第440話 ヴァンドーム公爵領に到着です!

「うわぁ……!!」


王宮から転移門をくぐり、到着したのは、綺麗に整備された船着き場のような場所だった。


そして目の前に広がるのは……海!!この世界に転生してから初めて見る海ですよ!!おおお……!!か、感動だ……!!


だが、海に興奮している私を他所に、他の人達は困惑顔を浮かべ、周囲を見回していた。


「迎えがいない?どういう事だ……」


眉を顰めるクライヴ兄様同様、オリヴァー兄様も厳しい表情を浮かべている。


「おかしいな。リアム殿下、指定されたのは本当にここで合っているんですよね?」


「ああ、その筈だ。俺もヴァンドーム公爵の魔導通信を聞いていたからな」


そんな会話が聞えて来た為、改めて周囲を見回してみる。


……確かに誰もいない。……いや、何故いないのか?港町なら、早朝こそ忙しいものだよね?漁船の水揚げとか。


それに、ヴァンドーム公爵領はアルバ王国と外国との交易における拠点。つまりハブ港的な役割を担っていると聞いた。なのに貨物船の一つも見えない。


あ、でも確か港って、貨物船、漁船、観光クルーザーとか、それぞれの用途によって、使う港が分かれているって前世で聞いた事がある。

ここには、小型や中型の美しい帆船があちらこちらに停泊しているから、ひょっとして貴族や裕福な商家などが使用する港なのかもしれないな。


その事をオリヴァー兄様に聞いたら、ほぼ私が考えていた事で正解のようだ。


それでも人っ子一人いないのは不自然だけど、多分私達を出迎える為に、ヴァンドーム公爵家が人払いをしているんだろう。なのに肝心のヴァンドーム公爵家の出迎えがないとは、これいかに?


『それにしても……綺麗な景色!』


爽やかに吹き抜けていく潮風、雲一つない晴れ渡る青空と眩しい太陽。そしてその太陽光を反射し煌めく、青と緑のグラデーションが美しい透き通った海。

海岸線に建つ建物は、どこも真っ白い建物で、まるで前世のギリシャのようだ。本当に、どこを見ても絵になる。


「エレノア、嬉しそうだね」


いつの間にか、また周囲の景色に見惚れていた私に気が付き、セドリックがクスリと笑って声をかけてくる。そんな彼に私は力一杯頷いた。


「うん!だってセドリック!海だよ海!!私、海見たの初めて!しかもその初めて見た海が、こんな綺麗だなんて……!」


そんなはしゃぐ私を微笑ましそうに見つめた後、セドリックも目の前の海に視線を向ける。


「そうだね。僕もここまで澄んだ色の海は初めてかもしれないな」


「俺は母上と一緒に、何度か来た事があるぞ」


「え、そうなの!?いいなぁ~リアム」


前世でもそうだけど、こんなに風光明媚な場所なのだから、リゾート地としても人気があるんだろうな。私も今度は是非、観光で訪れたいところだ。


「まあ、視察を銘打っての小旅行だったんだけど、父上や伯父上達がしっかり付いて来ちゃって、母上凄く文句言ってた」


リアムの話によればアリアさん、リアムと一緒にお忍びで港町を散策したかったんだそうだ。勿論、王弟殿下方がニッコリ笑顔でNGを出したそうで、アリアさんがブチ切れて、「帰る迄一言も口を利かない!」って宣言したんだそうだ。


「じゃあ折角の旅行だったのに、最後まで険悪な雰囲気だったの?」


「いや。父上達がシェフに命じて、母上がずーっと食べたいって言っていた生魚の盛り合わせ出させたら、すぐ機嫌治った」


食べ物で懐柔って……。流石はアリアさん。

……ん?待てよ。今リアム、『生魚の盛り合わせ』って……え!?


「な、生魚!?」


顔を紅潮させ、無意識にリアムに詰め寄った私の気迫に、リアムはややのけぞり気味に頷いた。


「あ、ああ。俺もあの時初めて生の魚食ったけど、結構美味しくてビックリしたよ」


なんでもそれ以降、このヴァンドーム公爵領では魚を生で食べるようになったんだそうだ。


でも生で魚を食べるのは、やはり鮮度が大事だし、まだ生食を忌避する人達が多いので、この領地で食べる事の出来る珍味扱いなんだって。そういえばこの世界、魚は大抵焼くか煮るかだもんね。


いや、魚の調理法は今はどうでもいい!それよりも何よりも刺身だ!


「じ、じゃあここでなら、刺身が食べられるって事だよね!?あああ……!ゆ、夢にまで見た刺身!!海の幸!!ひょっとして、海老の踊り食いなんかもたべられ……うきゃっ!」


「落ち着け、エレノア!!」


はっ!す、済みませんクライヴ兄様!つい魅惑的なワードに我を忘れてしまいました!


「で、でもだからって、ここに来てまで頭部鷲掴み!?また私の足、地面から浮いてますーっ!!」


クライヴ兄様、大切な妹に対し、あんまりな仕打ちじゃないでしょうか!?


