第468話 同伴指名?

※顔面偏差値の4巻及び、コミカライズ1巻の予約が始まっております。



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――……ジーザス……。


『じゃなくて、女神様ッ……!私、なにか悪いことしたんでしょうか!?』


寝かせられたベッドの中、掛布の中で丸まり、シクシクと枕を涙で濡らす私を、クライヴ兄様とセドリックが無言で頭をよしよしと撫でてくれている。

そしてウィルとシャノンはというと、そんな私をオロオロしながら見守っている。御免ね皆、心配かけて。


ちなみにオリヴァー兄様はというと、私の代わりにリアムと一緒にヴァンドーム公爵様に招かれ、お茶をしながら今後の打ち合わせをしているそうです。


「ううっ……終わった……!」


挨拶もまともに出来ず、顔面凶器にやられて失神するなんて、公爵令嬢失格だ。

ああ……穴があったら入りたい!そしてそのまま埋めてもらいたい!!


「カーテシーをしたタイミングはバッチリだったんだがな……」


「そうですよね。まさかあのタイミングで、ヴァンドーム公爵が返事をタメるとは思いませんでしたね」


聞こえてきたクライヴ兄様とセドリックの言葉に、小さくコクコク頷く。


そう、そうなんです!!なんであんなにお返事するのに間が空いたんですか!?おかげで当初の計画が狂ってしまい、その結果、ヴァンドーム公爵様及びご子息様方のご尊顔をバッチリ拝んでしまうことになってしまったじゃないですか!!


「……ひょっとして、私のカーテシーが拙かったから、呆れていたのかな……?」


ということはつまり、心の中で「こいつ、やべー」って思われていたってことだよね!?

ああ……そうだったとしたら、失神していなくても、どのみち終わっていたのか。


「いや、それは絶対にあり得ねぇ!!」


「そうだよ!君のカーテシーは完璧だった!!」


「その通りです、お嬢様!!あのような美しくも潔いカーテシーに対し、そのようなこと断じて御座いません!!」


「そうですとも!!実に惚れ惚れする程、男らしいカーテシーでした!!」


――男らしいカーテシーってなんぞ!?


掛布から顔を覗かせると……あっ!クライヴ兄様が、「余計なこと言うな!!」って、シャノンに鉄拳喰らわせてる!!


でも……そうか。多分、私のカーテシーって普通じゃないんだな……。だからあんなに間があったのか……。


私は再び掛布の中に引っ込みながら、深く溜息をついた。そして、ご尊顔を直視してしまったヴァンドーム公爵家ご一行様方を思い出してみる。


まずは、海神ポセイド……いや、ヴァンドーム公爵様。


荘厳で厳格でありながら、どことなく人好きするような温かみのある美貌が……こう、バーンと目に直撃しましてですね。


更にはあの方、物凄くいい笑顔を浮かべていらしたんですよ!!


絶世のイケオジの穏やかな微笑なんて、もうプレミアものでしょう!?世のイケオジ沼の方々が目にしようもんなら、阿鼻叫喚違いなしですって!!


しかも後方に控えていた、ベネディクト君のお兄様方のご尊顔がですね……あれ?なんかぼんやりと霞がかっている?


そういえば、あの後すぐに貧血起こしたし、目に入ったの一瞬だったし……う~ん、よく思い出せないな。


まあ……多分だけど、その一瞬で十分過ぎる程、三大公爵家直系の顔面殺傷力は私の眼球と脳を直撃したのだろう。だからこそ脳の方も己を守るべく、思い出すのを拒否しているに違いない。


『にしたってやっぱり、三大公爵家の方々の前で、顔面偏差値にやられて気を失うなんて有り得ないよ!!』


本当に、なんたる失態!


父様、バッシュ公爵家の皆、家名に泥を塗ってしまって御免なさい!ああ……やはり今すぐ、穴を掘って埋まりたいです!


そんな感じでうだうだシクシクしていると、小さく扉が開く音が聞こえてきた。


「おう、オリヴァー!」


「リアム!それにマテオもお疲れ様!」


どうやらオリヴァー兄様とリアムが部屋に入ってきたらしい。それにマテオも一緒のようだ。


そういえばマテオも三大公爵家直系だったよね。じゃあひょっとしてリアムの側近としてでなく、ワイアット公爵家の嫡男として、ヴァンドーム公爵様にご挨拶しに行ったのかもしれないな。


「エレノア?具合はどう?」


「……最悪です(主に精神面が)」


掛布にくるまったままの状態で、顔だけ出して返答すると、オリヴァー兄様は掛布ごと私の身体をひょいっと抱き上げ、そのまま自分の胸に抱き締めると、頭部に優しく口付けを落とした。


途端、ボフンと顔から火が噴く。


すると、オリヴァー兄様は蕩けそうな極上の笑みを浮かべながら、今度は唇にキスを落とした。


「大丈夫だよ。あちらからは『こちらの不手際で辛い体験をさせてしまった。挙句、追い打ちをかけるようなことをしてしまい、本当に申し訳なかった』ってお詫びのお言葉を頂いているから。君のご挨拶があまりにも見事で、ついうっかり見惚れてしまったんだって」


「……挨拶が……?それって男らしいところがでしょうか?」


「え?なんでそうなるの?」


真っ赤になり、シュンシュンと頭から湯気を出しながらそう口にすると、兄様は不思議そうな顔で首を傾げた。


そこでクライヴ兄様が、シャノンの言葉をそっくりそのままオリヴァー兄様に伝える。


すると、オリヴァー兄様は「シャノン……。君とは後でゆっくりと話し合う必要がありそうだね」って言いながら、とってもいい笑顔をシャノンに向けた。あっ、よく見たら、兄様青筋立ててる!不味い!!


