第517話 かっ飛ばせ!

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シュゥゥゥ……と、炎の衝撃による煙が晴れていく。


『ヘイスティングさんの身体は……あっ!』


見ればマルスヘイスティングさんを護るように、蔓がドーム状に展開していた。


「ぶ、無事だった!良かった~!!」


ヘイスティングさんの無事な姿を見ながら、安堵の溜息をつく。……すると。


「……ッ……エレノア……?」


オリヴァー兄様に名を呼ばれ、振り向くと、何故か兄様は驚愕の面持ちで私をジッと見つめていた。


「オリヴァー兄様?」


「……君、まさか……『反転』させられたのかっ!?」


「へ?……あっ!」


――そうきたかーっ!!


いやまあ、考えればそうだよね!「どう考えても敵だろ!?」って相手を私が庇えばそうなるよね!でもだって、タイミングが悪くて今まで伝えられなかったんですよー!!


「そんな……!!エレノアにはアシュル殿下の加護があったというのに、それすらも凌駕する程の力を敵が持っていただなんて……!!」


「ち、違いますっ!!オリヴァー兄様、実は彼は……」


「それなのに、僕達はわざわざ敵の許に君を……!?」


「あのっ!兄様っ!?」


「くそっ!!どうすればいいんだ!?アシュル殿下もフィンレー殿下も、今は大精霊様を正気に戻す為に手が離せない!!……僕が……僕がなんとかしなくては!!」


――いや、だから話を聞いて!!?


「だーかーら!違いますって!!私は洗脳されていませんし、彼は敵が中に入っているだけで、本当は味方なんですっ!!」


はあ……。やっと言えた!!……ん?なんですか兄様。その憐憫のこもった慈愛の眼差しは?


「可愛そうに……。大丈夫だよエレノア。君が眠っている間に君を狂わせた元凶は、僕がしっかり始末しておいてあげるからね?」


「へ?……えっ!!?」


一瞬で、オリヴァー兄様の超絶麗しい美貌がドアップになる。……って、ちょっと待って!オリヴァー兄様、『君が眠っている間に』って……。


「――ッ!!」


オリヴァー兄様が私の首筋に手刀を落とそうとした瞬時、その手を地面から生えた金色の蔓が弾いた。


風にそよぐように、私をオリヴァー兄様から守り揺らめいている金色の蔓。……そして、蔓の間にシレっと生えているぺんぺん草とタンポポ。なんなんですかあんたら!?「私達もやれますよ!」っていう、謎の自己主張なのか!?


「エレノア……」


手を弾かれたオリヴァー兄様が、愕然とした表情で私を見ている。こりゃいかん!


再び兄様に今の状況を説明しようとしたその時、私の蔓に護られているマルスの嘲り笑いが聞こえてきた。


「はははっ!ざまぁないな貴様!筆頭婚約者でありながら、当の愛する小娘に私を殺す邪魔をされているのだからな!」


オリヴァー兄様を煽るように悪態をつくマルスに対し、オリヴァー兄様の背後から凄まじい暗黒オーラが噴き上がった。


「……貴様……。僕の愛しいエレノアをよくも……!!」


「オリヴァー兄様!だから私は洗脳されてません!!」


――って、駄目だ。聞いてない!


た、確かに、どう考えても敵でしかない相手を私が庇っているんだ。「洗脳されている」って誤解するだろうし、私が何を言っても「そう言わされている」って思っちゃうよね。


「どうした、紅の悪魔?私を殺したいんだろう?殺せるなら殺してみろよ。実際、私を殺さなければ、この小娘の生命力も枯渇するし、大精霊も元には戻らないぞ?」


「――!!」


言われて見てみれば、奥方様に向かって魔力を流し続けているキーラ様の身体が四歳児並みに縮んでしまっている!というか、先程よりも魔力の奔流が激しくなっている!!


それに伴い、『反転』を強化され続けている奥方様は、あのフィン様の闇の拘束をものともせず、ヴァンドーム公爵様やベネディクト君、そして光の魔力を練り上げているアシュル様への攻撃を激化させている。


「どうする?私をどうにかする為には、貴様の最愛を何とかしなくてはならない。だが、貴様がその娘を害して私を殺したとして、どちらにせよその娘は絶望するだろう。なにせ、『愛し子殺し』なんだからな」


「――ッ!」


オリヴァー兄様は、「『愛し子殺し』……?」と、マルスの言っている言葉の意味が理解出来ず、訝し気に眉を顰めている。……けれど私には、マルスの言っている意味も狙いも全て分かってしまった。


――なんて事だ!!


こいつマルスは、オリヴァー兄様が自分ヘイスティングさんを……いや、あの場に居た誰でも良かったのだろうけど、とにかく彼を殺させようと計画していたんだ!


