第518話 因果応報の末路【帝国side】
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帝国の皇帝並びに皇家直系、そしてその伴侶や愛妾達が住まう黒き宮殿。
本殿を中心に、東西南北にそれぞれ離宮が建てられており、そのうちの東の離宮に住まうのは、第二皇子のマルスである。
「ぐああああぁぁー!!」
突如、東の離宮内で一番豪華な部屋から絶叫が響き渡った。
「マ、マルス様!?」
「我が君!!如何なされましたか!?」
続き部屋に控えていた側近達や、部屋の外に待機していた騎士達が、防御結界が消滅した部屋の中に慌てた様子でなだれ込む。
だが彼らは、目の前にある光景を目にし、絶句した。
何故ならそこには、床の上で胸を掻きむしり、もんどりうつようにもがき苦しんでいる彼らの主の姿があったからだった。
「うぐっ!ううう……ああっ!!」
「マルス様ッ!!」
側近の一人が血相を変え、苦しみ悶えるマルスの身体を支え起こそうとするが、その身体から凄まじい魔力が噴き上がり、助け起こそうとした側近だけでなく、騎士達までもが次々とその魔力にあてられ、昏倒していった。
「――ッ!!ま、魔力暴走!?」
駆け寄ろうとした側近や騎士達がマルスから慌てて距離を取る。その間にもマルスの口からは大量の血が吐き出される。
「だ、駄目だ!!今すぐ宮廷魔導士達を呼べ!!」
咄嗟に自分自身に防御結界を施した男が、他の側近達に指示を下す。
「ゴルドン様!で、ですが、あそこにいるのは、我が陣営の魔導士達だけではありません!」
「我が君のこのような有様を、敵陣営の者達の目に晒す訳には……!!」
困惑しながら動こうとしない側近達に対し、男……ゴルドンは、苛立ちも露わに鬼の形相で怒鳴りつけた。
「ええい!!そのような事を言っている場合か!?このまま魔力暴走が続けば、マルス様のお命にかかわるのだぞ!?疾く行け!!」
「は、はいっ!!」
慌てて駆け出して行く側近達を一瞥した後、男は残った騎士達の方へと目を向けた。
「お前達は他の騎士達と共に、この離宮に何人たりと立ち入らせぬように厳戒態勢を敷け!!いいか!?もしネズミ一匹でも入り込もうものなら……。お前達全員、命は無いものと思えよ?!!」
「は、はっ!!」
指示に従い、騎士達も駆け出して行く。それを見送りながら、ゴルドンは未だ苦しみもがく己の主を悲痛な眼差しで見つめ、何も出来ぬ自身の不甲斐なさにギリッと奥歯を噛み締めた。
「マルス様……!!くそっ!一体なにが……!?ヴァンドームの攻略は失敗に終わったのか!?」
ゴルドンは、マルスが転生者である男を利用し、アルバ王国内にて『裏王家』と称される海の守護者、ヴァンドーム公爵家に攻撃を仕掛けていたのを唯一知らされていた、マルスの腹心である。
その戦略は実に巧妙で周到。
魂の一部を転生者の身体に憑依させた主は、その身体に護られ、大精霊の結界の中を自由に動く術を得た。そうしてアルバ王国内に潜む内通者達と結託し、アルバ王国の一角であるヴァンドーム公爵領に大打撃を与える事に成功した。
最終的にはウェリントン侯爵家の令嬢の力を使い、力を削いだ大精霊を従わせ、ヴァンドーム公爵家の直系達を根絶やしにする計画であったのだ。
もしその計画が不測の事態でとん挫したとしても、憑依した転生者の身体を捨て、元の身体に戻ればいいだけの事だ。しかも魂に物理的な攻撃を与える事は不可能。
……だというのに、この主の状態……。これは明らかに、魂に致命的な攻撃を加えられた事を物語っている。
『大精霊の力か……?いや、奴はマルス様の計画により、力の殆どを使い果たしていた。だが、我ら帝国人の……その中でも最も力の強い皇家直系の魂を傷つけられるような輩など、『光』の魔力を使う聖女以外有り得ない。だが、聖女アリアがヴァンドーム公爵家にいる筈が……』
そこでゴルドンはハッと気が付いた。
いや、一人だけいるではないか。まさかのタイミングでヴァンドーム公爵領へとやってきた、マルス様が「将来、我が帝国の禍根になるかもしれない」と警戒し、同時に始末しようとしていた少女が。
「……エレノア・バッシュ公爵令嬢。……我ら帝国最大の脅威とされている『姫騎士』の再来と謳われる女。まさか……その者がマルス様を!?」
