第439話 いざ!ヴァンドーム公爵領へ!

「エレノア!どうか無事に帰って来るんだよ!?危ない物は食べないでね!?珍しいものがあっても、フラフラ近寄らないように!それから……」


今現在、私達は早朝の王宮内にいます。


兄様方やセドリック、父様方、そして国王陛下方やアシュル様といった、王家直系の皆さんが一堂に介する中、アイザック父様が私をぎゅむぎゅむと抱き締めながら、先程の台詞を何度も何度も繰り返している。


……周囲の温度が生温かいものになってきているので、そろそろ止めて欲しいな父様。


「父様、大丈夫です!危なそうなものや、珍しい食べ物にも気を付けます。兄様達やリアム達もいるから安全ですよ。それに、私もいざとなったら戦いますから!」


「うん、絶対に戦おうとしないでね!?」


父様……。折角安心させようとしたのに!私だって、やれば出来る子なんですよ!?

あっ!集まってる人達全員、うんうんって頷いてる!酷いや!


ちなみに、ここにいないアリアさんはというと、王家直轄の領地内で発生した土石災害に駆け付けているそうです。(ヒューさんが今回同行出来なかったのは、アリアさんの警護があったからなんだって)

そしてマリア母様には、安定期とはいえ妊婦に心配かけられないからと、今回のヴァンドーム公爵領行きは内緒にしている。

母様の護衛役であるパト姉様には、さっきこっそり会いに行って抱き締めてもらいました。


昨日、私達は早速、ヴァンドーム公爵家に魔道伝書で、『よくも物質取りやがったな!?仕方がないので明日そちらに向かう。首根っこ洗って待ってろ!』……という文章を貴族言葉に変換して送信し、ヴァンドーム公爵領に行く為の準備や同行する人員の調整に入りました。あ、それと経路の確保も一緒に。


なんせ、ヴァンドーム公爵領に行くには、普通に馬車で行ったら往路だけで三日以上はかかるのである。


うちには八本脚馬スレイプニルのスレちゃんとニルちゃんがいるので、二日に時短出来るけど、試験休みは一週間しかないし、不測の事態に陥る可能性も考慮すると、一分一秒でも早くヴァンドーム公爵領に辿り着かなくてはならない。


だが生憎、バッシュ公爵領とは進行方向が真逆な為、転移門を使い時短する事が出来ない。

グラント父様の従魔ポチに乗って行くとのはどうだという意見も出たんだけど、いきなり古龍で乗りつけるなんて宣戦布告と取られかねないし、そもそも定員オーバーなので、あえなく却下。


「さて、どうしようか……」となった時、王宮から「ヴァンドーム公爵から王家に連絡がきた」との魔道通信が入ったのである。


その内容はというと、「普通にヴァンドーム公爵領うちに来たら、往復するだけで試験休みが終わってしまう。守るべき淑女や王家直系もいらっしゃるのですから、是非とも王宮と繋がっている転移門を使ってヴァンドーム公爵領にいらして下さい」……だそうです。


それ聞いた時、直情型のデーヴィス王弟殿下が『はぁっ!?その守るべき淑女と王家直系を強引に来させようとしてんの、てめーだろが!!』……と貴族言葉に変換することなく、直球で返事を返したんだそうなんだけど、対するヴァンドーム公爵はといえば『はっはっは!まあまあ。王家直系が来るのをおまけで許可したのですから、細かい事は言いっこなしにしましょうよ。それじゃあ宜しくお願いしますね♡』と言い放ち、魔道通信を切ってしまわれたのだそうです。


デーヴィス殿下、滅茶苦茶怒って「あの野郎ー!王家舐めてんのか!?今度会ったら絶対に〆る!!」と息巻いていたそうなんだけど……。ひょっとしたら父様含めた公爵家当主って、王家に対する『不敬』を行うのが伝統なのかもしれない……。


まあそんな訳で、ヴァンドーム公爵領には王宮からの転移門を使って行く事になった訳なんです。


実は『転移門』って、簡単に使えるものではないんだそうだ。


例えばバッシュ公爵家がヴァンドーム公爵領に転移門を繋げようとしても、きちんとした『誓約』を結ばないと弾かれてしまうんだって。


「自領に行く時や、バッシュ公爵領とうちのクロス伯爵領みたいに、互いの領主が誓約魔法を交わしていれば、転移門を使って行き来するのはとっても簡単なんだよ」とはオリヴァー兄様のお言葉です。