「オリヴァー兄様、シャノンは私を一生懸命慰めようとしてくれたんです!だから、あんまりきつく叱らないであげて下さい!」


慌ててオリヴァー兄様にお願いすると、「ああっ!僕のエレノアが尊い……!!」と言いながら、ぎゅむぎゅむと抱き締められ、キスの嵐を受けました。そしてシャノンからは泣きながら拝まれました。


「それでね、エレノア。ヴァンドーム公爵から、『晩餐会の前に、バッシュ公爵令嬢が気が付かれたら、直接お詫びをしたい』と言われたんだけど……」


「どうする?お断りする?」と続けたオリヴァー兄様に、私はブンブンと首を横に振った。


「いやいやいや、オリヴァー兄様!ただでさえ、最初っから躓いているんですから、お断りなんて出来ませんよ!!」


「そう?きっとあっちは一族総出で挑んでくるだろうけど、それでも?」


ううっ!か、華麗なる一族総出って……!!


一瞬怯むも、これ以上バッシュ公爵家直系として醜態は晒せない。

私は決死の覚悟で腹を括った。


「は……はいっ!二言はありません!!」


「……エレノアも成長したね……」


オリヴァー兄様。しみじみとそう呟きつつ、物凄く残念なお顔をされていますね。ひょっとして私がお断りするのを期待していましたか?


「それじゃあ、身支度を整える為に、まずはお風呂に入ろうか」


「あ、はいっ!!」


やった!お風呂だ!!


ちょっと自分、しょっぱくなっていたから、実はお風呂入ってサッパリしたかったんだよね!


「さて。そうすると、エレノアと一緒に入浴する者を決めなくてはいけないね」


――はい!?


「オ、オリヴァー兄様?私、一人で入れますよ?」


だいたい、最近はミアさんと一緒か一人で入浴しているのに、なんでまた!?


そう言った私に対し、オリヴァー兄様は「いや、駄目だ」と、にべもなく一刀両断。いや本当、なんでですか!?


「こんな敵地で、君を一人にするなど……。ましてや浴場だよ?丸腰の時に何かあったらどうするんだい?」


「い、いやいやいや、オリヴァー兄様!!む、むしろだれかと一緒に入った方が危ないです!!こ、ここはバッシュ公爵家のお風呂じゃないのに……もしも万が一のことがあったら……」


「――ッ、エレノア!?」


真っ赤になって反論すると、オリヴァー兄様は目を見開き、頬をうっすらと赤く染める。


「……そうか……。君にもようやっと、そういう情緒が!!」


あれ?オリヴァー兄様。何を感極まってらっしゃるんですか?ってか、クライヴ兄様とセドリックも目をキラキラさせてるし!……ん?あれ?リアムとマテオは真っ赤になって震えてる??


「そ、そうですよ!万が一のことがあって、よそ様のお宅のお風呂を血の池地獄にしちゃったら、どうするんですか!!」


「……ああ、そういう心配ね」


オリヴァー兄様!?何をガッカリしていらっしゃるんです!!あっ!他の皆も肩をガックリ落としてる!!


「ってか、そもそも敵地ってなんなんですか!?」


途端、オリヴァー兄様の表情が真剣なものへと変わる。


「……ウェリントン侯爵令嬢と例の専従執事だけど、ヴァンドーム公爵お抱えの魔導師が調べても何も出なかった。身体検査も行ったらしいんだけど、それも真っ白。ゆえに、彼等は離れで軟禁状態になっているが、厳重に拘束されている訳ではないんだ」


オリヴァー兄様の言葉を受け、その場の全員に……勿論私もだが、緊張が走る。


「それに、君をここに呼びつけたヴァンドーム公爵家の思惑も、まだハッキリしていない。彼らは何かと問題のある派閥を束ねる長。しかも……ここだけの話、帝国との繋がりがあるのではないかと噂されているんだ」


『帝国』の名を聞いた瞬間、ビクリと肩が跳ねる。というか、ヴァンドーム公爵家にそんな噂が……!?


「帝国の脅威は依然そのまま。そしてまたいつ仕掛けてくるか分からない状況が続いている。つまり、ここが安全だと確信出来るまでは、一瞬たりとも気を許すことは出来ないんだよ。だから入浴も就寝も、君を一人には絶対にしない。必ず誰かを共に付ける。……分かったね?」


私は固い表情のまま、コックリと頷いた。


そうだった。


私の今の平穏は、皆が全力で私を守ってくれているからこそのもの。それに、あの専従執事の彼……ヘイスティングに感じた恐怖心を考えると、オリヴァー兄様の言っていることは正論以外のなにものでもない。


オリヴァー兄様はすこし思案した後、チラリとリアムの方に目を向けた。


「……そうだな。リアム殿下、今回は貴方がエレノアの入浴に同行して下さい」


――な、なんですとー!?


「――はぁ!?お、俺ー!?」


オリヴァー兄様の爆弾発言により、部屋の空気が凍りつく。

そしてその一瞬後、リアムの絶叫が上がった。



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オリヴァー兄様、ご乱心か!?

そしてエレノアの前に、新たなる試練が立ちふさがりました!……って、あれ?これってリアムにとっても試練だったりして?

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