だが、ゴルドンの思考はマルスの呻き声と、遠くから聞こえてくる複数人の足音を聞き、現実へと浮上する。
そうだ、まずは目の前で苦しむ我が主に集中せねば。
「……来い」
すると音もなく、黒いローブを纏った男達がその場に現れた。
「今後、アルバ王国内はどこも更なる厳戒態勢が敷かれるだろう。だが今なら、混乱しているかの地であれば、内情を知る事が可能だ。貴様らは今すぐ、ヴァンドーム公爵領内に潜伏している仲間達と共に、情報収集に動け」
「……はっ」
恭しく頭を下げる『影』達に対し、男は言葉を続けた。
「……並びに、バッシュ公爵家の動向も探れ。だが深追いはするな。あそこの家令……特に本邸のあ奴は底が知れぬ。そのうえ、子飼いにわが帝国の裏切者達が多数いるからな。藪を突きすぎると第四皇子の二の舞になりかねぬ」
『影』達は再度一礼すると、その姿を溶けるように消した。それと同時に、宮廷魔導士達を連れた側近達が部屋の中へと慌ただしく入ってくる。
「……このままでは済まさぬ。だが、今はマルス様のお身体だ……!」
魔導士達がマルスの魔力暴走を封じ始めたのを見ながら、男は今一度奥歯を強く噛み締めた。
◇◇◇◇
「……なーるほど。それじゃあマルス兄上、そんな状態になってしまっているのか~」
北の離宮の一角で、そう口にしながらケラケラと楽しそうに笑っているのは、第三皇子であるセオドアだ。その傍らには大柄で屈強な体躯の男が一人佇んでおり、セオドアの言葉に同意するように胸元に手を当て、恭しく首を垂れる。
その風貌は人目を引く程の美丈夫であるのだが、顔全体に無数の傷跡が深く刻まれている。よく見てみれば、首元や手元など、肌が見える場所の至る所に、顔と同じく無数の傷跡が残っているのが確認出来た。
「はい、セオドア様。魔導士達の必死の治療により、魔力暴走はひとまず収まってはいるようですが、完治には至っておりません。……どうやらなんらかの要因で、魂が傷付いたのではないかと……」
「へぇ?そう言えば兄上の魔眼の能力、自分の魂を使って相手を支配する強力な精神支配系だったよね……」
そう口にし、セオドアは考え込むように黙り込んだ。
「今現在、マルス様は魔力循環が誤作動を起こしておられる影響で、お身体のあちらこちらから出血を繰り返されておられるようです。そのお苦しみようは、まるで地獄の業火に焼かれているようだと……」
「そうか……」
呟くように言葉を返した後、セオドアの口角が上がった。
「まったく……。この俺がわざわざ、「あの子を甘く見るな」って忠告しておいてやったってのに……。シリルもそうだったけど、誰もがあの国を甘く見過ぎなんだよ。あ、あの国というより、『あの子』をって言った方がいいかな?」
楽しそうにそう口にした後、セオドアの目がスゥッと細まる。その表情には、見る者を震え上がらせるような冷たいものが宿っていた。
そんなセオドアの姿を、男は静かな眼差しで見つめながら唇を開いた。
「セオドア様。これからどう動くおつもりですか?」
「ん~?別になにも動くつもりはないよ?馬鹿二人が勝手に自滅してくれた事だし。……シリルはなんか一皮剥けた感じだけど、まぁ、概ね良い流れだ。長兄は更に馬鹿だし、放っておいても勝手に踊って自滅するだろ。ってわけで、暫くは静観かな?……ふふ……。それにしても……」
セオドアは凭れていた長椅子から身を起こすと窓辺に立ち、真っ直ぐに本殿の方を見据える。
「魂に付けられた傷は、どれだけ力の強い魔導士でも癒せない。自分でなんとか治癒させるしかないんだけど、俺だったらそれまで耐えられないね~。それこそ狂っちゃうかも!ねえ、ゼン。今後も兄上の状態についての報告よろしく!」
「……御意」
振り向くセオドアとゼンと呼ばれた男の視線がぶつかる。
そして二人は、まるで示し合わせたかのように、うっそりと微笑み合ったのだった。
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今回、マルスのざまぁ回でした!
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