もし誓約を結ばないで転移門を使うとしたら、弾かれないように物凄い魔力と複雑な術式を組み合わせなくてはならないんだそうだ。

その難しさは、メル父様レベルの魔導師や、宮廷魔導師が複数人、全力をもってして、ようやく構築出来るレベルなんだって。

成程。『転移門使えばいいのに』って簡単に思っていたけど、そう言う理由があったんだね。


まあ、そりゃそうだよね。どこでも勝手に転移門使ってバカスカ行けたら、例えば暗殺や夜這いだってやり放題だし、プライバシーもあったもんじゃない。みんな不安で安眠出来なくなってしまうだろう。


そういえば、以前私を拉致したケイレブ・ミラー。


彼って実は、『天災級』と謳われているメル父様と同等の魔力操作の使い手であったのだそうだ。

でもそんな彼でさえ、転移門をすぐ構築する事は不可能だったとの事。


そんな制限がある中、国内の有事に対し、瞬時に対応する為、唯一転移門を繋げる事に『誓約』がいらない場所こそが王宮で、それを許可する事が出来るのが、国王に選ばれた者だけなんだって。

……そういえば、バッシュ公爵家と王立学院に転移門繋げる許可を出したの、国王陛下だったっけ。


でも勿論、出来るとはいっても、王家には『女神の誓約』という、私利私欲を禁ずる血の誓約が生まれた瞬間に刻まれるんだそうだ。流石は選ばれしDNAの頂点。ストイックさも鉄壁です。


……あれ?という事は、フィン様のあのフリーダムな転移門の乱発って、実はかなりレアなうえに、限りなくアウトに近いんでは……?


「うん。実はフィンにもちゃんと『誓約』をかけて、悪意を持って乱用する事が出来ないようにしているんだよ」


「あれでですか!?」


「うん、そう。あれで」


アシュル様の言葉に、オリヴァー兄様がショックを受けたような顔になった。


え~っと……。つまりフィン様、バッシュ公爵家にヒョイヒョイ現れたり、ジョナネェを一本釣りしたりと、色々やらかしているのって、本当に純粋に悪意なくやっている……って事なんですね?


「なんちゅうたちの悪さだ……!」ってクライヴ兄様が呟いていたけど、それ全面的に同意します。


フィン様……。将来悪意なく、私のベットの中やお風呂場に現れたりしないで下さいね!?お願いしますよ!?


ちなみにだけど、今回なんでフィン様使ってヴァンドーム公爵領に行かなかったかというと、流石に『裏王家』であるヴァンドーム公爵家と不可侵条約を結んでいる王家直系が、許可なく勝手に大人数や大荷物をサクッと運んでしまったら不味いだろう。という事です。


確かに、フィン様の『闇』の魔力はまだ畏怖の対象でもあるし、敵か味方か分からない相手に手の内を晒す訳にもいかないよね。


「エレノア、どうか無事で。オリヴァー、セドリック。頼んだぞ?」


「はい!お任せ下さい父上!」


「父上、我が身を賭して必ずや!」


今回、私達が王宮に来る前に、転移門を構築しておいてくれたメル父様が、アイザック父様から私をひったくり、ぎゅむぎゅむしながら息子達に釘を刺す。


「ってかよー!わざわざ転移門使って領地に行っても、確かヴァンドームの野郎の屋敷に行くのって、そこから船乗らなきゃいけねぇんだろ?俺がポチ使ってひとっ飛びした方が早くねぇ?」


今度はグラント父様が、メル父様から私を奪ってぎゅむぎゅむしながらそう口にする。

なんでもヴァンドーム公爵家本邸って、数ある無人島の一つに建てられているんだそうだ。凄い!流石は海洋領地!!


