローしてくれる筈だ(人任せにすんな!と言うなかれ)。


「…………」


私は次に続く、ヴァンドーム公爵様のお言葉を待った……んだけれども……。あ、あれ?何故か中々お声がかからない。


『くっ!あ……足が……!!』


そうこうしているうちに、プルプル震えだした足を、私は心の中で叱咤激励した。


カーテシーって、優雅に美しく見せる為には、実は物凄い筋力を使うものなんですよ。


しかも最上級のカーテシーってやつは、まさに全身運動。大腿部も下腿部も、上腕二頭筋も腹筋も背筋も……まあ、要するに全身の筋力を総動員して行うわけです。


そして最も負荷がかかるのは、当然というか足の筋肉なわけで……。ううう……つ、辛い!こ、このままでは……倒れる……っ!!


「……バッシュ公爵令嬢。顔をお上げ下さい」


――キターッ!


『た、助かったっ!!』


涙目になって体勢が崩れそうになるのを堪えていた私に、ようやっと救いの声がかかる。


余りの辛さに思考停止していた私は、思わずパッと顔を上げてしまい……。

その結果、ばっちりヴァンドーム公爵様とそのご子息様方のご尊顔を拝んでしまったのだった。



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エレノアさん。一体なにと戦っているのでしょうか?

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