第467話 気になる少女【アルロ・ヴァンドーム視点】

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エレノアが渾身のカーテシーをキメた後、ヴァンドーム公爵家当主であるアルロは密かに困惑していた。




――今、自分の目の前には、完璧なカーテシーを披露しているエレノア・バッシュ公爵令嬢がいる。


……というかこの少女、リアム殿下との挨拶が終わった直後、絶妙なタイミングで自分の目の前にやってくるなり、流れるようなカーテシーをしたのだが……。


今まで自分が受けてきたカーテシーとはあまりにも違うそれに面食らってしまい、思わずその姿をじっくりと観察してしまう。


普通のご令嬢のカーテシーであれば互いに顔を合わせた後、貴族令嬢特有の、相手を値踏みするような眼差しで微笑んだ後、己の美しさを見せ付けるように、最大限ゆっくりと行うのが常である。


なのにこのご令嬢、自分達と顔を合わせるでもなく、まるで騎士のように隙のない動きで目の前に立ったかと思えば、いっそ潔さを感じさせる程にキレのあるカーテシーを全身全霊で行ったのである。


しかもその美しい所作は、数多の貴族令嬢の中でも群を抜いている。流石は由緒あるバッシュ公爵家直系の姫君にして、あのギデオン・ワイアットが認めた次期宰相アイザック・バッシュの娘である。


『うむ。流石は「姫騎士」の二つ名を持つご令嬢。あの身のこなし……只者ではない!』


思わず惚れ惚れと、その雄姿(?)に見惚れていると……。


『……ん?』


リアム殿下、そしてその側近であるワイアット公爵家の嫡子、マテオ・ワイアットが目に留まった。


彼等は口元をひくつかせながら、生温かい視線をバッシュ公爵令嬢へと向けている。


更に、彼女の後方に控えている彼女の婚約者達は……。うん、こちらに礼を執った状態で、何故かバッシュ公爵令嬢を見守って……るというか、ガン見している。


ーーなんという凄まじい緊張感だ。


にしても、彼らの後方に控えている従僕達が、若干挙動不審なのが気になるな。


だが反対に、リアム殿下の近衛達は……何やら感じ入ったような……いや、あれは陶酔の表情だな。とにかくバッシュ公爵令嬢を見つめる眼差しが半端なく熱い。


ん?彼らの後方にいる、船員に扮した我が騎士達までもが、なにやら目を輝かせながらバッシュ公爵令嬢を見ている。……もしやあいつら、隠れ姫騎士信者か!?


まあ、例の書籍が我が領地に出回って以降、『影』の中にもバッシュ公爵令嬢姫騎士に心酔している者達がいるしな。

しかも実際にあの戦いを目にした王家の騎士達などは、近衛達を中心に軒並み信者になっているようだから、あいつらが信者になるのも仕方がない。


……とはいえ、そのだらけ切った顔だけはどうにかしろ!後で鍛え直しだバカ者どもが!!


とはいえ長男のアーウィンも、あの本を読み終わった後、「実際の戦いっぷりを、この目で拝んでおけば良かった!」と、しきりに残念がっていたからな。あいつ付きの騎士達が、揃って実物を目にして興奮しない訳がないか。


だがだからといって、実際のバッシュ公爵令嬢を見んが為に、私に無断で船長のフリして船に乗り込むバカがどこにいるんだ!……いや。今現在、まさに私の横にいるが……。


――まあ、話を元に戻そう。


この目の前に繰り広げられている光景は、一体なんなのだろうか……。


なんというか……反応が三者三様だな。後方にいる(アーウィンとベティを除く)我が息子達も、目の前の異様な光景に戸惑っているようだ。


ん?横にいるアーウィンが軽く咳ばらいを……あ、しまった。エレノア嬢の身体が小刻みに震えている。


――そうだな。あのカーテシーをずっとやっていれば辛いよな。


今回彼女には、我が家門絡みで大変申し訳ない思いをさせてしまったというのに、わざとではないにせよ、更に礼を欠いた態度をとってしまった。


というか、これではわざと苛めているも同然だ。見れば、バッシュ公爵令嬢達の後方にいるベティも、こちらを不機嫌そうに睨みつけ……え?なんで!?ひょっとしてベティも、私が彼女を苛めていると思っている?


いや、息子よ。私は別に、バッシュ公爵令嬢を苛めている訳ではないんだぞ?というかお前、いつの間にそんなにバッシュ公爵令嬢を気にかけるようになったんだ!?