「いや。確かに直接行けたらいいんだろうが、あの島には、『ヴァンドームの直系』と一緒に船に乗らなければ上陸出来ないんだよ」


今度はなんと、国王陛下がグラント父様から私を奪ってぎゅむぎゅむすると、バトンリレーのように、デーヴィス王弟殿下に渡す。


「そうそう!一度試しに、フェリクスとレナルドが『水』と『風』の魔力を使ってあの島に行こうとしたけど、ダメだったんだよな?」


「ええ。見事に弾かれましたねぇ。フィンレーの『闇』の力をもってしても、あの島への上陸は無理でしょうね」


「空から行っても弾かれてしまいましたよ。そもそもあの島を守っているのは、普通の防御結界ではない。……多分だけどあの島は、『精霊の加護』によって守られているんでしょう」


『えっ!?せ、精霊の加護……!?』


フェリクス王弟殿下とレナルド王弟殿下が、私をぎゅむぎゅむしながら口にした言葉に、私の沸騰して湯気がシュンシュン出ている脳内が多少鎮静化する。


王家直系の力をも弾く加護って凄くない!?もしやその加護を与えている精霊って、精霊王クラスなのではないだろうか。


「……だからこそ、本当なら君を送り出したくなかったんだけどね……」


うひゃぁ!レ、レナルド王弟殿下の次はアシュル様ですかー!!


「だから、これは餞別代わりに持って行ってね」


「んぐっ!」


そう言って、アシュル様が私に深く口付ける。途端、ブワッと体中が温かくなった。……えっと、多分『光』の加護の口移しですね?ちょっと……いや、かなり恥ずかしいけど有難う御座います。


でもついでに、顔から火が噴き、脳天も噴火してしまいましたが……え!?ちょっ、まっ!ふ、ふかっ!深すぎますっ!アシュル様ー!!ストーップ!!……ううっ!あ、足の力が抜け……抜けていく……。


――バチバチバチッ!!


静電気が百倍弾けたような音にビックリして、霞んだ思考が正気に戻った。え!?い、一体何事!?


「殿下!長すぎです!!」


「アシュル!てめえ、どさくさ紛れに手ぇ出すんじゃねぇ!!」


「兄貴!それはちょっと許せねぇな!!」


「ってかさぁ……兄上。『光』の魔力で防御結界って卑怯じゃない!?」


……どうやらさっきの静電気は、オリヴァー兄様、クライヴ兄様、ディーさん、フィン様の魔力攻撃が弾かれた音だったようです。


「……お前達……。もしもの為に防御結界張っていたが、まさか本当に攻撃してくるとは……。全員、後でお仕置き決定!!」


アシュル様が、笑顔にでっかい青筋立ててます。


いや本当に貴方がた、王太子殿下に魔力攻撃って、何やってんですか!?……あ、セドリックとリアムの末っ子コンビ、めっちゃ不満そうな顔しているけど、一緒に攻撃していなかったんだね。流石にお兄ちゃんが恐かったか。


というか、国王陛下方!「はっはっは!若いな!」「昔を思い出しますねぇ……」なんて、呑気に言っていないで止めて下さい!父様方も、「よくやった!」とばかりに兄様方にサムズアップしない!


それとアシュル様!加護を下さるのは大変有難いですが、やり過ぎです!


お陰様で腰が抜けて、オリヴァー兄様にお姫様抱っこされる羽目になってしまったじゃないですか!オリヴァー兄様のご機嫌は直りましたけど、これ恥ずかしいし、ドキドキしちゃって大変なんですからね!もう!!


「さーて!それでは転移門を開くよー!」


メル父様の言葉の後、何も無い空間に夜空のような空間が広がった。


今回、ヴァンドーム公爵領に行くのは、私、オリヴァー兄様、クライヴ兄様、セドリックにリアム、そしてマテオ。更に、リアムの護衛騎士達と、バッシュ公爵家からはお世話係としてウィルとシャノンが同行する。

ミアさんも行きたがっていたんだけど、流石に何かあると大変だから、今回はお留守番。ミアさん、素敵なお土産持って来るから待っててね!


あ、勿論、バッシュ公爵家と王家の『影』も多数同行するそうです。王家側の『影』は、例の問題ありありな副総裁さんが来るとして、バッシュ公爵家からの『影』って、誰が来るんだろうか?そういえば私、バッシュ公爵家の『影』って、本邸のティルぐらいしか知らないんだよね。


いつか直接、「いつも守ってくれてありがとう」ってお礼言えたらいいな。



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ここから新章になります!

いよいよもって、青い海と苔ノアの待つヴァンドーム公爵領です!

次回は思わぬお出迎えが……?

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