「いくら身体強化を頭部にかけられるようになったって、痛いものは痛いんですよ!?」


「お前……。身体強化を無駄な事に使うんじゃねぇ!!」


「無駄じゃないです!私の頭のへこみ防止です!!」


「キリッとした顔で言ってんな!そもそもアホな事しなけりゃ、そんな無駄な努力なんぞしなくてもいいんだよ!!」


「む、無駄じゃないもん!前はこうなったら、痛くて話せなかったし!」


「だから!それが無駄な努力って言ってんだ!!話さんでもいい!反省しろ!!」


「うきゃー!!」


だいたい、ヘアセットが乱れたらシャノンが黙っていな……え?何のために帽子を被らせていると思ってんだ?そ、それって日焼け防止ですよね?え?違う?こういう時の為?


酷い!なんて鬼畜な!!帽子はお洒落と日除けに使うべきであって、鷲掴みする為のアイテムじゃないんですよ!?


「クライヴ兄様のバカ―!DV男ー!!」


「やかましい!お前の方こそ、他所の領地で醜態晒すな!!」


そんな私達を、その場の全員が生温かい眼差しで見つめている。以前はオロオロしたり、なんとか助けようとしてくれた騎士の皆さんやウィル達までもが、今ではすっかりお馴染みの風景となってしまったようで、助けようともしてくれない。


ううう……アルバ男の皆さーん、レディーファースター精神はどこ行ったんだー!?


「クライヴ。気持ちは分かるけど、それぐらいに……」


オリヴァー兄様が、微妙な助け舟を出そうとした直後、突然上から・・・声が降ってきた。


「リアム殿下、そしてバッシュ公爵令嬢。お待ちしておりました」


瞬時に、兄様達とリアムやマテオ、そして護衛騎士達が私を守るように体勢になりながら、声のした方向に向け、一斉に鋭い視線を向ける。


その視線は、私達の目の前の、一際大きく美しい白い帆船へと注がれていた。……って、え!?この船、いつの間にここに!?確かさっきまでなかったよね!?


皆もそう思っているのか、警戒レベルが臨界点を突破し、既に臨戦態勢に入っている。


そんな中、帆船から次々と人が飛び降りて来ると、私達の数メートル先に着地した。


「――あ!」


その着地した集団の先頭に立っていたのは、貴族の正装を身に纏ったベネディクト・ヴァンドーム公爵令息だった。


というか今の登場シーン、何気にカッコ良かった!子供の時に大好きだった戦隊ヒーローの登場シーンを思い出して、ちょっとワクワクしてしまいましたよ。


なんて事を考えていた私達の前で、ベネディクト君はなんと片膝を突くと、深々と頭を垂れた。


リアムとオリヴァー兄様も、直ぐに周囲の騎士や従者達に警戒を解くように指示する。


「リアム殿下。並びにバッシュ公爵令嬢。そしてオリヴァー・クロス伯爵令息。アルロ・ヴァンドームが五男ベネディクト・ヴァンドーム、当主である父の命により、皆様方をお迎えに参りました。……ですが、このような大役を拝したにも関わらず、皆様方をお待たせしてしまうという不手際を……。心より謝罪させて頂きます。なにとぞ、平にご容赦を……」


「よい、気にするな。その反省は今後に活かせ」


「ええ。エレノアも我々も、全く気にしておりません。間違いは誰にでも起こり得るもの。リアム殿下の仰る通り、それを今後に活かす事こそが重要かと存じます」


リアムとオリヴァー兄様の言葉に、ベネディクト君はその場から立ち上がると、再び貴族の最高礼を行った。

ううむ……。王家直系を目の前にして、臆することないこの態度。流石は三大公爵家の直系。見事なり。


にしても、己の失態を真摯に詫びているようで、『招待した者達』の名だけを口にするあたりがなんとも……。私より年下なのに、物凄く肝が据わっている。本当に凄いな裏王家直系。


兄様達やリアムもそう感じているのか、笑顔がめちゃくちゃアルカイックスマイル。勿論、顔を上げたベネディクト君が浮かべているのもアルカイックスマイル。……貴族って……恐い!


なんてボーっと考えていたら、ベネディクト君の視線が私に向いた。


こ、これは私の出方を待っている……?でも私、お貴族様の様式美なんて分からない。……よし!無難に挨拶しよう。


「ベネディクト・ヴァンドーム公爵令息。わざわざのお出迎え、心より感謝申し上げます。この度はリアム殿下だけではなく、私を含め、我が兄達や婚約者のセドリック、そして大切な友人までをもお招き下さった事、大変光栄で御座います」


笑顔でそう言った後、私はカーテシーを行う。


同じ公爵家の子弟とはいえ、相手は三大公爵家。なので格上の相手に対するカーテシーを行い、顔を上げる。


……あれ?ベネディクト君が目を見開いて固まっている……?お付きだろう後方に控えている方々も、何故か同様に硬直しているっぽい。あれ?カーテシー久々だから、どこか変だったかな?


チラリと兄様達の方を見てみると……あれ?全員アルカイックじゃないスマイルを浮かべている?


「ああ、良かった間に合ったぁ!ベティ~お待たせぇ!」


周囲の反応に戸惑っていた私の耳に、最近聞き慣れてしまった甘ったるい声が聞こえてきた。


湧き上がる嫌な予感を胸に、恐る恐る振り返ると……。案の定、そこには何故か何人もの自分の取り巻き達を従えたキーラ様が、満面の笑みを浮かべながら立っていたのだった。



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最後の最後で、例の人がキター!!Σ(゜Д゜)

そしてクライヴ兄様、帽子の使用方法間違っておりますv

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