「……バッシュ公爵令嬢。顔をお上げ下さい」


私は焦りと動揺を隠し、出来るだけ優しく労わりを込め、バッシュ公爵令嬢へと声をかけた。


すると、やはり辛かったのだろう。バッシュ公爵令嬢はカーテシーをした時と同様、実に潔く顔を上げ、私や息子達とバッチリ目を合わせた。


『……ほう、これは……!』


初めて会った時も思ったが、なんとも愛らしい少女だ。


大きく見開いた、インペリアルトパーズのような瞳は陽光を受け、まるで煌めく水面みなものように輝いていて、思わずその輝石のごとき輝きに吸い寄せられるように見入ってしまう。


後方に控えている息子達も自分と同じ気持ちなのか、息を呑む音が聞こえてくる。


ああ……。それにしても、薔薇色に染まった頬も桜色の唇も、なにもかもが本当に愛らしい。


プルプルと震えている小動物のような姿も、たまらなく庇護欲をそそる。ふふ……。そういえば彼女は、極度の恥ずかしがり屋さんだったな。


貴族令嬢の、恥じらう「フリ」はよく目にするが、素の恥じらいというものは、これ程までに胸にくるものなのか。

うん、これならば、バッシュ公爵だけでなく、オルセン将軍やクロス魔導師団長といった、曲者揃いの連中が軒並み落とされてしまったのも頷ける。


私には息子しかいないが、こんな娘がいたら、どれ程可愛がっても可愛がり足りないぐらいに溺愛するんだろうな。


『……え?』


などと考えていたその時だった。


さっきまで真っ赤になっていたバッシュ公爵令嬢の顔が、サーッと血の気が引いたように青くなった。

かと思えば、身体がゆっくりと倒れていく。え?な、何故!?


「エレノア!!」


すかさず……というか目にも留まらぬ速さで、専従執事の青年が、倒れる寸前の彼女の身体を抱きとめる。


そして、彼女の周囲の者達が血相を変え、彼……クライヴ・オルセン子爵令息の腕の中で意識を失っているバッシュ公爵令嬢の元へと駆け寄った。


だがその中でただ一人、彼女に駆け寄らなかった黒髪黒目の麗しい美貌を持つ青年……オリヴァー・クロス伯爵令息が私に対し、最大級の貴族の礼を執った。


「閣下。我が婚約者の御前においての無礼、平にご容赦を。筆頭婚約者として、心よりの謝罪を致します。ですが、妹は慣れぬ船旅と突然の災厄により、体調を崩しておりまして……。それでも、わざわざお招き下さった閣下への礼を欠くまいと、精一杯のご挨拶を……。ですが、遂に気力が尽きてしまったようです」


完璧な貴族としての謝罪。……だが、この言葉に秘められた意味は多分……。


『来たくもないのにわざわざ呼びつけ、あんなことやこんなことで疲労させられた挙句、しっかり挨拶した妹を長々と苦しめやがって!三大公爵家だからって、ふざけてるんじゃねーぞ!?』


……といったところか?


最初にこの青年に会った時も思ったが……。流石は次期バッシュ公爵家当主。あのワイアット宰相が、『次代の宰相候補』として気に入るだけのことはある。怒りを通り越して、いっそ清々しいまでの不敬っぷりだ。


「ああ、気にしないでくれ。それより、バッシュ公爵令嬢は大丈夫なのか?」


「はい。……あれは発作のようなものですから」


「発作!?」


なんと!バッシュ公爵令嬢が病を患っているとは!


「失礼だが、バッシュ公爵令嬢はどのような病を患っているのだ!?」


「……いえ、あれは病という訳では……」


先程までの、立て板に水が流れるような不敬っぷりから一転、やけに歯切れの悪い口調に、内心首を傾げる。


「余計なお世話かもしれんが、実際に病であったとしたら一大事だろう。なんなら聖女様に願い出て診て頂いたらどうだ。なんなら私が口添えをするが?」


まだ詳しくは聞いていないが、バッシュ公爵令嬢はベティを助けようとしてくれたらしい。

それに、なんといっても我が領内で命の危険に晒してしまったのだ。そんな彼女の為ならば、王家に頭を下げるのもやぶさかではない。


「いえ、それには及びません。……まあ、命にかかわるようなものではありませんし……」


……なんか、言葉を濁して誤魔化そうとしている?……怪しい。


というか、我が家の『影』達の情報によれば、今代の王家直系達は皆、バッシュ公爵令嬢に懸想しているうえに、聖女様ご自身も彼女の事は大変に気に入られているようだ。

だから望みさえすれば、誰もが彼女の為に率先して動こうとするに違いない。なのに何故、聖女様を頼ろうとしなかったのだろうか。


「閣下のご温情、バッシュ公爵家当主に成り代わり、深く感謝申し上げます。……ですが今は、一刻も早く妹を休ませてやりたいのです」


「ああ、それは勿論だ。すぐに君達の為に用意した部屋に案内させ……」


――ん?


よく見てみると、隣でアーウィンが口元を手で覆って小刻みに身体を震わせている。バッシュ公爵令嬢といい、オリヴァー・クロスやベティの態度といい、一体どうなっているんだ?


「……アーウィン。船の上で起こった出来事と、バッシュ公爵令嬢について……詳しい説明をして貰いたいのだが?」


執事に案内され、気を失っているバッシュ公爵令嬢と婚約者達が館の中に入って行ったと同時に、遂に声を上げて笑い出したアーウィンを見ながら、私は静かに声をかけた。



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以上。とある少女の頑張りを、イケオジ視点から実況中継でお届けしました!_(:3 」∠)_

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