ヘイスティングさんは転生者……すなわち、皆が言うところの『女神様の愛し子』だ。


その女神様の寵児とも言える彼を、アルバ王国への攻撃に利用し尽くし、最終的にアルバ王国の人間の手に掛けさせる。つまり、私達を殲滅させる前に、私達アルバの人間と女神様、双方に絶望を与えようとしたに違いない。


現に今、私の目の前で兄様を煽り、自分ヘイスティングさんを殺させようとしている。


「……ッ……!こ……のっ、外道!!」


私は心の底から湧き上がってくる、マルスへの怒りの感情を抑える事が出来なかった。……けれど。


「あっ!?」


マルスを護るように彼らの周囲に展開していた金色の蔓が、スルスルと離れていく。当然オリヴァー兄様はその絶好の好機を逃さず、再度爆炎をマルスに向け放つ。


「危ないっ!!」


私の叫びに呼応し、再び蔓はマルスヘイスティングさんを覆い守る。あ、危なかった……!!だけど、今の現象は一体どういう事なんだろう。


そこでふと、私の脳裏にヘイスティングさんが口にした言葉が浮かんだ。


『いいか、よく考えろ!君の『力』が……『大地の聖女』の力が発動したのはどういう時だったのかを!』


「あの『蔓』が最初に発動したのは、クリスタルドラゴンに襲われていた時……」


そして次は、ブランシュ・ボスワースとの戦いの時……。そして、九頭大蛇ヒュドラを拘束した時……。


どの時も、私は『助けたい』『守りたい』と必死に願っていた。


「……ああ、そうなんだ……」


ストンと、心の中のパズルに、欠けていたピースが綺麗に埋まった。


以前、国王陛下は仰っていた。『突出した治癒能力』『邪力を封じ込める魔力』を持つ者が『聖女』と認定される……と。


『大地の魔力』の使い手である姫騎士は、人間だけでなく荒廃した土地すらも緑豊かな大地に変える事の出来る、偉大なる癒やし手だったと言われている。……つまり……。


「守り、慈しむ為の力であるべき『大地の魔力』が、憎しみに囚われ、相手を傷付けようとした時に発動しないのは当然の事だったんだ……」


――ならば!!


私はキッとマルスを見据えると、に、両手を組んで祈り始めた。


すると、マルスヘイスティングさんの周囲の蔓がドーム型になっていき、眩く発光し始める。


「ッな……っ!?こ……れは!?」


余裕そうにしていたマルスの表情が困惑に変り、そして驚愕の面持ちへと変化する。


聖女様やアシュル様が持つ光の魔力や、大精霊が行使する魔法……すなわち『聖魔力』は、『魔眼』を持つ者達にとって最も忌むべき力。

だからこそマルスはヘイスティグさんの肉体を盾にして、聖魔力による結界をくぐり抜け、自身に対する攻撃すらも防いでいたのだ。


――だったら、その魂を護る盾を安全地帯じゃなくしてやる!!


私はヘイスティングさんの身体に大地の魔力聖魔力をガンガン注ぎ込んでいく。まだ生きているに違いない、本当のヘイスティングさんを護る為……そしてマルスの魂を、ヘイスティングさんの身体から排除する為に。


「く……っ、あ、熱……いっ!!ぐはっ!や、やめ……!……あ……あああっ!!」


もがき苦しむマルスが、断末魔のような叫び声をあげる。


するとマルスの……いや、ヘイスティングさんの身体から、真っ黒い靄のようなものが金色の檻から逃れるように噴き上がっていくと、寄せ集まって球体のようになっていく。


「オリヴァー兄様!!アレに炎を!!」


「――ッ!?わ……かった!!」


今までの出来事を呆然と見つめていたオリヴァー兄様が私の言葉に従い、黒い球体に向けて爆炎を放つ。

けれども何故か、爆炎は球体をすり抜け宙で霧散してしまった。どうやら魂に直接攻撃物理攻撃は効かないようだ。


じゃあ、私の魔力で出来た(?)蔓なら攻撃が……って、あれがマルスだと思うと、心情的にぶちのめしたくなってしまうから無理!!


「なんだ……あれは!?」


声のした方を振り向くと、アシュル様がこちらを凝視している。見れば、マルスがキーラ様へかけていた『生命の逆行』がなくなり、能力を増幅させる事が出来なくなったお陰か、奥方様の攻撃が明らかに弱まっている。


そしてマルスであろう黒い塊は、悔しそうにウロウロとしながら宙に浮かんでいた。


そうだ!アシュル様にマルスを浄化してもらえば!!……あ、でも弱まったとはいっても『反転』が解除された訳じゃないから無理か!でも、このままじゃマルスに逃げられてしまう!!


――そうだ!!


「アシュル様!光の魔力で七センチ程の球を作って私に投げて!!オリヴァー兄様は刀の鞘を貸してください!!」


「え?」


「は?なんで?」


「いーから!早くしてくださいっ!!」


「「は、はいっ!!」」


戸惑う二人に一喝すると、慌ててオリヴァー兄様が刀の鞘を私に渡し、そのタイミングでアシュル様が光の魔力で球を作って放る。うん、ナイスタイミング!!


私は鞘を構え、マルスへと照準を合わせた。よしっ!魔法はイメージ!あの光の球は固いボール……。


……そして。


「因果応報、思い知れー!!」


バットの要領で思いきり鞘を振り被る。


カキーン!!


小気味いい音を響かせながら、私は光の球をマルスめがけて打ち放った。


『グアァァァー!!』


光の球はものの見事に黒い塊マルスへと命中し、マルスの断末魔のような絶叫が脳に直接響き渡る。


そうして黒い塊マルスは、光の魔力に浄化されたのか、その場から蒸発するように消えていったのだった。




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これぞ起死回生の逆転満塁ホームラン!!(゜Д゜;)(゜Д゜;)←(O&A)

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